時勢の影響と試行錯誤 ~第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~
須々木です。
先日、第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展に行ってきました。
会場は、前回に続き日本科学未来館です。
会期は、9月19日から27日までだったので、もう終わってしまいましたが。。
もう少し会期を長くとってもらえると良いんだけどなあ・・・と思いますが、大人の事情があるんでしょうかね。
せっかくなので、簡単に感じたことをメモしておきます。
「文化庁メディア芸術祭とはなんぞや?」という人は、先に公式サイトなど見てください。
もしくは、過去の受賞作品を眺めるだけで、雰囲気くらいは分かるかもしれません。
また、2011年より毎回行っている(遊木、須々木は皆勤)ので、このブログでもかなりの回数、取り上げられています。
かなりボリューミーな記事もあるので、興味があればご覧あれ。
《当ブログ内の「メディア芸術祭」関連過去記事》
▽ 文化庁メディア芸術祭(2012-02-28 by aki)
▽ メディア芸術祭に行って思ったことなど(2012-02-29 by sho)
▽ とりあえず忘れないうちに走り書き~第16回文化庁メディア芸術祭(2013-02-22 by sho)
▽ 何故だろう何故だろう?(2013-02-28 by aki)
▽ 一区切り…?メディア芸術祭感想(2014-02-10 by aki)
▽ 偏在する相転移 ~第17回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~(2014-02-16 by sho)
▽ 迷走なのか、迷走の忠実な反射なのか ~第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~(2015-02-25 by sho)
▽ 選択を求められる「メディア芸術」 ~第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~(前)(2016-02-12 by sho)
▽ 選択を求められる「メディア芸術」 ~第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品展雑感~(後)(2016-02-13 by sho)
▽ 第19回メディア芸術祭感想 ― 価値ある無駄の到達点へ(2016-02-14 by aki)
▽ 第20回文化庁メディア芸術祭感想① ―今、「直感的楽しさ」を見つめ直す。(2017-10-06 by aki)
▽ 第20回文化庁メディア芸術祭感想② ― 「共感」か「伝達」か、それとも。(2017-10-31 by aki)
▽ 第20回文化庁メディア芸術祭感想③ ― モノクロで世界を創る(2017-11-06 by aki)
▽ 第20回文化庁メディア芸術祭感想④ ― 芸術を希求する。芸術に希求する。(2017-11-30 by aki)
▽ アート界隈の言語表現はなかなか面白いと思う。(2019-06-19 by sho)
いくつか印象に残った作品をご紹介しつつ、感じたことをつらつらと。
[ir]reverent: Miracles on Demand (Adam W. BROWN)
アート部門の大賞作品です。
メディアインスタレーション、バイオアート。
作品の説明は、作品タイトルのリンク先を見てください。
ネルフが隠し持ってそうな雰囲気が漂っていました。
近年チラホラとバイオアートを見かけますが、大賞は初めてのはず。
すごく勝手な感想ですが、今回のアート部門大賞は、例年と比べ分かりやす過ぎて、逆に拍子抜けした感はありました。
俗っぽさと高尚さが同じ場に集結して混沌とした感じがメディア芸術祭の面白さと思っているところもあるので、難解高尚な要素が減ると「あれれ・・・」という。
between #4 Black Aura (ReKOGEI)
アート部門の優秀賞です。
メディアインスタレーション。
メイキング動画が流れていましたが、別の文脈で培われた技術が出会い生まれた造形には、新たな可能性を感じます。
伝統工芸の職人芸と3Dプリンターは、相対するものではなく、うまく融合させることもできるという好例でした。
今回の作品は実用性を求めているものではありませんが、ゆくゆくはより一般に向けた製品も生まれるのではないでしょうか。
amazarashi 武道館公演『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』 (『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』プロジェクトチーム)
エンターテインメント部門の優秀賞。
公演の様子が四面モニターで流されていましたが、個人的には、これが大賞で良かったのではないかと思いました。
発想の軸が強くて、技術先行型の軽さがなかったのが良かったです。
球小説 (YouYouYou)
今回より新設された「フェスティバル・プラットフォーム賞」の「ジオ・コスモスカテゴリー」受賞作品です。
映像インスタレーション。
展覧会会場を活用しようという試みは、過去のメディア芸術祭になかった発想なので、今後に期待したいです。
海獣の子供 (渡辺歩)
アニメーション部門の大賞作品です。
五十嵐大介の漫画を原作とした劇場アニメーション作品です。
