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迷走なのか、迷走の忠実な反射なのか ~第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~

須々木です。

第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展に関する雑感です。

ちょっと日が経ってしまいましたが、毎年それなりに書いているので、今年もつらつらとまとめておきたいと思います。


今回の内容は、去年の記事とリンクしたところも多いので、先に去年のブログの記事に目を通してもらえるとわかりやすいと思います。


 ▽第15回の雑感 → メディア芸術祭に行って思ったことなど
 ▽第16回の雑感 → とりあえず忘れないうちに走り書き~第16回文化庁メディア芸術祭
 ▽第17回の雑感 → 偏在する相転移 ~第17回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~





◆個別の作品について◆


さて、まずは、今回並んでいた作品の中で、それなりに気になったものに触れていこうと思います。

展覧会に行っていない人は、公式サイトの受賞作品情報に目を通してから読んだ方が良いと思います(ここでは作品そのものの説明はほとんどしていません)



「これは映画ではないらしい」 (アート部門/優秀賞)

「動画は静止画の連続である」という常識を否定してみせたインパクトがとにかく大きい作品でした。
「○○とは、××である」と言われ刷り込まれた事柄(定義ではないのに、定義のように振る舞う命題)に、本当は他の解がありうるということは、頭では理解しているつもりでも、それを現実に目の当たりにる機会、実感する機会というのはそんなに多くありません。
その点で、非常に貴重な体験を提供してくるすぐれた作品だと思いました。


「Drone Survival Guide」 (アート部門/優秀賞)

「ドローン」(無人航空機)という言葉を聞く機会は、ここ一年くらいで急激に増えてきたように思います。
当然のことながら、最先端のテクノロジーの結晶であり、その有用性は考えれば考えるほど膨らんでいきます。
一方で、これまた当然のように、その潜在的な危険性についても、いくらでも挙げることができます。
しかし、そんな急激な広がりと一般人の認識には、しばしば時間的なギャップが発生し、誰もがドローンの普及した社会の具体的なイメージを抱けているかといえば、そうではないはず。
「個々のドローンの情報、そしてそれらの偵察や攻撃から身を守る手段をまとめたパンフレット」を柱とする本作品におけるキーワードは、「具体」だと思いますが、どこかSF的(すなわち、フィクション的)なイメージのある「ドローン」にリアリティーを添加しています。
人が能動的にアクションを起こすためには、そのトリガーとして、具体的なイメージ(リアリティー)が必要だと思いますが、本作品はそのような視点を思い起こさせてくれます。
正直なところ、これを見て「ドローン」対策のために行動を起こす気になるほどではありませんが、「このような視点から物事を“考える”」というアクションのトリガーとしては、一定の役割を果たしうると思いました。


「Symbiotic Machine」 (アート部門/新人賞)

本作品は、池などの藻類の光合成によりつくられるエネルギーを活用して動作するバイオマシンで、自然環境との「共生」というのが一つのポイントとなっています。
この点を評価する贈賞理由はもっともだと思う一方で、会場で見ながら感じた率直な意見を述べておきます。
それは、科学(この場合は、おそらく工学系)の普通の学会にならべられるパネル展示と大差ないというものです。
これが「芸術系」の場に存在することに、感覚的な違和感がありました。
科学と芸術の境界に位置する領域と言えばそれまでですが、本作品については、境界までまだ何か足りていないのではないか、と感じました(オブジェクトのデザインの問題なのか?
本作品は機能美に偏っていて、造形美にこだわりがあるようには見えなかった)。
個人的に、サイエンスは大好きなので、そういう意味で非常に興味深くてまじまじと見てしまいましたが、これを「メディアアート」と呼ぶのか?
というか、「サイエンス」は「メディアアート」に包含されているという関係と捉えるべきなのか?
そんなことを考えさせられる作品でもありました。


「Ingress」 (エンターテインメント部門/大賞)

エンターテインメント部門の大賞は、近年、かなり大がかりで、ほとんどの場合は、ワールドワイドな広がりを持っています。
必然的に、企業が絡む大型企画の受賞が続いています。
今回はGoogleのモバイルアプリケーションです。
作品において、物理的な大きさや、広がりというのは重要な要素であり、ある意味で必然の流れとも言えますが、この部門の大きな傾向となりつつある感はあります。
だからこそ、今後その流れをぶった切る異端児のような作品が現れることを密かに期待しています。
作品そのものについては、僕自身やったことがないので割愛しますが、とても有名なものなので、ネット上に大量に関連記事があります。
興味のある方はそちらをどうぞ。
個人的に思ったことを言っておくならば、「技術が進歩して想像されていたものの一つを具現化させた」という感じです。
発想そのものは全く新しいところはなく、重要なのは、現実の人間を巻き込むことに成功したという点でしょう。


「のらもじ発見プロジェクト」 (エンターテインメント部門/優秀賞)

これはもう単純に、「フォント萌え」なんだなと。
野良猫のように、そのへんの街角に見られる手書き文字(野良文字)の魅力に迫っていく作品でした。
これは、コンセプト自体も面白かったし、企画内容も非常にしっかりしている印象です。
フォントデータとして利用可能とし、それをもとの文字の持ち主に利益還元していくというのは、後世に伝え、同時に一次制作者の役に立つという、極めて優れた仕組みで、類似の動きが広がりを見せると良いと思います。
スタートはただの個人的な「萌え」だったのだと思いますが、それをしっかりと練り上げて、確かな存在意義を与えた点は、高く評価されるポイントだと思いました。
膨大な「萌え」が氾濫する現在において、そこから頭一つリードするために参考になるアプローチだと思います。


「handiii」 (エンターテインメント部門/優秀賞)

3Dプリンターとスマホを活用した、安価でデザイン性に優れた筋電義手です(もしくは、これを広めていくための一連の活動)。
会場に実物が並んでいたわけですが、まずそのメカニックで普通にカッコいいビジュアルは、かなりたぎるものでした。
そして、人によっていろんな作品等が頭によぎったのではないでしょうか。
「攻殻機動隊」に登場するようなサイボーグ的なビジュアルの義手であり、「鋼の錬金術師」のようなカッコいいオートメイルのイメージにも近いコンセプトです。
義手や義足は今後の技術革新が大きく期待される分野で、オリンピック(パラリンピックではなく)でも、走り高跳びなどは、将来的に義足の選手の方が記録を伸ばせるとも聞きます。
そのような社会の流れにも対応しており、時宜にかなった作品です。
また、3Dプリンターという非常に強力なツールのプラスの側面を見事に具現化したものだとも言えます。
そして、スマホを制御装置として活用し開発、製造コストを下げたのもスゴイことです。
スマホは、電話の発展形ではなく、コンピューターの派生形なんだと改めて感じるところです。
いろんな要素をギュッと凝縮させながらも、その根底にしっかりとアート的発想が根差している点も良いと思いました。


