105円読書 -48ページ目

白い部屋で月の歌を 著:朱川湊人

白い部屋で月の歌を

朱川 湊人:著
角川書店 ISBN:4-04-373501-4
2003年11月発行 定価580円(税込)








直木賞受賞作家、朱川湊人の、第10回日本ホラー大賞・短編賞を受賞した表題作ほか1編を収録した短編集。この作者に関しては、自分は今回が初めての挑戦。「都市伝説セピア」というハードカバーも先に入手していたのだが、こっちの方が有名なのと、文庫サイズで手ごろだったので、こっちを先に読んでみることにした。


白い部屋で月の歌を
ジュンは、霊能者シシィ姫羅木が行う除霊のアシスタントとしてをしている。シシィが除霊した霊魂を、一旦自分の体内に受け入れるのが仕事だ。ジュンにはそれが、霊たちが、まるで自分の中にある白い部屋に入ってくるように見えるのだという。ある日、生きているのに霊魂を抜けてしまった少女の魂を戻すという仕事の以来を受けたのだが、なんとジュンは、その生霊のエリカに恋をしてしまったのだ。

なんかお行儀が良い文章が鼻につくんだけど、色々とオチへの仕掛けがしてあるのでし方がないか?ただ、オチは想像の範囲内ではあった。ホラー小説ということだが、あまり怖さは感じず、せつない感じの物語。乙一とか好きな人は、この不思議な設定の物語も簡単に受け入れられるだろう。クライマックスは急にスプラッターになっちゃったような感じもするが…。


鉄柱 クロガネノミハシラ
久々里町という田舎町に引っ越してきた、雅彦と晶子の若夫婦。妻には内緒だが、実は雅彦の浮気が会社にバレて左遷されてしまったのだ。病弱で、子供を生めない身体の晶子と心機一転、やり直す気にはなっていた雅彦だが…なんとなくおかしな町の雰囲気に馴染めないでいた。さらに、町の広場にポツンと立つ鉄柱にまつわる恐ろしい風習が彼らを待ち受けていた。

田舎の閉鎖的な空気って、確かに不気味なものがある。そういう空気感がよく伝わってきた話。こちらも、怖さはもう一つだったが…生きるってなんだろうって、自分もちょっぴり考えてしまいました。「白い部屋で月の歌を」みたいに、企みがない分、読みやすい文章で、自分はこちらの作品の方が好きかもしれない。


直木賞獲ったヤツも、今に100円コーナーに出てきたら読みたい。「都市伝説セピア」を今度読んでみるつもりだけど、続けて同じ作者を読みたいって気持ちには、自分はならなかったので、また少し時間を空けてから挑戦してみる。






個人的採点:65点








九月は謎×謎修学旅行で暗号解読  著:霧舎巧【新刊購入】

九月は謎×謎修学旅行で暗号解読
霧舎学園ミステリ白書

著:霧舎巧
講談社 ISBN:4-06-182450-3
2005年9月発行 定価998円(税込)








久々に新刊で購入し、その小説を優先して読みました。これまた1年10ヶ月ぶりの霧舎学園の新作です。作者がシリーズ開始当初に、ポスト“金田一少年の事件簿”を目指すと言ってたのですが、まぁ軽いお子様向、ライトノベル的な読み物に近いかもしれません。表紙も相変わらずいかにもですし(笑)毎回、事件の手がかりを、本自体に仕掛けを施し、読者に謎解きさせるという趣向も段々とエスカレートしてきていて、作者の遊び心が窺い知れます。ただ、そんな作品でも、しっかりと本格ミステリーの王道を感じられるので、自分はこのシリーズを高く評価していたりもします。金田一少年と違って、どこぞの有名推理小説からトリックをパクったりしていませんからね(笑)

霧舎学園2年生の羽月琴葉と小日向棚彦は、学園理事長に命じられ、修学旅行先の京都、六角屋敷と呼ばれる倉崎家の豪邸で、暗号を解き、屋敷に隠されているという、財宝を探す羽目に。さらに時を同じくして…霧舎学園内では、自称探偵、霧舎学園3年の頭木保が“倉崎財閥の秘宝”という…事件性を匂わす怪しげな小説を発見し、その中に書かれている暗号解読に挑戦中だった!

