第20回文化庁メディア芸術祭感想② ― 「共感」か「伝達」か、それとも。 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

第20回文化庁メディア芸術祭感想② ― 「共感」か「伝達」か、それとも。

どうも遊木です。

最近は規則正しい生活をしているので、身体が結構元気です。

 

さて、ようやく『第20回文化庁メディア芸術祭』感想その②です。かなり間があいてしまった上に、予告から変更して今回はアニメーション部門だけです。マンガ部門は……じ、次回に。

引き続き素人の主観的感想なので、拙い部分はごめんください。

 

Part1.はじめに、エンターテインメント部門感想

Part2.アニメーション部門感想(←今ココ!)

Part3.マンガ部門感想

Part4.アート部門感想、おわりに

 

 

 

○アニメーション部門

大賞;君の名は。

優秀賞;映画『聲の形』

優秀賞;父を探して

優秀賞;A Love Story

優秀賞;Among the black waves

新人賞;ムーム

新人賞;I Have Dreamed Of You So Much

新人賞;Rebellious

 

 

アニメーション部門については、作品によっては内容を見られていないものもあるので、全体についてと、いくつか印象に残った作品についての感想を述べようと思います。

 

 

まず、大賞については非常にわかりやすいですね。『君の名は。』は『シン・ゴジラ』と並んで2016年を代表する映画だったと言えるでしょう。多くの方がご覧になっていると思うので細かい感想は省きますが、個人的には次回作がどのようなものになるのかが気になります。おそらく次作の評価が、新海監督の映画制作人生の分水嶺になるのではないでしょうか。

 

 

また『聲の形』も同様、PVだけを見てもその質の高さが伺えます。漫画原作の映像化には賛否両論あると思いますが、例えば作画の美しさなどは、この作品の温かみと透明感を引き立たせるのに一役買ったのではないでしょうか。会場に展示されていた背景画なども大変綺麗なものでしたし。……というか、以外と手描きなんですね。アニメ業界には詳しくないので昨今のアニメが具体的にどのように制作されているかは知りませんが、京都アニメーションのあの美しい画面はこの手描きへの拘りが関係しているのでしょうか。

 

 

 

 

 その他に印象に残っている作品をいくつかご紹介します。

 

 

 

まず一つ目が、優秀賞の『A Love Story』。

この作品は短編アニメーションで、一見狂気すら感じるとても独特な映像となっています。しかし、じっくり初めから終わりまでを見ると、そのタイトル通りしっかりと愛情と切なさを交えた王道的「ラブストーリー」となっていました。抽象と具体を行き来するかのような演出表現と、イノセントな雰囲気の中、何故だか少々のほの暗さを残すエンディング。そして、圧倒的独自性に溢れた画面作り。そのひとつひとつが絶妙なバランスで組み合わさり、印象深い作品に仕上がっていました。

最初は「何故毛糸でやろうと思ったんだ……」とも感じましたが、運命の赤い糸という言葉があるように、人と人との縁は良く糸や紐状のものに例えられたりします。そういった視点から作品を見ると、確かにこれほどストレートにキャラ同士の関係を表現できる素材もないかもしれないと感じました。

Youtubeにトレーラーがあったので載せておきます。個人的にこの作品は、高いアート性を感じさせながらもアニメーション部門としてもふさわしいと言える点が、昨年の大賞とは異なる部分であり、また評価できる点だと思いました

 

 

 

次に、『Among the black waves』について。

この作品も印象的な画面作りをしていますが、カラフルな毛糸を使った先述の作品とは違い、ほぼ白黒のみで表現された短編アニメーションです。これもYoutubeにディザームービーがあったので貼っておきます。