「5D ARCHIVE DEPT.」 (エンターテインメント部門/新人賞)

福岡・九州朝日放送の地域プロモーションTV番組として制作された映像作品です。
そのテーマは、「伝統的な音」というものですが、各地に残る昔ながらの生活を感じさせる伝統的な音、空間に、九州発のアイドルが歌って踊るという要素が加えられ、さらに未来から来た美少女キャラクターがそれらを記録し後世に残すという、字面だけ追うとなかなかカオスな企画です。
しかし、実際の映像は非常にセンスに溢れ、目でも耳でも楽しめるし、心地よいし、適度に刺激的なものでした。
これだけ盛りだくさんなのに、詰め込み感はなくて、非常にうまくまとまっている点は、ある意味で驚きです。
現在、過去、未来の日本の要素を詰め込み、しかも「メディアアート」「エンターテインメント」としてしっかり成立している優れた作品だと思いました。



「アニメーション部門」と「マンガ部門」については、ここではあまり触れませんが、それぞれの大賞は以下の通りです。


「The Wound」 (アニメーション部門/大賞)

ロシア人による短編アニメです。
この部門の大賞は、あまりはっきりした傾向はないように感じます。
近年も、日本の劇場長編アニメ、日本のテレビアニメ(まどマギなど)、海外の長編アニメ、そして今回のような海外の短編アニメ。
なお、本作品は、商業色がかぎりなく皆無、完全にアートよりの作品でした。
個人的に強く惹かれるものではありませんでしたが、アニメーションの多様性を感じるものでした。


「五色の舟」 (マンガ部門/大賞)

マンガ部門も、まったく傾向不明です。
一昨年はじめて海外マンガが受賞したと思ったら、昨年はジョジョ、そして今年はなかなか重みのある(あまり大衆的ではない)作品です。
今年のマンガ部門は、全体としてちょっと文学的(女性的感性が強め?)のものが多めの気がしましたが、本作がその筆頭かと思います。
そして、特筆すべき点は、マンガ原作でない作品が大賞を受賞したということかもしれません(はじめて?)。





◆全体の印象◆


まずは、はっきりと書いておきましょう。

完全に個人的な意見ではありますが、今回のメディア芸術祭受賞作品展を見た率直な感想は「以前と比較して、かなりつまらない」というものです。


昨年のブログでは、「エンターテインメント部門」、「アニメーション部門」は面白かったが、「アート部門」はそれまでと比べて微妙というふうに書きました。

今年については、「アート部門」は引き続きさらに微妙になり、「エンターテインメント部門」、「アニメーション部門」も微妙になってきました。

昨年のブログでは、この「微妙」の理由として考えられるものを列挙しましたが、それを以下に再掲しておきます。



1.展示作品のレベルとしては例年通りだが、そろそろ刺激に慣れてしまった(目が肥えたと言うべきか、感受性が鈍ったと言うべきか)。

2.応募作品のクオリティーの低下。作品数は増加の一途をたどっているので、もしこれが該当するのなら、社会的要因が考えられる(しかも、わりと世界規模で)。

3.審査のクオリティーの低下。大量の作品の中から良作が拾われにくい状況になってしまった。

4.展示のクオリティーの低下。つまり、展示品のチョイスや展示方法の問題。




さて、これを今年の状況を含めて再検証してみます。

まず、「1」は当然無視できない要素だと思います。ただ、欲を言えば、素人が慣れる速度より、新しい刺激が生まれる速度が上回って欲しいとは思いますが。

「4」は、展示方法が戻った(昨年だけ大きく違った)ので、理由としてはずせると思います。展示方法が戻ったからと言って、微妙なものは微妙でした。

「3」については、あとで改めて触れますが、あまり影響ないような気がします。

「2」は、かなり大きいと思います。その証拠に、今年、18回目にしてはじめて、大賞の「該当なし」(アート部門)が出ました。これはかなり大きなポイントだと思います。



ここで、会場で購入した「受賞作品集」から、選考委員の方々の言葉を引用してみましょう(いずれも一部抜粋)。



「今回のアート部門においては、慎重な議論の結果、大賞は該当なしという苦渋の決断を行った。1800点を超える作品応募があったにもかかわらず、大賞に値する作品がなかったのかと訝る声もあるかもしれない。しかしながら、前述したような優れた作品との出会いがもたらす喜びは審査過程においてあまり感じられず、前年と比べると低調な印象を絶えず持ち続けた。これについては他の審査委員も同様だと想像している。その結果が、審査委員全員が一致して大賞として声を合わせることができずに、優秀賞5点となった結果にも現れている。」
(植松由佳/アート部門審査委員)


「今までと変わらず質の高い作品が多く集まった、僕にとっては3回目となるアート部門の審査はこれまでと同様に楽しく、また困難を極めた。ただ、以前の2回と比べると何か「驚き」が少なかったように感じた。ここでいう「驚き」とは、新しいテクノロジーとともに時々刻々と変化していくこの世界を、誰もが思いもよらなかったような視点から捉え、作品化した作家が与える「衝撃」のことである。(中略)1年後の今、応募作品の多くはもちろんさまざまな意味で「アップデート」されているわけだが、それらが以前にあったものの「アップデート」のようにしか見えないことが多かった。世界中からこれだけの数の応募があったにも関わらず、そのような「驚き」が少なかったことは振り返ってみると不思議であり、また、昨年のグラフィックアートのような、特定の分野で「面白いことが起きている」というような発見もあまりなく、良くいえば「メディアアート」がひとつの表現様式、すなわちジャンルとして安定してきたともいえるのかもしれない。」
(三輪眞弘/アート部門審査委員)



この意見が総意とは言えませんが、過去の審査講評ではここまで明確にネガティブな評価はほとんどありませんでした。
もちろん、過去にも辛口の講評を書く人はいましたが、それはある種の叱咤激励で、今回のものとは本質的に違うように思います。
引用した二人に関しては、講評で少し触れるという程度ではなく、むしろメインとして扱われています。
「大賞なし」という判断が熟慮の末のものであったことが良く分かりますが、やはり大きな決断だったのでしょう。


そして、「受賞作品集」に掲載されていたすべての講評、鼎談を読んだ限り、僕が会場で感じたことは、審査委員でもおおよそ共有されていた感覚だったのだろうと推察されます。

