第20回文化庁メディア芸術祭感想① ―今、「直感的楽しさ」を見つめ直す。
どうも遊木です。
今回は予告通り、『第20回文化庁メディア芸術祭』の感想を書こうと思います。
例によって、素人の主観的感想なのであしからず。
そしておそらく以下の三分割でお届けすると思われます。(多い)
Part1.はじめに、エンターテインメント部門感想(←今ココ!)
Part2.アニメーション部門、マンガ部門感想
Part3.アート部門感想、おわりに
今回は記念すべき第20回目ということで、場所も国立新美術館ではなくNTTインターコミュニケーション・センター 、東京オペラシティアートギャラリーでの開催となりました。
私自身は展覧会に行くのも今年で7回目となりますが、今回は初めて2回会場に行きました。それぞれ違う人と見に行きましたが、複数回行くと1回鑑賞しただけでは気付けなかった発見や考察が見えてきて、非常に興味深かったです。
個人的に「お?」と思ったのが、第19回の感想ブログに書いた展覧会に対する違和感が、かなりの割合で解消されていたことです。これは単純に私の見る目が変わったのか、実際に展覧会に工夫がなされたのか、時代の変化か、要因はわかりませんが、何にせよ前回より私好みの展覧内容でした。
それでは順番に感想を書いていきましょう。なんだか去年の感想はお堅い感じだったので、今回はもう少し砕けたもの(?)を目指しつつ。
○エンターテインメント部門
大賞;シン・ゴジラ
これは取るべくして大賞を取った、という印象です。
(ポケモンGOがリリースされたときは「今年のメディア芸術祭の大賞はポケGOか」とも思いましたが、そうは問屋がおろさなかったようですね。)
映画をご覧になっている方はわかると思いますが、この作品は「怪獣映画」という単純な枠だけでは語れない「本格大災害シミュレーション映画」となっています。政治問題をはじめとした日本の不合理の部分や登場人物たちを取り巻く環境、それらが極限までリアルに作り込まれた質の高い作品です。
ゴジラと言えば、2014年に海外版『GODZILLA ゴジラ』が放映されました。これは作品としては面白かったのですが、当時、あまりにもゴジラに対する解釈にズレを感じて、違和感がひどかったのを覚えています。やはりアメリカ、といってはあれですが、海外版ゴジラはヒーロー的というか神獣のような扱いというか、直接的にはないにしろそういった感覚を作品からひしひしと感じてしまい、「なんか違うよ!ゴジラは違うんだよー!」と思ったものです。
その点『シン・ゴジラ』は、極限までシンプルに“ゴジラ”の存在を表現していました。原爆投下、原子力発電所の事故など、“核”という言葉は日本にとって、どこまでもついてくる足元の影のように切り離せない存在です。そんな、日本人だからこそ感じる“核の落とし子”として誕生したゴジラに対する想いを、この作品ではとても絶妙なバランスで表現していたと思います。
映画のラストも「単なる人間の勝利」や「何としてもゴジラを抹殺すべき」などで終わらせず、あくまでも「ゴジラとこの先どう付き合っていくか」というスタンスのまま完結します。この作品の最後に突きつけられる命題、これはそのまま、現代の日本人が向かい合わなくてはならない現実なのかもしれません。
ところで最後に映されるゴジラ第五形態は、とても庵野さんらしい表現ですよね。庵野さんはこの狂気まみれの尻尾が一体何を意味しているのか明かしていませんが、私は「うん。庵野さん今こういう状態なんだ」で納得することにしています。まぁ意味は不明かもしれませんが、こういう刺激的なビジュアルはとても好きです。
メイキングの映像もとても面白かったです。今のCGの技術ってすごい。
優秀賞;デジタルシャーマン・プロジェクト
この作品の第一印象は「怖い」でした。
その見た目の不気味さもさることながら、“デジタルシャーマン”という考え方にもある種の恐怖を覚えます。しかし、元になっているコンセプトは目新しいものではなく、言ってしまえば誰でも人生で一度は考えるであろう身近なものです。だからこそ鑑賞者は、人間が持つ欲望と理性を、正面からダイレクトに受け取ってしまうのではないでしょうか。