これは、霧舎学園シリーズだけではなく…もう一つの霧舎巧の人気シリーズ“〈あかずの扉〉研究会”シリーズも読んでおいた方が、楽しみが倍増します。今までも、二つのシリーズを結ぶさりげないリンクをはっていましたが、今回は、けっこう作品全体のトリックに関わってきますので、読んでいたほうがいいでしょう。もちろん、霧舎学園しか読んでない人にも、楽しめるようにはなっていましたけどね。

作者があとがきで語っていたのだが、元々この作品で使う予定のトリックを、他の推理アニメで使われてしまったので、急遽、他の作品用に考えていたアイデアをぶち込んでしまったようです。ああ、あの仕掛けがそうなのかな?って感じです。その関係で…いつもよりページ数も分厚くなり、作風も、いつもの軽妙さが、若干薄れていましたし…トリックが妙に捻くれていた印象も受ける。

本格ミステリーマニアが好きそうな、薀蓄を謎解きに引っ掛けたりするあたりは、なかなか面白かったですけどね、霧舎学園しか読んでいない人には、主人公の琴葉のように、キョトンとしてしまう内容かもしれない。だからこそ、やっぱりコレは…推理小説好きの人がちゃんと読んだほうがいいと思いますよ、表紙や設定に騙されずに(笑)

本当に久しぶりのシリーズであり、この作品で語られる事件は、もちろん独立しているのだが、第一作目、四月から始まっている霧舎学園の数々のエピソードが、シリーズ全体に密接に関わりあっているので、そういうのを思い出しながら読むのに、ちょっと一苦労。脇役のキャラの役割とか、けっこう忘れてるし。前作、前々作の「七月は織姫と彦星の交換殺人」「八月は一夜限りの心霊探偵」なんかは、2冊同時リリースをしているので、作者にはもう少しペースアップをお願いしたいのがファンの心理でしょう。個人的には、正式な“〈あかずの扉〉研究会”の続きももっと読みたいのですが…。






個人的採点:65点







エスケープ! 著:窪依凛

エスケープ

窪依凛:著
文芸社 ISBN:4-8355-8844-4
2005年4月発行 定価1,050円(税込)









ちょっと表紙のカバーに惹かれました…ただ有名な作家じゃないし、文芸社っていうのがねぇ、ちょっとアレです…。窪依凛…そういえば積読本の中に「FLY」って本があったけど、まだ読んでなかったなぁ。

人を愛すること、人から愛されることが苦手な大学生の俊介…同じ大学に通う、幼馴染の留乃が、駅で怪しげな男に誘われているのに遭遇した。実は彼女は、幼い頃に病気で視力を失っている盲目なのだ…。嫌な予感を感じた俊介は…2人を尾行するのだが、気がつくと自殺志願者ばかりが集い、霊柩列車と呼ばれる列車の中で快楽殺人を敢行するイベントに参加する羽目になってしまったのだ…。

うーん、やっぱり文芸社。文章力があれば、きっともう少し面白いホラーになるだろうと思える、アイデアだけは持ち合わせているのだが、まったく怖さも何も感じません。 読者を驚かせようというオチは練られているのですが、そっちに集中しすぎではないだろうか?非現実的な物語の雰囲気を出すための、きっかけが甘すぎて…作品の中に入り込めない。霊柩列車に乗るまでが、とにかく手抜きで、全体的な緊迫感が全然出てこない。

とってつけたように愛だとかSEXだとか、語っているのですが…背伸びしているなぁって印象。

山田悠介とか好きなお子様には薦められるが…あの作家がなんで人気あるのか理解できない大人には、この人の小説も退屈でしょうがない。悪いけど、やっぱ文芸社…メジャー出版社から出すような作家には敵いません。これだったら、この前まで読んでいた辻村深月の方が文章力があった分、マシかな?