※ただし、講評、鼎談において、「アート部門」以外はあまりネガティブな内容の意見は多くなかった。

とすると、先に列挙した4つの原因のうち、「2」の影響が主たるものであるのだろうと言えます。



この点について、もう少し考えたいと思います。




◆「応募作品のクオリティー低下」の理由◆

「応募作品のクオリティー低下」というのも仮説みたいなものですが、以下は、その前提で話を進めます。

つまり、「もし、メディア芸術祭において、応募作品のクオリティー低下が起こっているとして、その原因としてどういうものが挙げられるか?」ということです。


絶対的な情報量、知識量が不足しているので、多分に素人の推測、感覚的な意見が含まれていますが、それを込みで話を進めます。



先の引用の中にあった「アップデート」「安定化」というのは、実は会場で強く感じた部分です。

講評を読んで、審査委員でもそう感じていたのか、と思ったわけですが、それならばその原因はどこにあるのか。


考えられるのは、「メディア芸術祭が過去のメディア芸術祭に縛られつつある」というものです。

実は、僕が昨年の作品展(第17回)を受けて書いたブログの中に、以下のようなものがあります。


メディアアートの「データベース」なるものが、いつの間にか作品群の背後に出現していて、そこを参照してつくられたのが「今年の作品」。


「データベース」を利用した再生産の流れを外部から観測者として眺めるのが「メディアアート」の本来の立ち位置なのかと思うが、いつの間にか「メディアアート」そのものがこの再生産の流れに組み込まれてしまった。
「ミイラとりがミイラになる」という感じである、と昨年のブログで書いています。


この傾向が、より顕著になったのが第18回なのだと思うわけです。

「メディアアート」というのは、そもそも明確な定義なきカテゴリーです。
審査委員の中にも、「メディアアートとは?」と書いている人がいるように、根本的にふわっととらえどころのないものです。

その中で、さらに「メディア芸術祭」は非常にニュートラルなものです。
文化庁が運営して、企業の協賛などありません(企業も応募できる以上、極めて妥当ですが)。
実現可能な中で、最大限中立的な作品展だと言えます。

そうすると、もはや、何を「物差し」として作品を考えればよいのかわからなくなってきます。
そうすると、制作者が、過去の「メディア芸術祭」を参照するようになってくるのは、ある意味では必然だと言えます。

「物差し」が不明瞭であるが故に、過去のメディア芸術祭がその代用品として利用されている。
これが、ネガティブな意味での「アップデート」「安定化」につながっているのではないでしょうか。

自由であるが故のコンセプトの迷走です。
一方で、これはもはや宿命的な命題です。


メディア芸術祭の中で、特に「アート部門」はこの傾向がもっとも強いカテゴリーです。

そもそも、メディアアートの中に「アート部門」があるのはいかがなものか?という意見はかなりあると思われます。

現状では、その制作意図がより純粋にアートによっている(前景化)という意味での「積極的なアート部門作品」と、他の部門だとしっくりこないから消去法でたどりつく「消極的なアート部門作品」があるように思いますが、少なくとも「アート部門」「エンターテインメント部門」「アニメーション部門」「マンガ部門」という現在のカテゴライズが妥当なのかは再考の余地ありと思われます。

メディア芸術祭において、このカテゴライズはかなり肝になっていると思うので、遅きに失することのないようにして欲しいものです。



あくまで個人的な見解ですが、現在のサブカルチャーにおいて、このようなカテゴリーはもはや限界という感もあります。

pixiv、ニコニコ動画をはじめ、現在のサブカルシーンで多くみられる「タグ」という方式はその証左になると思います。
つまり、「ある作品を、ある一つのカテゴリーに紐づけすることは困難」というのが実際のところだと思います。

事実、メディア芸術祭でも、設定されている4つのカテゴリーのうち、複数に該当すると思われる作品は多くあります。
よって、メディア芸術祭においても、登録時に、複数カテゴリーにエントリーできるようにし、カテゴリーの数を増やすという方式をとってみるのはどうでしょう。

「カテゴリーの仕方がマッチしていない」ではなく「カテゴリーという考え方がマッチしていない」という可能性は、大いにありうると思います。



ここで、先にあげた命題を改めて見直します。

「もし、メディア芸術祭において、応募作品のクオリティー低下が起こっているとして、その原因としてどういうものが挙げられるか?」

これに対して、「自由であるが故のコンセプトの迷走」という可能性をここまで書いてきました。


しかし、可能性として、無視できないものがもう一つあります。

「メディア芸術祭」は、「将来、ここに登場した作品群を見るだけでその時代の文化及び歴史的展開が読み取れるアーカイブとして信頼される芸術祭」(第15回の岡崎氏講評より)、すなわち、この芸術祭自体がそもそもある種のメディアとして機能するよう意図されている側面があります。
つまり、その一年間を反映したものとして存在することが求められています。

そして、これまでの芸術祭を見る限り、この意図はしっかりと組み込まれ成立しているように感じます。

ということは、芸術祭が「迷走」した場合、実は、現実が「迷走」している可能性があります。

つまり、芸術祭という鏡に映った像を見て「迷走」を感じ取った場合、鏡の質的問題(鏡が曇った、鏡がゆがんだetc)の可能性はあるものの、そもそも鏡像のもと(オリジナル)、すなわち「現実の社会」が「迷走」している可能性があるわけです。

メディア芸術祭という「鏡」は、「迷走」している「現実の社会」をただ忠実に反射しているだけなのかもしれません。


現時点でこれ以上のことは言えませんが、このことを念頭に来年以降どうなっていくのか見ていきたいと思います。




◆「受賞作品展」のクオリティーについて◆

一般人は、国立新美術館で開催される「受賞作品展」を通してのみ「メディア芸術祭」と触れることとなります。

よって、この「受賞作品展」のクオリティー追求は、今後の発展のためにも非常に重要な意味を持つと言えます。

しかし、この「受賞作品展」にはいくつもの難題があります。

そもそも会場に収めなければなりません。

作品数、展示方法には当然、物理的制約が発生します。

メディアアートは、その性質上、物体があればそれですべてというわけではありません。

ゆえに、作品の本質を観覧者に伝えることは簡単ではありません。

また、「受賞作品集」を読むと、会場にはなかったけれど非常に興味を惹かれる作品も多くあります。

メディア芸術祭が、その時代を後世に伝えるメディアとして機能するためには、単純に「量」も無視できない要素です。


物理的制約が薄れた現代を投影するメディア芸術祭において、このような物理的制約に縛られるのは、皮肉なことですが、とりあえずは、展示スペースを広げて、展示内容の充実を図ってもらえると個人的に嬉しいところです。