僕は、劇場アニメを見てから、原作漫画を読みました。
同年は話題性では「天気の子」が圧倒的でしたが、両方みた感想として圧倒的に「海獣の子供」だったので、納得の受賞です。
なお、「天気の子」は、今回より新設された「ソーシャル・インパクト賞」を受賞しました。
原作漫画と劇場アニメでは、表現や終わらせ方に差がありますが、それぞれのメディアの特性を最大限活かしたものだと思います。
そして、「分かりやすさ」の追求が義務付けられたかのような現代において、このような「分かりにくさ」が評価を受けることを嬉しく思います。
ごん (八代健志)
アニメーション部門の優秀賞。
短編アニメーション。
新実南吉による児童文学「ごんぎつね」を原作とするストップモーション・アニメーションですが、ディテールへのこだわりが作品に魂を与えるという好例でした。
撮影現場の記録映像もありましたが、信心を示すべく仏像を切りだすような、単なる情熱とはまた異質な没頭を感じました。
向かうねずみ (築地のはら)
アニメーション部門の新人賞。
「短編アニメーション」としてアニメーション部門に出されていますが、他部門でも良かったのではないかと。
発想の面白さは、今回見た中で一番だった気がします。
デジタル機器をシンプルに組み合わせながら、妙にアナログな雰囲気でシュールな可笑しさを生み出している気がします。
作品解説(作品名のリンク先参照)にある「毎日のようにねずみを描いていた作者は、このことを他人事と思えず」というのが、結構ツボでした。
以下、全体を通して、さらにつらつらと。
まず思ったのが、「メディア芸術祭のアート部門」の意義についてです。
「メディアアート」という絞った的を先行して攻めていた感のある「メディア芸術祭のアート部門」ですが、いろいろ見ていると、特に「メディアアート」に絞っていない他の現代アート展が追いついてきた気がします。
以前は、ある程度明確に差別化されていた気がしますが、最近は徐々に差を感じなくなってきました。
今の時代、アートをつくれば基本的にはメディアアートになるだろうという気もするので、当然の流れだとは思いますが。
というわけで、埋没してしまわないかと、いらん心配を少々しております。
漫画やアニメーションは、やはり確固たる型を持っているなと(良くも悪くも)。
しかし、それ故に、経年変化を見るには良いサンプルかもしれない。
「アート部門」「エンターテインメント部門」で“流行り”がどんどん変わって行くのを横目に、控えめな変化で妙な安定感を誇っている気がします。
そんな中、「マンガ部門」の大賞が2年連続で「ロボット」「サイボーグ」をテーマにしたものである点は少し興味深いです。
今回のメディア芸術祭では、4大部門それぞれに「ソーシャル・インパクト賞」「U-18賞」が新設されたり、4大部門とは別枠で「フェスティバル・プラットフォーム賞」が新設されたりして、新しい取り組みを印象付ける面もありました。
受賞作品の幅の広さが魅力の一つであるメディア芸術祭において、評価軸が増えるのは良いと思います。
メディア芸術クリエイター育成支援事業のコーナーがありましたが、そこで発表されていたものは、いずれも興味深かったです。
普通にこちらの展示ももっと拡充させてほしいなと。
前回消滅した「紙の受賞作品集」(代わりにウェブで無料閲覧可能とした)。
それが、今回、一応復活しました。
個人的には「メディア芸術祭」において、受賞作品集の情報は不可分の要素と思っているので、それを物体として残せる紙媒体は必要と思っています。
勿論、コスト的にいろいろ厄介な問題はあると思いますが。
どんなイベントも時勢の影響は受けるものですが、メディア芸術祭も例にもれず。
作品そのものに影響が現れるのは次回以降だと思いますが、受賞作品展においても当然影響を感じました。
海外在住クリエイターの作品の展示は、おそらく様々な妥協があったのだろうと推測できます。
例年、体験型の作品は実際にその場で体験できるパターンが多いのですが、今回はほとんどそういうものはありませんでした。
ただ絵画や彫刻を眺めるような展覧会ではないので、これは相当なやりにくさがあったと思われます。
普段より「ライブ感」がなかったように思いますが、こればっかりはしょうがないですね。
代わりに、ネット上のコンテンツはより充実していました。
なお、受賞作品集の選考委員講評を見ると、選考過程において「あいちトリエンナーレ」の影響はそれなりにあったのかもしれないと感じました。
例の騒動は、「文化庁」も無関係ではいられませんしね。
メディアアートの特性として、展示の際の時間的空間的な制約の影響は大きく、どうしても作品の力をあますことなく伝えるのが難しいのは理解できます。
しかし、一方で、その難しさを、できるだけ克服して、来訪者に肌感覚で伝えるのが展覧会の責務だとも思います。
特に、メディアアートにおいて、「伝える」は土台のはず。
今年はいろいろ大変だったと思いますが、それ以前からの課題だとも思うので、是非追究して欲しいところです。
以前の受賞作品展と比べて、単純に、展覧会で見ることができる作品数が少なくなっているのは、かなりマイナスだと感じます。
過去の受賞作品展でも、大賞、優秀賞以外の作品で、きらりと光る作品はいくつもありました。
そして、物量に裏打ちされた「ごった煮」感が、フェスティバルの雰囲気をつくっていたように思います。
ここ2回は、作品数が絞られ、すっきりしすぎていて、展覧会会場でかなり淡白な印象を受けてしまい、少々残念です。
sho