個人的採点:50点








冷たい校舎の時は止まる(下) 著:辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(下)

辻村深月:著
講談社 ISBN:4-06-182382-5
2004年8月発行 定価861円(税込)









ようやく上中下、全3巻読了…長かった(といっても、自分が読むのが遅かっただけだが)。多少は中巻よりヒートアップした物語だったが、まわりくどさは相変わらず。

仲間が少しずつ消えていく中で、相変わらず残されたメンバーは、未だに誰が自殺したのか、こんなことをしている首謀者は誰なのかを思い出すことができない。校舎内でとりこ残されたメンバーが、彼と彼女になってしまった時、ようやくホストの正体が!?そして驚愕の真相が待ち受ける…。

結局、自分には退屈な物語でした。一つ目の大仕掛けは、案の定、ある映画のような内容で新鮮味なし。これだけ長いことかけてキャラクターの人物を描きこみすぎた反面、どんでん返しのトリックが完璧、途中でネタバレしているのも、つまらないと思った原因の一つ…。あれだけ長い話なんだから、切り札は最後の最後まで、読者に気づかれないほうが、好ましい。また…後半で、綺麗に落とし前をつけようとするのも、自分にはダメでした。特殊な物語だけに…もう少しあやふやな部分を残し、読者の想像に委ねるといった手法でもよかったのではないだろうか?

多分、相当長い期間かけてこのデビュー作を書き上げたのではないだろうか?上巻と下巻では、まるっきり文章力の上手さが違うのは実感した。ところどころ、怖がらせるためのホラー的な描写だったり、わくわくさせるエンターティメント性…それこそ若者たちの心情などは上手に描けているが、物語のテンポが自分には良いとは思えなかった。

過去の作品に色々と影響を受けたというのがわかる。綾辻行人だってデビュー作は、完璧クリスティの真似だった。それは仕方がないことだと思う…二番煎じ、三番煎じであれ、ああいう設定を考えたついたという発送の奇抜さ、文章力は認めるので…次作以降に期待したい。とりあえず、他の人が認めているほど、大絶賛するほどの作品ではなかったというのが感想です。






個人的採点:60点 三作トータルだと…中巻のマイナスがあるから55点くらいかな? 






冷たい校舎の時は止まる(中) 著:辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(中)

辻村深月:著
講談社 ISBN:4-06-182378-7
2004年7月発行 定価840円(税込)









久しぶりの更新です…知らないうちに読者登録も増えていました。ありがとうございます。実は、上巻を読み終わった直後に、中巻も数十ページ、読み始めたのですが…ぶっちゃけ、上巻同様展開の遅さにまいってしまい…途中でほっぽり投げてしまいました。まだ、思い出話を続けるのかよ!って感じ?決して、文章がヘタクソってわけじゃないんだと思うんだけど…こっちが求めていた内容じゃない。登場人物2、3人削って、内容を省略してもいいんじゃないかなんて思い始めたり。しかし、中途半端で他の作品にうつるのも気分的に嫌だし、まだ下巻が残ってるしで…読書という行為が止まっている状態だったんですけど、そうこうしているうちに月も変わって9月になっちゃったし、相変わらず100円コーナーで見つけてきた本は増えているしで、これはイカンと、昨日から読書を再開しました。

校舎に閉じ込められてしまった8人の生徒…相変わらず不可解な状況が続くが、変化が起きる!件の自殺事件の真相を思い出した人物が、一人ずつ消えていくのだ…。残されたものは、未だ真相にたどり着けず…過去を思い出し、議論を繰り返し、脱出方法を模索する。次は誰が消されるのか?消された人物はどうなってしまったのか?生徒たちを徐々に恐怖が襲う…。

って、ホラーっぽくあらすじを書いてみたけど、全然話が進まねぇ。思い出話がいったりきたり…色んな登場人物の視点で、同じ時期のことを語ったりするので、似たような話が重複したりねぇ。誰が好きとか嫌いとか、イジメがどうのこうのって議論を繰り返すばかり。途中から消えていくパターンもわかっちゃうので、最初ほどスリルも味わえないし。