当然、コストの問題は出てきますが、企業協賛は不可能であり、税金をこれ以上投入するのも避けたいはずなので、普通に入場料をとる方向で良いと思います。

現在は無料であり、敷居が非常に低くなっていますが、そろそろ定着してきた頃合いだと思うので、方針転換で良いと思います。

「受賞作品集」も、しっかりとした紙にフルカラー350ページ(厚さ2.5cm)で1500円は、他の美術展だとなかなか考えられない価格設定ですし。

※昨年、今年と、会場のアンケートに「入場料」に関して問う項目があったので、内部では検討しているようですが。




◆「受賞作品集」について◆

価格設定が良心的な「受賞作品集」ですが、とりあえず毎回購入して全部読んでいます。

内容は、受賞作品(展示されていないものも含む)についての作品概要と贈賞理由、審査委員の講評、鼎談などです。

シンプルですが、内容は質、量ともに充実しています。

そして、帰ってからこれを読むのが結構面白い。

特に、贈賞理由は興味深くて、審査委員がその作品に何を見出したのかを知るのは、作品そのものを見るのと同様に刺激的です。

個人的に、メディア芸術祭を楽しむためには、「受賞作品展で作品を見る」と「受賞作品集を熟読する」の二つが不可欠であるように思います。

そのくらい、「受賞作品集」も高いウェイトを占めています。

これは、第三者の目を通した、ある意味でメタフィクショナルな鑑賞方法です。

ゲームを中心に、現代のサブカル界隈では、「キャラクターとして楽しむ(登場人物と同化)」「プレイヤーとして楽しむ(作品の外部に位置する観測者として見る)」の二面性が見られますが、このメディア芸術祭においても、「自分の目で楽しむ」「第三者の目を通して楽しむ」の二面性があるような気がします

これらは互いに補完しあうものであり、その意味でもメディア芸術祭における「受賞作品集」は、それ自体が大きな存在意義を持っているように思います。






というわけで、今回もずいぶん長々と書いてしまいました。

このようにいろいろ考える機会を与えてくれるという点だけみても、メディア芸術祭の価値はかなりのもので、それを気軽に見に行ける環境に感謝です。

今回の最大のトピックは、「アート部門の大賞は該当なし」だと思いますが、この点にはメディア芸術祭のプライドを感じます。

この点は、むしろ希望であり、今後のメディア芸術祭の発展を期待したいところです。

そんなわけで、来年のメディア芸術祭も楽しみにしています。

長々とおつきあいありがとうございました。







sho

思考しましょう

どうも、絶賛原稿中の遊木です。
もう~い~くつ寝~~る~と~締~め~切~り~だぁ~♪って感じです。


さて、昨日は須々木氏が議長のミーティングでしたが、久しぶりに大学の講義室の様な空間を体験しました。この歳になるとすごく思いますけど、すぐ近くに教えてくれる人がいるっていうのは恵まれた環境ですよね。
学生はもっと良い意味で先生を利用出来れば良いんですけど、そういうのって自分が学生のうちはぴんと来ないものですよねぇ。

今月は、昨日の須々木氏議長のミーティングと、前半には凜ちゃん議長のミーティングがありました。
そっちでは課題に沿った作品制作があったので、それについてさらっと紹介をば。



☆課題;浦島太郎のエンディングを考える
亀を助けて竜宮城へ行く浦島太郎。帰りに乙姫に玉手箱を貰う…この続きを考えること。

①玉手箱の中に入っているものは何か
②地上に戻ったのち、浦島太郎はどうなったのか
※浦島太郎の内容については、このサイトのものを軸とする。



ようするに浦島太郎のオチを自分で考える、というものだったのですが、私は漫画ネームを提出しました。



pixivにうpしてるので、内容はそちらからご覧になれます。

読んで頂ければわかると思いますが、私が何も計算しないで話を考えると、基本こういう雰囲気になります。別に病んでるのとかバッドエンドを好き好んでいるわけじゃないのですが、本能に従うとこっち系になります。

実は恋愛系でも悲恋要素がある作品が好きなのですが、私はどうやら「敵」や「人知を超えた何か」に敗れるのではなく、登場人物たちが「彼らの現実に負ける」というシチュエーションが好きなのかもしれません。いや、好きと言うよりは、納得すると言う方がニュアンスとして正しいでしょう。
(だからこの浦島太郎のネームもちょっと納得できていないというか、もっとうまい表現ができれば良かったんですけどね…こう、本当は不条理の要素を前面に出したかったわけじゃないのですが)

例えば中村明日美子先生の同級生(卒業生)とか、すごい好きです。
あの作品は別に悲恋ではないですが、ラストが「好きだから、卒業してもずっと一緒だよ」ではなく、「好きだけど、それぞれの進路がある。夢がある。それを目指すために、今は一緒にはいられない」という終わり方がすごいしっくりきました。
あそこで佐条と草壁が、「卒業」という現実に無力な表現がされていることで、物語全体にぶれない重さが出たというか…なんだかそんな印象があります。

現実的な作品が好きなのか、というと別にそんなことないのですが、私は多分物語の登場人物たちに根付いた現実に対して、筋が通った物語が肌に合うのでしょう。
フィクションなんだから筋とかそこまで気にしなくても良いのでは、という人もいると思いますが、私は「筋を通す」ということは創作において重要な要素だと思っています。筋が通っているからこそ、その筋から外れた時に物語の面白さが出るし、筋があるからこそ物語には終わりがあるのだと思っています。


と、そんなことをつらつら語っても別に私が浦島太郎のEDを↑↑のようにした理由はこれっぽっちも出てこないわけですが、制作したことを機に考えた内容をちょっと書いてみました。




昨日のミーティングは、「思考実験」というコンセプトでしたが、物事に対して思考するというのは大切なことだなぁと思います。特に私は直感力があるタイプじゃないので、何かを考えていないとアイデアの引き出しが干からびるんですよね…おふぅ。


では、原稿作業に戻ります~
締ーめー切ーりー!!


aki

【第4回RWラリー小説】そして、旅は (つづき)

ハイ須々木です。

第4回ラリー小説のペナルティー消化ということで、前のエントリーの続きです。

続きです。

続きですよ。


ではどうぞ。





============(ここからラリー小説後半!)=============





懐中電灯の明かりに照らされた顔面は、本当に蒼白で、蒼白すぎて……生者のそれではなかった。

「クソ!!」

俺は懐中電灯を投げつけた。目の前の何者かは、物凄い反射神経でそれをかわすが、俺はその隙に背後をとり、関節を固めた。
かなりの力で抵抗する身体を必死に押さえ付けながら、恐る恐るその首筋に触れた。

「脈が……ない」

頸動脈はピクリとも動いていない。その周辺も探るが、どこにも鼓動を感じられる場所はなかった。
俺は思わず息を飲む。そして、そのわずかな沈黙でもう一つ気付いてしまう。
息使いがまったく感じられない。これだけ激しく抵抗しているにもかかわらず、呼吸する気配がない。
そして、何より、その身体は異様なほど冷たかった。こちらの体温が奪われていってしまうほどに。

ああ……。
ヤバい……力が抜けていく。

体温と一緒に、気力や体力までもが身体から流れ出ていくようだ。これだと押さえ続けていることはできない。それはわかっている。でも、どうしようもない。
そう思ったときには、地面が頭上に見えた。身体は逆さに宙を舞っていた。
体勢を整える間もなく激しく硬い岩肌に打ちつけられる。
受け身をとることすらできず、息が詰まる。遅れて激しい痛みが全身を襲った。

