トカジャクソン 著:戸梶圭太
- トカジャクソン
戸梶圭太:著
光文社 ISBN:4-334-92405-0
2003年9月発行 定価1,680円(税込)
忙しくて本も読めなかったし、ブログも書けませんでした。20日ぶりの更新ですが、さぼっている間に何人かの方に読者登録をしていただいたり、コメントをいただいたり、ありがとうございました。
さて、今日から仕切りなおしで、なるべく本を読もうと思います。で、前回に続き戸梶を読みました。短編集です…いつも以上に変な小説です(笑)とりあえず、お馬鹿すぎて笑えるのですが、個人的にはもうちょっと真面目な要素が入っている戸梶作品の方が好きです。前に「トカジノフ」という短編集を読んだことありますが、あっちの方が面白かったです。この短編集の作品は、どれもやりすぎだっちゅうねん、戸梶センセ!?きっと簡単なあらすじとか書いても、読んでない人には内容が伝わらないでしょうね(爆)
涙でベストセラー
弱小出版社の新しく就任した社長に「ベストセラー」を出せと言われた社員一同。ネタを探すのではなくて、作れということで、アイデアを出し合い、お涙頂戴感動秘話満載の、偽のノンフィクション自伝を考え出すのだが…。
ろくな内容じゃないのに、ブームを築いてしまうベストセラー本。そういった世間の風潮をギャグという形で皮肉っていて、面白いのだが…何故かラストが近づくにつれ、アクションホラー風になってしまう。
Alexander
殺人事件の捜査中にも関わらず、捜査本部長が変わるという。後任はどうやら公安らしいという噂が流れ始め…実際にアレキサンダーと名乗る公安外事二課のアレキサンダー警視がやってきたのだが、なんと警視は猫だった。彼の推奨する猫式捜査術を実践すれば、どんな難事件も瞬く間に解決するという…。
ニューニュー言ってて意味不明。殺人事件のはずが…知らず知らずにスカイアクションへ(笑)どこまで飛んでいくのか、ネコ警視。一番面白かったのは、レンタルビデオの履歴を調べるところかな?
映画監督ゆみこ
映画監督志望のゆみこは、水商売で貯めた1,278,513円でビデオ映画を作ることに!カメラを買い、助監督のデイブを従え、「アクション映画」を撮るという。偶然出会ったジーン・ハックマン似の謎の男を俳優として無理矢理スカウト…撮影中に起きた爆弾テロも映画の一部に利用し、どんどん撮影は過激になっていく!
ノリの良さは、この本の中で一番かな。どこまでいくんだ度も、その代わり半端じゃなかったけど(笑)これ、実際に著者の手で映画化(ビデオ撮影のアマチュア映画)されて上映されたらしい…映像化できたのかよ本当に?
110番通報倶楽部
東京110番通報倶楽部…どんな些細な犯罪でも警察に通報し、逮捕に貢献すれば倶楽部での地位がどんどん上がっていく。また、毎年1回行われる…年間110番通報大賞を受賞すれば、賞金も出るのである。なんとしても、賞を受賞したい会員の神谷康太郎は、ライバルを牽制しながら…手柄を立てようと奮闘する。
戸梶作品って血気盛んなジジイがよく出てきますよね、これもそんな1本。実はジジイとババアのラブストーリーだったりするからビックリ。お願いだから、これは映像化しないでください(爆)
君に会いたくて
小劇団の売れない舞台演出家、団長の奥野は、ステージを見に来ていた美女、かおると出会う。後日、バイトの休憩中にかおるから携帯に連絡が…。夢中で話し込む奥野だったが、そこへ一台の車が突っ込んできて、はねられてしまう。幸い大事には至らなかったが、事故を口実にバイトをサボり、かおるとデートしようと考えた奥野は、車の運転手を脅し、かおるとの待ち合わせ場所まで連れて行くよう命令する!
演劇系の話なのかなって思ったら、最初のフリとは全く関係のない方向へストーリーは暴走…。次から次へと変な登場人物があらわれ、大団円を迎える。キャラクターが多すぎて、愛しの君に会いに行く奥野の存在をすっかり忘れてしまうのが、ちょっとマイナスか?
木岐ノ町貝塚組
山の中でヤンキー仲間をリンチで殺してしまった伸之たち…一度は逃げ帰ったが、死体をそのままにしておけないと思い再び現場に戻る。しかし、今度は伸之本人が死体と共に埋められてしまった…首だけ土の上に出した状態で。殺されるのかと思った刹那…人の声が近くで聴こえ、伸之をそのままにして仲間たちはまた逃げていってしまった。一人残された伸之が目撃した光景は…同じようにヤクザ者に地中に埋められた老人だった…。
埋めたヤツラの末路も凄いことに…。内容はともかく…一応オチはつき、暴走したままで終っていないところが救いか?
歌舞伎町スラッシュ
容疑者を尾行中の公安刑事たち…他の警官たちには理解できない符牒が無線を飛び交っていた。一方…家族でドン・キホーテに買い物来たが、痴呆の祖父とはぐれてしまった永井一家…心配する父と娘をよそに、母親は不倫相手の若い男のことを考えてばかり。そして肝心の祖父は…歌舞伎町を徘徊中に、バッタリと昔の恋人に出合ったのだが、相手のことを理解していないようすだ…。
一見、バラバラにみえた物語が、歌舞伎町という舞台でピッタリと合致する…。公安刑事の意味不明な符牒だらけの冒頭を読んだ時は、最後までこのテンションなのかと絶句しかけたけど…途中からなかなかスリリングな展開。戸梶作品には、よく登場する…別のものを追っているキャラクターたちが、それぞれ交差して新たな物語が生まれるという、タランティーノ映画チックなノリの作品。短編なので、この手法を描かれた長編に比べると、カタルシスが薄い。
ジャック・ザ・ナスティー
類い稀な美貌の美形裁判官、白鳥亜津摩…そのルックスの良さからマスコミでも取り上げられ、女性ファンから圧倒的な支持を得る。それだけではなく、彼の下す判決はどれも奇抜であり、注目を集めていた。
普通なら有罪確定みたいなヤツを、ヘンテコリンな理由をつけて無罪放免にしちゃったりするんだけど…裁判の矛盾点を戸梶流の解釈で皮肉っているのかなって思っておきますか。
いたずらクルッパー
薬の売人・大橋は…金をちょろまかしていたのがバレ、元締めの細野に呼び出された。許しを得ようと必死に懇願すると…「なんでもいいから俺を気持ちよくさせろ」と言われた。追い込まれた大橋は、思わず「切腹します」と言ってしまい、本当に腹を切らされてしまうのだが…なんと、割いた腹の中から、「クルッパー」という泣き声と共にイルカみたいな生き物の頭が出てきた!
えっ、ホラーですか?エイリアンみたいな生き物が人間の腹の中に寄生していたって話しみたいだけど…。その場違いな行動と、相変わらず容赦ないグロテスクな描写が、不思議な可笑しさを誘う。ただ…物語的には、やはり意味不明な感じ?奇妙な雰囲気を楽しむだけかな…。
好みなのは「映画監督ゆみこ」と「歌舞伎町スラッシュ」かな?
個人的採点:60点