好きな人はけっこう誉めてる作品なんだけど、ゴメン…自分には途中から苦痛だった。上巻の評価は甘すぎたか?状況が一変するような、盛り上げ方の上手さなんかは充分に感じるんだけど、そこへいくまでのジワジワと周りから攻めていく感じが、非常にまだるっこしい。同じ長い作品でも、たとえば綾辻行人の「暗黒館の殺人」なんかだったら…謎と、その解明のせめぎあいがバランスがよく、ずーっと作品の中を彷徨っていたって気持ちにさせるんだけど、そこまでの魅力が感じられない。まぁ、デビュー作を綾辻と比べるほうもどうかしているけど、ある一箇所に閉じ込めらた、登場人物がどんどん減っていくという本格ミステリーっぽさは影響を受けているはずだ。実際問題として、殺人事件とか起きているわけじゃないんだけど…会話なり、文章から犯人探しをさせようって魂胆も理解できる…けど長い!

自分にはリアルな高校生って題材が、もうダメなのかなぁ?ミステリーじゃなくても、若い作家が書いた、学生時代の青春ものって、懐かしい気分になって、けっこう好きな筈なんだけど…。これから下巻…更新が10月にならないように(爆)、早めの読了を目指します。中巻の独立した採点としては、結局…テンポが悪かったので低めにしておきます。まぁ、中巻だけ読む人なんかいるはずないけどさ…。物語にダレ場は必要だ…このダレた気分を帳消しにするような結末、オチに期待しましょう…。






個人的採点:50点








冷たい校舎の時は止まる(上) 著:辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(上)

辻村深月:著
講談社 ISBN:4-06-182375-2
2004年6月発行 定価819円(税込)









講談社ノベルス…メフィスト賞受賞の辻村深月「冷たい校舎の時は止まる」上中下巻を一気に入手できたので、読み始める…。またまた不可解なジャンルの作品だなぁ…。学園ミステリーっぽいのだが、ただの推理小説ではない仕掛けがしてある。オカルト・SF的であり、ホラーの要素までちゃっかり入っている。それでいて学園ミステリーの王道のような世界観。まだ上巻なので…仕掛けの正体は明かされていないのだが、作中人物たちの推論が正しいのであれば…。

ある雪の日…自分たちが通う高校に閉じ込められた8人の男女。8人以外に誰も存在しない…校舎では、何故か5時53分で時が止まっている…。不可解な状況の中で…8人の生徒たちは2ヵ月前の文化祭で起きた同級生の自殺事件のことを思い出す。しかし、肝心の誰が死んだかが一向に思い出せないのだ…。一体、誰が8人を校舎に閉じ込めたのか?何が起きているのか?

はは~ん、元ネタは、あのアニメ映画だな?多分、そうだと思います。キャラクターたちが異変に気づくきっかけとか、描写がソックリだし。おまけに、文化祭が大事なキーワード…。仲の良い友達と過ごす、楽しい高校生活がいつまでも続いていたらいいなぁっていう…人間1回くらいは考えそうな願望を描きながら…それとは対照的な高校生ならではのドロドロした人間関係の悩み、痛い青春を、学園ミステリー仕立て暴いていくという感じか?

絶対に核になっているアイデアは、あのアニメだと思うのだが…さらにエヴァ系のアニメに影響を受けたような感じもするよ。

なかなか目の付け所はよく、物語は面白いのだが…いかんせんテンポが悪く感じるなぁ。だって、話が完結するまで、あと2冊あるんでしょ?ある程度、ネタがわかっちゃってるのに、こういう状況を作り出した犯人探しをするのに…まだ色々と引っ張りまわすのかよ?って…上巻を読み終わった時点で思います。中巻、下巻でのテンポアップと、予想を裏切るような展開を期待したいと思います。上巻の最後の2、3ページは、次巻への期待感は高まるような終わり方をしていたが。詳しい評価は、下巻を読んでからじゃないと下せないですよね…。

続けて中巻読み始めます…。






個人的採点:60点








ファントム アイン 著:虚淵玄+(有)リアクション

ファントム アイン
ファントム アイン
PHANTOM OF INFERNO


虚淵 玄+(有)リアクション:著
角川書店 ISBN:4-04-427801-6
2002年6月発行 定価630円(税込)