「クソ……クソ……なんでだよ……どういうことだよ……」

地面に両手を突いたまま、顔を上げることができない。視界はぼやけ、地面に滴が落ちていく。身体の震えと嗚咽を必死に抑える。

ザリ……ザリ……。

視界の隅に、ブレッドの靴が見えた。そのまま視線を上に辿っていく。
滲んだ月の光を背負ったブレッド……の姿をした何者かが、人の頭より一回りも二回りも大きな岩を掲げていた。
その岩は、もちろん目的があって持ち上げられているわけで、否が応でも凄惨な状況が頭をよぎってしまう。
しかし、その想像はどこか現実味がなくて、自分に差し迫った危機だと感じることができなかった。
そんな不思議な心地。

ああ、死ぬんだな、俺は……。
わけのわからないまま、何もかも終わってしまうんだ。
つまらない反抗心で家出同然に飛び出してきたけれど、結局、俺たちは何をしたかったんだろう?

ザリ……ザリ……。

一歩ずつ近づいてくる。
もう少しで、あの岩が俺を殺すんだろうな。

掲げられた岩が、ちょうど夜空に浮かぶ月と重なった。
その瞬間、世界は驚くほど暗くなった。
俺は完全に闇の中にいた。

「………」

目の前の人影は、その場で不自然に動きを止めた。

……どうしたんだ?

不思議に思い、よく目を凝らして見る。
そいつは、動こうとしているように見えた。でも、なぜか微動だにできないでいる。
その身体には、所々淡くきらめくものが見えた。非常に細い何かが絡みついているようだった。
これは、糸……?

次の瞬間、高く掲げられていた岩は、弾けるようにバラバラと砕け散っていた。鋭利な切断面を見せながら地面に拳大の破片が転がる。
本当に一瞬の出来事で、何が起きたのかまったくわからなかった。ただ、砕けた岩塊の向こうに現れた月は、痛いほど目に焼きついた。

「来い!」

急に強烈な力を受ける。身体が跳ね上がるように地面を離れた。
みぞおちのあたり強い圧力を受け、身体が二つ折りになるような感じ。
腹のあたりには……誰かの太い腕があった。誰かに片腕で抱え上げられているようだ。
俺は少しずつだけれど、状況を飲み込めてくる。

「とにかくこの場から離れるぞ」

俺の身体を軽々と抱えて駆ける男が言った。

「ま、待ってくれ……」

男は立ち止まった。俺は、ふらつきながらも自らの二本の足で身体を支えた。
そして、目の前の男を見上げた。
風貌から察するに、自分よりはだいぶ上だけれど、親父よりは若そうな、いかにもという感じの旅人のようだった。使い古したマントを巻いているが、その下の屈強な体躯を完全に覆い隠すことはできない。動くと、革の軋む音、金属の擦れる音が聞こえる。相当な装備をしているようだ。

「どうした。自分で走るのか?」

男の声は、感情の起伏に乏しかった。だが、それでも突き放すような冷たさは感じない。

「いや、あいつ……。ブレッドを助けないと……」

男は自らの目で、その姿を改めて確認する。

「お前の仲間なのか?」
「そうだ。だから、助けないと……」

俺は、ブレッドの姿をした何者かの方へ向かって行こうとする。向こうもこちらに向かって来ている。

「待て」

男は、そんな俺の腕を強く掴んだ。無駄な力を込めない口調とは違い、男の手は指の先端まで力が込められていた。ギリギリ食い込むような強さで、俺の身体はピクリとも動かなくなる。
心臓を握られるようなプレッシャーを感じる。少しでも気を抜けば、考えることをやめてすべてに屈してしまいそうになる。だから、そんな気持ちを振り払うように、振り絞るように語気を強めた。

「離してくれ! 大事な友達なんだよ!! 俺が助けなきゃいけないんだよ!!」
「友達……か」

男は、少しだけ言葉に詰まりながら、掴んでいた手の力を抜いた。

「悪いが……あれはもうお前の知っているやつじゃないんだ」
「は? どういうことだよ!! あれはブレッドだ!! お前に何がわかる!?」

俺は振り返り、突進するような勢いで男に食ってかかった。沸き上がる何かを塗りつぶすように。
しかし、男は告げた。突き刺すような視線を向けながら。

「〈魂〉を持っていかれている。あれは、限りなく死者に近い存在だ」
「ハハハ。何を言ってるんだよ……。だって、俺と会話して……」
「あの状態でも、しばらくは〈魂〉の残滓でそれっぽく振舞うことがある」
「何の根拠が……」
「少なくとも、お前よりは物を知っている」
「そんなこと……そんなわけ……はじめて会ったやつの言うことなんて信じられるかよ! 俺はこれからもアイツと旅を続けるんだ!!」
「旅か……」
「そうだ。俺たちは、誰の指図も受けずに好きなように旅を続けるんだ!!」
「おい、ガキ……」

男は、大きく吸い込んだ息と一緒に、腹の底から声を張り上げる。

「ガキがピクニック気分で旅なんてするんじゃねえ!!」

その覇気に気圧され、足が竦んでしまう。

「来い!」

そのまま襟首を掴まれた。



「アイツが〈魂〉を持っていかれたのはいつだ?」
「いつって……」
「何かが近くをかすめていかなかったか?」
「そう言えば……。30分くらい前だ。でも、一瞬のことだったし、触れてもいない」
「それはお前の感覚だ。ヤツらにとっては、それで十分な時間だし、〈魂〉に手の届く距離でもある」
「なあ、いったい……どういうことなんだよ?」

自分でも焦っているのが分かる。どんどん追い詰められていくようで、早鐘を打つ心臓を吐き出してしまいそうだ。でも、聞かないわけにはいかない。
男は、淡々とした調子で答える。

「お前の友達は、そのとき〈魂〉をかすめ取られたんだ。残った〈身体〉の方には、そこらへんの怨念めいたものが入り込んで、好き勝手振舞っている」
「そんな……。でも、それなら、〈魂〉を奪っていったやつを見つければ!」
「どっちに向かったかわかるか?」
「たぶん森の方だと思うけれど、それ以上は……」
「それで十分」

男はすぐに森に向かって走り出した。
俺は一瞬だけ振り返る。

「必ず助けてやるから、ちょっとだけ待っててくれ」

そう小さく呟くと、俺も男のあとに全力でついて行った。



男は何を頼りにしているのかわからなかったが、ほとんど立ち止まることなく森の中を進んでいった。俺は言われたとおり、その背中から離れないことだけに集中した。
やがて、男は立ち止まり右手を上げた。