……といっても、これだけだと演出の雰囲気がわかるだけで物語は全然わからないですよね……。なのでざっくりと説明。

古代ケルトでは、“溺れ死んだ人の魂はアザラシへと姿を変える”という伝説があるそうです。その伝説を題材にしたこの作品は、「ある夜、アザラシの毛皮を脱いで水浴びをしていた少女に一目惚れした漁師は、彼女が海に帰らないようにアザラシの毛皮を盗み、自分の妻にしてしまう。やがて二人の間には子供が生まれ幸せな日々を送っていたが、妻はいつもどこか寂しげに海を見つめていた。ある日、夫が留守中に隠していたアザラシの毛皮を子供が見つけてしまう。驚愕した妻はそれを纏い、最後には海に帰って行った。」という物語です。羽衣伝説と非常に近い内容ですね。

展開こそ先が読める王道ものですが、墨絵のような画風と、2Dアニメーションならではの味のある粗さが見事にマッチした、非常に質量感のある作品となっていました。

誰かの悪夢に迷い込んだような、それでいて子供に読み聞かせる絵本を見ているような、妙に頭に残る不思議な感覚を味わうことが出来ます。

 

 

ところで余談ですが、ロシア作者の作品って……なんだかナチュラルに病んでません?去年のオタマジャクシのも思ったんですけど、こう……すごく自然に「病み」を作品に落とし込んでいると言うか……。(褒め言葉)

 

 

 

今年のアニメーション部門は、昨年と比べて全体的に良い意味でわかりやすい作品が多かった気がします。アート性の高いものが混じりながらも、ひとつひとつの作品が“アート部門ではなく、アニメーション部門に応募している”という芯を感じました。過去の感想では「部門の分け方がもはやナンセンス」的なことを書きましたが、意外と「どこの部門に出す気で作品を制作したか」というのは大切な核になるのかもしれません。

気になったのが、去年圧倒的存在感を見せつけたフランス勢が、今回は振るわなかったことです。一応、審査委員推薦作品には入っているのですが、キャプションを読む限り去年の受賞作と近い作風で仕上げているように思えます。これらが上位の賞に選ばれなかったのは、単純にレベルが足りなかったのか、去年の結果を経て審査委員の方に何かしらの心情の変化があったのか、そのあたりが気になりますね。

 

 

 

 

これは今更いうことでもないですが、日本アニメと外国アニメーション作品は、その間にエベレストより高い壁を感じるほど明確な隔たりがある気がします。同じ部門として評価されて良いのか疑問に思ってしまう程です。

じゃあ、何がそんなに違うのだろうと考えたとき、私は“作品における登場人物(それに相当するもの)の役割”が、ひとつキーになっているのかなと思いました。

日本アニメだと多くの場合、見る側は登場人物達に共感して、興奮したり、泣いたり、もしくは主人公の仲間になったような気分で作品を楽しみます。“キャラ”を視聴者の一番近い位置に置き、作品の芯となるコンセプトは全面に押し出さない。むしろ、コンセプトを強く感じる作品は“クセがある”という評価をされたりします。逆に、メディア芸術祭に出てくる海外、特にヨーロッパの映像作品は、コンセプトをまずばーんと押し出し、登場人物達はそれを引き立たせるパーツ、アイコンという役割を担っているものが多い。

これらの作品からは共通して「あくまでもコンセプトの伝達が重要」という意思を感じます。だからと言ってはなんですが、作品に圧倒されても登場人物達に対する共感はない。その代わり作者の意思は明確に感じられますが……。エンターテインメント性、商業的思想からは距離を置き、よりアーティスティックであることが重要なようです。

ここが日本アニメ、というか日本アニメ業界が置かれている状況と、海外の明確な差とも言えるでしょう。日本ではまだまだ「アニメだってアート」は通用しない。逆に海外では、日本的アニメはまだまだ「子供が見るもの」から脱せない。

 

受賞作品の話をしててこういうまとめ方もあれですが、どれがより優れた作品か、正しいあり方か、という感想は抱くだけ無駄なんでしょう。各国の作風の違いは、歴史、宗教、文化、様々なものが要因となっているし、評価も星の数ほどバラバラな筈。

取りあえず、各々が独自の道を極めていく方が面白い世界になると思うので、日本は日本らしく、高い共感力を活かしてこれからもわが道を突っ走って欲しいと思います。

 

 

以上、アニメーション部門感想でした。

次回こそはマンガ部門感想……の筈です。

 

 

aki