ライトノベルってカテゴリーを作ればいいんだろうけど、意地になって、ミステリーに当てはめようとしています(笑)ハードボイルドでもよかったかなって雰囲気もあるけど…当ブログでは“ミステリーその他”ということにしておきます。同名ゲームソフトのノベライズということなのだが…ゲーム好きの友人から、銃器描写などがリアルで面白い作品だと聞いた事を思い出して読んでみた。

アメリカ旅行中にマフィアの殺し屋による殺害現場を目撃してしまった少年は…記憶を消され、組織の凄腕の殺し屋に仕立てられてしまう!彼を一人前の殺し屋にすべく、訓練を任されたのが、“ファントム”という名の例の殺し屋なのだが…正体は少年と同年代の少女だった!?

元々はエロゲーだそうで、後半は萌え系要素が増えた感じもしたが…エロゲーに興味がなくても、アクション小説として楽しめるレベルか?少年・少女版「ニキータ」+「レオン」…。記憶喪失といった設定も適当っぽかったり…たまたま主人公が殺し屋としての素質があったという点も…ゲームではいいかもしれないが、小説で読むと薄っぺらな感じがしないでもないが、テンポはよく飽きないで読めた。

著者があとがきで語っていたが、銃器描写などは、あえて省略した部分もあるそうだ。それでも…充分ガンアクションの醍醐味などは伝わってきたので、さぞかしゲームの方はマニアックなものなのだろうなぁと想像しています。ちょっとプレイしてみたい。

知らない人間が読むと、この本で終ってもいいかなっておもうのだが…ゲームでいうと途中までしか小説化されていないそうで…続編があるそうです。また、ブックオフの100円コーナーで探してきます。






個人的採点:60点







推理小説 著:秦建日子

推理小説

秦建日子:著
河出書房新社 ISBN:4-309-01686-3
2004年12月発行 定価1,680円(税込)









TVドラマの脚本家として活躍する著者が初めて書いた小説だとか…。ズバリ「推理小説」なんて、デビュー作にして、恐ろしく大胆なタイトルをつけたものである。カバーに、業界のお付き合いか…俳優・阿部寛の推薦文なんか載っていたりするのだが…TV業界人が書いた小説というのが、嫌な予感。

なんの面識もない女子高生とサラリーマンが…同時刻、同じ現場で殺された。現場には「アンフェアなのは、誰か」と書かれた、本の栞が落ちていた。これは犯人からのメッセージなのか?そんな中…文学賞の受賞パーティーで出版社の編集者が殺され、同じような栞が発見された。これは連続殺人なのか?そんななか…犯人と思われる人物から「推理小説 上巻」という小説が、警察と出版社宛に送られてきて、中には実際の事件の様子が詳細に記載されていた。さらに次の事件の予告まで書かれている始末。さらに…「事件を防ぎたければ小説の続きを落札せよ」というメッセージが犯人から言い渡されるのだった。

確かに脚本家という職業なので…ストーリーのアイデアは面白いところをついてきていると思うのだが、やはり文章に魅力が感じられない。前に読んだTVの放送作家が書いた「プレイヤーズ」というSF小説同様、やたらとセックスを連想させる言葉を使えば、読者が喜ぶと勘違いした節が強く感じられる部分があり、不必要に下品な言葉を比喩に使うのが好ましくない。また…本職の推理作家という職業の人たちへの敵意が感じられる内容。それを越える作品が書けるのは自分だと誇示する犯人が、そのまま作者自身に当てはまるのではないだろうか?作家デビューというものに拘りすぎている。

文章の構成などは読者を挑発してやろうと、やたらと複雑に計算し尽くされているのがわかりますね。騙してやろうという悪意がにじみ出ているというか。ドラマなどで培ったテクニックなのかな?