「よし、お前はここで待っていろ」

男はマントの中に手を入れて何かをいじる。それからその場で両手を素早く複雑に動かした。

「すぐに戻るが、いま立っているところから一歩も動くな。絶対にだ」

男はそのまま真っ直ぐ森の一番暗い所に入っていった。
俺は不気味な森の真ん中で、ただ一人で立ち尽くした。言われなくても、一歩も動くことなんてできない。
木々のこすれる音、小さな羽虫の飛ぶ音も、妙に反響して聞こえる気がした。背中に嫌な汗が噴き出してくる。

男は言った通り、ほどなくして戻って来た。遠目に見たところ、何も変わった様子はない。
そのことを問い質そうとしたところで、男がその右手のやや下に、黒い靄のような何かを連れていることに気がついた。
男はそれを俺の前に持って来て見せた。ただでさえ暗いのに、その中で黒い靄の様子を正確に観察することは困難だったが、その様子から察するにその動きは男に封じられているようだった。
でも……。

「俺たちをかすめたやつには、確か手足があった。もっと人間みたいな形をしていた気がする……」

男は黙ったまま、両手を再び複雑に動かした。そのたびに、靄は濃淡を変え、形状を変えた。手の動きに同調し、共鳴しながら、徐々にその振れ幅を大きくしていく。
やがて黒い靄は、内部から湧き出すように膨らみはじめた。みるみるうちに大きくなり、それは人間とほぼ同じ形状になった。不気味にのっぺりした様子は、もちろん人間であるはずなどないのだが、背格好は完全に人間だった。
俺は目の前で起こるすべてに呆気に取られながらも、どうにか答える。

「こ、これだ……。コイツに間違いない!」
「そうか……」
「早く〈魂〉を取り返さないと!!」

せかす俺を見つめながら、落ち着いた様子の男は、さらに落ち着いた口調で言う。念を押すように。

「今から、お前の友達の〈魂〉を吐き出させる。いいか?」
「当たり前だ。早く!」

男は、みたび両手を中空に彷徨わせた。何かを描くようでいて、蝶が舞うような捉えどころのない動き。
正直、その動きが何のためのものなのかはさっぱり分からなかった。ただ、人の形をした黒い靄は、伸びたり折れ曲がったりしながら、男の手の動きに呼応するように形状を変えていった。声はまったくあげないが、悲鳴をあげながらもがき苦しんでいるようにも見えた。

「出てくるぞ」

男は何かの感触を得たようで、静かに告げる。
俺は、瞬きするのも忘れて見つめる。

それは拍子抜けするほど小さな、滴のような形をしていた。
ガラス玉よりもはるかに透明で、それなのにそれ自体が仄かに光っているように見えた。
黒い靄から零れ落ちるように出てきたそれは、雨粒が落ちる速度よりもはるかにゆっくりと落ちていく。
スローモーションで落ちていく。
時間の感覚をどこかに置き去りにしてきたように。

俺は、そこで手を伸ばしたかったのかもしれない。
もしくは、何か声を発したかったのかもしれない。
でも、何一つできず、ただそれが落ちていくのを見ていた。
ただ見ているだけの自分を感じていた。

滴は静かに音もなく地面に到達した。
その瞬間、無理やり留められてきた時間が一気に押し寄せてきたかのように、何かが身体の中を突き抜けていった。光と時間が爆発したようだった。いきなり昼になったような光の圧力を全身に感じた。

―――ライス……。

ブレッド?

―――悪かったな……。

声は聞こえなかった。
でも、声は確かに届いた。
それは、まさしくブレッドのものだった。


光の波は、退くときも急激だった。
あたりは、ただの暗い森になっていた。あの黒い靄は完全に消えていた。

「ブ、ブレッド……?」

俺と目の前の男以外、なんの気配もなかった。

「ブレッド? ブレッドは? ブレッド……?」

俺は、すがりつくような、懇願するような視線を男に向け、うわごとのように繰り返した。男は表情を変えず、何も答えなかった。

「お、おい! どういうことだよ? ブレッド……ブレッドは?」
「何て言っていた?」
「え? ……悪かったな……って?」
「そういうことだ」

男は、静かに俺の双眸を見下ろしていた。
俺は、男のマントを両手で掴みながら別の答えを求める。

「え……? なんだよ、それ? わかんねえよ?」
「お前は、友達の最期の言葉を聞き届けたんだ」
「は? な、なんだよ? 話が違うだろ!? ウソだろ!?」
「〈魂〉は、〈身体〉から切り離されたら、ほぼそれで終わりなんだ」
「助けてくれるんじゃなかったのかよ!?」
「俺は…………お前と同じくらい無力なんだ」
「こんな……。だって、こんなに町の近くで……」
「町?」

俺は地図を差し出した。

「これは古い地図だ。ここに書いてある町はすでに滅んでいる」
「ウソだ! 明かりだって見えていた!」
「あれは、生者を取り込もうとする生霊たちのものだ」
「俺は、お前らの不用心な焚き火に気付いて遠くから観察していたが、生霊しかいない町に向かって歩き出したのを見て急いで駆けつけたんだ。友達については、気の毒だった」
「な、なんで……」

すべてを失い、すべてを否定された気がした。この理不尽にどう向き合えば良いのか、まったくわからなかった。

「なんで、俺じゃなくてブレッドが……」
「一緒にいたのなら、それはただの運だ。確率的には半々」

運……だって? そんなあやふやなもので、ブレッドは……。

「自分が死んだ方が良かったか?」
「ああ。その方がマシだった」
「そうか。でも、生き残ったのはお前だ」

誰か……嘲笑って罵って怒鳴りつけて殴りつけてくれ……。

「クソ……。俺がくだらないことでアイツを連れださなければ……。ガキっぽい反抗心で旅に出たりしなければ」
「“そこ”にお前らの居場所はなかったのか?」
「そんなもの、なくたって……」

生きていける。少なくとも死ぬことはない。それで良かったじゃないか。

「いや……」

男は短く否定した。俺は、うつろな瞳を男に向ける。
男はその視線をしっかり受け止めながら言った。

「居場所がないとき、そこから逃げるのは別に悪いことではない。でも、逃げるというのは、戦場から離れて安全地帯に駆け込むことじゃない。新しい戦場に自ら突っ込んでいくということなんだ」

新しい戦場……。

「ただ、お前は知っておくべきだった。無知は人を殺すということを」

無知。
そう、俺は、俺たちはあまりに無知だった。馬鹿で無知で、実際は覚悟なんてものは何もないまま、こんなところまで来てしまったんだ。古い地図なんて握りしめて得意げになって、結局、大事なものは何一つ持っていなかったんだ。
本当に……救いようのない、馬鹿だ。

「クソ……クソ、クソ!! ウオオォォォォ!!!」
「おい、そんな大声をあげると生霊たちが集まってくるぞ」
「ウワァァァ!!!」
「チッ……。せいぜい泣きつくせ」

男はそれ以上は何も言わなかった。
周囲の闇という闇の中から、姿のはっきりしない禍々しい気配が噴き出してきた。男は、吠えることしかできない俺を脇に抱え、片手でそれを薙払っていく。
自分が迷惑だけをかけ、そしてさらに人を窮地に陥れようとしているのはわかっていた。でも、吠えることをやめられなかった。息をしなければ死ぬように、今の俺は、叫び続けなければ完全に壊れてしまう。
俺は、ただただ狂ったように意味を成さない声で喚き散らしていた。

「アアァァァァァ!!!」



――――――。



街道沿いの小さな茶屋の外に設けられた長椅子。
俺は視線を上に滑らせる。日は徐々に傾き、浮かぶ雲の断片が淡く紅に染まり始めていた。

「もうあれから一年か……」
「どうした? 日が暮れる前に峠を越えるぞ」
「はい、師匠」

俺は立ち上がった。そして、これから進む道の先を見据えた。

ブレッド――。
俺は性懲りもなく旅を続けているよ。
いつか、あのころの無知で無力で馬鹿な俺たちを見つけ出し、ぶん殴ってやるために。

そして、旅は――旅は続く。




(おわり)







============(以上です。以下、あとがき!)=============






ツイッター上で書かれたヤツが含んでいた要素を拾いながら、ちょっとダークファンタジーよりの少年漫画冒頭のようなノリで書いてみようと思って、そんなこんなでイヤハヤまいりました的な。

イヤハヤまいりました。










*裏設定*

主人公ライスの師匠の名はポテイト。

これから仇敵のパスタを倒すため、彼らは旅を続けます。

この炭水化物帝国に真の平和は訪れるのでしょうか?

決め台詞は、「お前らまとめて茹で上げてやんよ」

続く第二編では、タンパク連合国、神聖脂肪国との三つ巴の戦端が開かれる。

しかし、その背後には、ヴィタミンと呼ばれる謎の暗殺集団の影が。

いにしえより絶対中立を貫き、その存在がすでに伝説視されているミネラルの民が何かカギを握っているようだが?








sho



【第4回RWラリー小説】そして、旅は

どうも須々木です。

本日お送りするのは、先日深夜に行われた「第4回RWラリー小説」です。
というか、そのペナルティー消化です。


※過去の模様 → 第1回(須々木) 第2回(遊木) 第3回(米原)


2度目のペナルティーですよ。


ここで、最後に指名した米原のツイートを見てみましょう。





米原のぞみ 「SHOさん! 」
@rw_maibara 2015-02-16 00:59:55



残 り 5 秒 で 回 っ て き て ど う し ろ と ?
そう、気付いたときにはやられていたのです・・・




さてはて。

ルールですが、基本は第1回のブログに書いてあるとおりですが、前回(第3回)より、ルールが追加されています。

・30分を過ぎた時点で、一人の持ち時間は3分とし、それを超えたら即アウト。
・開始より1時間で強制終了(その時点で書く番の人がペナルティー)。



30分を越えたところから、みんなすこぶる加速して、誰も3分ルールにかからず、終了の寸前で回ってきちゃいましたよ。
来るな来るな来るなと願っていたけど、完全にスルーしてしっかり回ってきましたよ。


遊木 → 須々木 → 霧島 → 米原 → 夏野 → 米原 →(30分経過)→ 須々木 → 夏野 → 遊木 → 霧島 → 夏野 → 須々木 → 霧島 → 遊木 → 夏野 → 霧島 → 米原 →(須々木×)


ということで、今回は60分で17回成功ということですかね。
記録更新ですね。。

なお、ラリー小説実施中のバックステージの様子は、こちらをどうぞ
いつも通り、くだらないことしか言っていませんが。

あと、フォロワーの方には、タイムライン荒らしスミマセンでしたm(_ _)m

そんなわけで、無駄に長いが故に縦横無尽に散りばめられた矛盾を回収したり無視したりしながら続きを書いてみました。

小さく書いてあるのは、執筆者です。
途中までは、タイムライン上で繰り広げられていたやつで、明らかな表記ミスや改行だけは手を加えていますが、基本的にそのまんまです。
広い心でお願いします。。

では、どうぞ↓↓↓







============(ここからラリー小説本編!)=============



【遊木→】
その日は、綺麗な川の近くで野宿をすることにした。
旅に出てからそれなりの時間が経っているが、いまだに固い土の上での睡眠には慣れない。そろそろ羽毛布団への禁断症状が出そうだ。
「……次の街まで、あとどのくらいかな」
星が瞬く夜空を眺めて呟いた。

【須々木→】
「次の街までね……」
隣でたき火をいじっていたブレッドは地図を開き、コンパスを見ながら指でなぞる。
「聞いたらビビると思うが、知りたいか?」
炎が揺らめき、表情が無駄に深刻そうに見える。
「ここでもったいぶるなよ」
「ならば教えよう。あと…10分だ」
「よし、出発だ」

【霧島→】
「ていうか、あれか。見えてたな」
ちらちらと明かりが揺れている。どうやら今日は野宿せずに済みそうだ。この時期の野宿は本当に身体がこたえる。自然と歩調が速くなる。
「おい、ちょっと待て!」
今にも走り出そうとするライスを、ブレッドが制止した。

【米原→】
「どうしたんだ?」
辺りはもう暗く、道の先は見え難い。頼りは懐中電灯の明かりと空を照らす月くらいだ。確かに視界が良いとは言えないが、目的地まで後10分の所まで来ている。何を止めることがあるのだろう? 周りや足元を見渡したが、特に危ない障害物があるという訳でも無い。

【夏野→】
「なんかお腹空かないか?」
「……あぁ、うん、そう言えばそうだな……うん」
とても深刻そうにブレッドが言うので、つられて真面目に頷いてしまった。野宿をするつもりで、夕飯がまだだったのだ。
「街で食べたらいいんじゃないか?」
「いや、もう歩けない。今食べたい」
「わがままか」

【米原→】
その発言に呆れながらも、ブレッドは一度言いだしたら聞かない性格なのは俺も分かっている。出鼻を挫かれた上に、目的地目前で寸止めだ。兎角、俺たちは食事をとる事にした。
「とは言っても、今すぐ食べられそうな物なんて、缶詰やソーセージくらいしかないぞ?」

【須々木→】
「じゃあ、それでいい。早くくれ」
ブレッドはジタバタし始めた。腹が減ると行動が幼稚になるタイプ。
「ほれ」
俺は、缶詰をあけて渡す。そんでもって、でっかいソーセージを出したが、皿を出すのが面倒なので、口に突っ込んでやった。