出版業界、推理作家…さらに読者をも挑発しようとしている姿勢はいいと思うが…デビュー作一発目にこれを持ってくるのは、ちっと荷が重すぎたのではないだろうか?キャラクターなどが、やっぱり薄っぺら。それこそ、ドラマの脚本を読んでいるような感じだった。きちっとした演出家が映像化したら、浅野温子あたりが似合いそうな女刑事ものの、いいドラマになると思いますよ。






個人的採点:55点








サリバン家のお引越し〈クレギオン4〉 著:野尻抱介

サリバン家のお引越し〈クレギオン4〉

野尻抱介:著
早川書房 ISBN:4-15-030758-X
2004年5月発行 定価714円(税込)









かつて富士見書房で出版されていた野尻抱介の“クレギオン”シリーズが、ハヤカワ文庫で再リリース。富士見文庫版だったら、100円コーナーでも集めやすいのだが、やっぱり1~3をハヤカワ文庫版で買っちゃったので、コツコツ、こっちで集めています。中身は同じなんだけど…ハヤカワの表紙の方が、オタクっぽくないので(笑)

航法士のメイが惑星フラードルで偶然に出会ったサリバン一家のコロニーへの引越し業務をする羽目になったミリガン運送。ロイドはいい機会だからと、メイにミッション・ディレクターを任せるのだが…彼女の前には予想だにしなかった無理難題が積み重なることになる。無事に引越しは完了するのか?

ガンダム世代なんで、コロニーの描写とか、比較的容易に想像できますね。著者もあとがきで、コロニーの形状はガンダムと同じオニールの島3号型を基にしたと語っていた。

宇宙のお引越しというアイデアは面白いのだが…話の重点はサリバン一家のパパとママのギクシャクした夫婦関係についてが重要になっている。仕事一筋のパパに構ってもらえないママは、コロニーなんかへ引っ越したらますます相手にされなくなると思って、どうにか引越しを阻止しようと無理難題をふっかけられる。それに巻き込まれちゃったのがミリガン運送の面々というわけです。宇宙よりも夫婦愛の方がミステリアスである(笑)

しかしながら、3巻の「アンクスの海賊」に続き、メイちゃんの大活躍という、ドタバタも忘れていなくて、コロニー内のドッグファイトなど見せ場は満載。最後は凄いことになってたけど、後始末がどうなったのか気になるなぁ…。





個人的採点:65点








キマイラの新しい城 著:殊能将之

キマイラの新しい城

殊能将之:著
講談社 ISBN:4-06-182391-4
2004年8月発行 定価882円(税込)









講談社ノベルスから出ているものに関しては全て読んでいる殊能将之作品。名(迷)探偵・石動戯作シリーズ。デビュー作の「ハサミ男」の後、この石動シリーズが始まってからは、毎回のようにヘンテコなミステリーを考え付く殊能将之だが、今回も750年前の中世ヨーロッパの幽霊が主人公っていうからぶっ飛んでいる。

テーマパークを経営するアミューズメント会社の社長が、幽霊に取り憑かれた。しかも、その幽霊は…生前、何者かに殺されたらしい。会社の幹部連中は、社長の狂言ではと疑う一方で、探偵を雇い入れて750年前の殺人事件を解決しようとする。依頼を受けた探偵・石動戯作は助手のアントニオは…テーマパークを訪れるのだが、待ち受けていたのは本当の殺人事件だった!

ミステリーとしては、どこまで本気なのか?ふざけた内容で、毎回バカミスの類いに近い印象を受けるのだが…作中人物の探偵・石動同様、茶目っ気たっぷりの作風が意外と魅力的だったりもする。

このシリーズの「黒い仏」あたりを読んでいると、何が起きても驚かなくなる(笑)フランス人の幽霊エドガーが…社長に取り憑いているという視点で描かれるくだりなど、ジャン・レノのフランス映画「おかしなおかしな訪問者」(ハリウッドリメイクは「マイ・ラブリー・フィアンセ」)を彷彿とさせる、カルチャーギャップ・コメディのようなおかしさだ。

もちろん、推理小説として犯人探しも楽しめるし…奇妙奇天烈な推理の披露もミステリの醍醐味を存分に楽しめるから、この作者は侮れない。






個人的採点:70点