【夏野→】
「にゃんかひみゃいだ」
「ん?食べてから喋ろう」
ブレッドはもぐもぐとソーセージを食べきって、神妙に言った。
「なんか卑猥だって言ったんだ」
「……もうお前と旅を続けていく自信がないよ……」
「そんなこと言わずに、仲良くやろうぜ」
「そうしたいとこだけどね」

【遊木→】
そこで、街の方から何かが近づいてくる気配がした。
俺と相方はもぐもぐと口を動かしたまま、その正体を見極めようと目を細めた。正直、今の間抜けな状態を他人に見られたくはない。
「……何だあれ?」
俺は呟いた。

【霧島→】
「さあ? なあ、そろそろいこうぜ?」
ブレッドが立ちあがった。まったくなんて身勝手な……とぶつくさ言いながらライスも立ち上がる。
「……ていうか、無視はやめよう。俺の話聞こう?」

【夏野→】
「聞いてるよ。でもあれが何かは俺にもわからない。だから行こう。行けばわかるさ」
「ソーセージどうすんだよ」
「食べながら歩けば?」
ブレッドはわざとらしく顔をしかめて俺を見ると、二本目のソーセージをもぐもぐと食べながら歩き出した。

【須々木→】
「おい、ちょっと待て!」
「なんで?」
「なんかヤバいやつの気がする」
「は?」
その足音が駆け足になってきた。
「ヤバい! 逃げるぞ」
「どうして??」
「いいから!!」

【霧島→】
足音が加速する。だめだ……やられる…!!!
ズザアアア!!!という盛大な音を立てて、2人はそこに倒れこんだ。正確に言えば、こけた。

【遊木→】
すると俺たち二人の上を、何か熱を帯びたものが通り過ぎる。どう考えても生き物のようには見えない。
「な…なんだアレ?」
俺は動揺しながら隣のブレッドを見た。奴の口からはソーセージが飛び出ている。

【夏野→】
“それ”は俺たちの上を飛び越えて、そのまままっすぐと走って消えていった。
「なんだったんだ……」
身体を起こし、隣でひっくり返っているブレッドに手を貸してやる。
ブレッドは俺の腕につかまったまま蒼白な顔で「あれお化けだろ……」と呟いた。お化けではないと思うけど。

【霧島→】
「ま、まぁ、よかった…な?」
「て、いうか、さ……」
未だ真っ青なブレッドが息も絶え絶えに言う。
「あっち、俺たちがいまから向かう方向…」
「……野宿、する?」
見上げた空に、星が輝いている。

【米原→】
「……目的地は目の前だけど……さっきの幽霊?を突き止めてみないか」
「……は? ブレッド……お前正気か? ココは目的地に行くのが先決だろ!」
「でもさ…気になるだろ?お前も」
「それは…」
確かに気になるが…探しに行く勇気は俺にはない。だがブレッドは興味津々だ。






【須々木(ここから新規書下ろし!)→】





「ていうか、お前、めちゃくちゃビビッて顔面蒼白だったのに、探しに行こうだなんてよく言えるな」
「は? 俺がいつそんなにビビッてた?」

ブレッドが否定する。

「あーハイハイ、そういうことにしておこう」

俺は相手をするのが面倒で軽く受け流した。道を外れてしまったので、とりあえず走ってきた道を引き返す。

「それで、どうする?」
「は? 何の話?」
「……え?」

俺はその場で動きを止めた。何の話って……。
とぼけた様子もなければ、反抗的な様子もないブレッドの平然とした口調に、逆に何か引っかかるものを感じた。

そのとき、後ろでカランと金属音。

「あ! 缶詰あいてる! お前、一人で食ったな!」

ブレッドは、靴に触れて音を立てて転がったカラの缶詰を拾って言った。それは確かに放り投げられたカラの缶詰。しかし、それを食べたのは……。

「お前……」

台詞に詰まる。ブレッドの口調は、冗談には聞こえない。背筋がゾワッとした。

目の前でその男は膝をついてカラの缶詰を眺めた。その背後に立つ俺は、彼の背中を凝視した。

「お前……誰だよ?」

俺は絞り出すように言った。自分の言っていることが、ただの的外れな質問として流されることを願いながら。もしくは、何、寝惚けたこと言っているんだ?と馬鹿にされるリアクションを期待しながら。

目の前の男はゆらりと立ち上がり、こちらに向き直った。その視線は、左右にぶれながらも、ついに俺を真っ直ぐとらえる。
そして、その口は告げた。



「お前こそ……誰だよ?」











============(まさかの前後編!つづく!)=============






sho


ぐるり東京巡り

遊木です。

最近サークルメンバーが揃って焼肉食べたいって言ってるんですよね。
なんだろ?季節がら?(違
ちなみに今まで加入したサークルメンバー女子は、みんな結構飲み食いするタイプです。「こんないっぱい食べられな~い」とかいうノリじゃないです。私はもともと「いっぱい食べる君が好きv」というタイプなので(ぇ)嬉しいんですが。




さて、先週の話ですが、私と須々木氏は二度六本木に行きました。
もちろん目当ては毎年恒例、メディア芸術祭です。

しかし二度行ったからと言って、展覧会に二回入ったわけではありません。えぇ…行ったんですよ六本木に二回…金曜と、実はその三日前…休館日の火曜にな。
…二人して美術館につくまで気づかなかったという。

何だか一瞬寒い風が通り抜けましたが、すごい天気の良い日だったので、そのまま帰る気分じゃなくなり(むしろ何もしないで帰ったら負けな気がして)、そのまま東京巡りをすることにしました。


まず須々木氏がミッドタウンに行ったことがないということでそこに向かい、何をするわけでもなく建物を突っ切りました。

そこから取りあえず東京タワーを目指そうという流れになり、ずんずん向かう我等。徒歩です。ぶっちゃけこの日は最後までひたすら徒歩でした。
目的地に到着後は、大して遠くに住んでいるわけでもないのに二人共東京タワーに登ったことがなかったので、そのまま入場。景色や施設を楽しみました。
晴れてたので遠くに富士山も見えました~。






その後は芝公園をぐるりと回り、前々から行きたいと思っていた築地で昼食を取る流れに。
浜離宮を横目に通り過ぎ築地に到着後は、今度はどこの店で食べるかと言う話になりましたが、もちろん下調べなんかしていないので適度に列をなしている店に並びました。

正直めっちゃうまかったです!






昼食後は築地をぶらり一周し、そのまま東京駅へ。
東京駅も工事が終ってから行ってなかったので構内をぐるりと探索し、その後帰宅しました。




結局一日で、行こう行こうと思って行けてなかった場所を三ヵ所も回ってしまいました。
美術館が休館日だとわかった瞬間はチーン…という感じでしたが、まぁ結果オーライですね!

ちなみに本来の目的だったメディア芸術祭は金曜にちゃんと行きました。
そちらの感想はまた後日。




aki