この作品は、ロボットに3Dプリントした故人の顔をつけ、人格や口癖をプログラムし、まるでロボットに憑依しているかのような状態で死後49日を共に過ごす、といった内容のものです。49日の間、このロボットは「自分は死んでいる」という前提で話をし、最終日には「あ、時間なんで私はそろそろいきますね」といった具合で別れを告げる。そして、まるで何かが抜け出したかのような動きでロボットは停止します。
当然、故人が本当に憑依しているわけではないので、これらはすべてプログラムされたものに過ぎません。残されたものに対する慰め、心の整理をする猶予期間、もしくは自己満足……。
“死”というデリケートな問題に体当たりで挑むことによって、多くの人が目を反らしがちな欲望に対する、ひとつの答えを提示しているようにも思えます。
「生者のための葬送の儀式」にデジタル技術を用いることで、ファンタジーのような現象を疑似体験させる。もしかしたら未来には、これらの方法も確立された一つの葬送の形となっているのかもしれません。
しかし、残されたものに寄り添ったシステムのように見えるこれらを、あえてわざとらしいロボットにその役割を負わせていることに、作者のなんらかしらの意図を感じます。
優秀賞;NO SALT RESTAURANT
興味深い作品です。
これは無塩の料理でも“塩味”を感じることができる『ELECTRO FORK』を使ったプロジェクトで、実際にこのフォークを使った食事風景が展示場では流されていました。
“食”は人間にとって欠かすことのできないものであり、また、多くの人が幸福を感じる行為でもあります。そして、塩味は食べ物を美味しいと感じる重要な要素ですが、残念ながら世界には何らかの理由で塩分を摂取できない人が多くいます。そんな人たちにとって、このフォークはまさに神からの贈り物と言っても良いでしょう。美味いは幸せなり。
この作品は、私自身の創作にとっても良い刺激になりました。現代の時点で人間の味覚をフォーク一本でコントロールできるのなら、確かに近い将来、攻殻機動隊のように他人の脳を操ることも可能になるのではないか、と考えてしまいます。今後SF作品を創る上で、非常に参考となる作品でした。
「科学技術による人間の身体機能の補助」はどこまで可能となるのか……それは未来に対するひとつの期待。しかし私たちは、同時にこうも考えるでしょう。「肉体は機械によってどこまでコントロールされてしまうのか」と。非常に興味深いテーマであり、未来に向けて現実的に考えていかねばならない分野でもあります。
優秀賞;Pokémon GO
みなさんご存知、ポケモンGOです。
……実は私はいまだ粘り強くガラケーを使っているフレンズなので、ポケモンGOをやったことがありません。しかし、これがリリースされたときは流石に「スマホにしたい」と思いました。自分でいうのもなんですが私にそう思わせるの本当にすごいですよ!(と、友人も言っていた)
「ポケモンが現実にいたら」というのは、子供なら一度は考えることだと思います。そんなポケモンファンにとって、AR(拡張現実)とのコラボはずっと待ち望んでいたシステムなのではないでしょうか。何より、ポケモンGOは宣伝動画が上手すぎると思うんですよね。まさに、ドキドキワクワクをそのまま形にしたような内容に、世界の多くの人が虜になった筈です。これぞ、エンターテインメント。
肥満大国アメリカでは、健康のためにポケモンGOで外に行こう、という取り上げられ方をしました。家に引きこもっていた子供は外に出るようになり、ポケスポットを自殺の名所に設定したら、自殺者がゼロになったという話もあります。自動車運転中の事故誘発と取り上げられたり、公共の場でのマナーが問題にもなりました。まさに社会現象となったわけです。
これが任天堂のすごいところといいますか、社会に対して娯楽を提供するだけではない、それ以上の役割を背負える器を持つ、そんなゲームを作り出すアイデア力は、流石というほかありません。
優秀賞;Unlimited Corridor
ARの次はVR(仮想現実)です。
私が初めてVRを体験したのは進撃の巨人展でしたが、あれは座りっぱなしだったので、実際に身体を動かすVR体験は今回が初めてでした。
今回の作品の画期的な点は、“曲線を使って直線を体感させる”を実現させたところです。写真のように、会場に設置されている装置は半径3m程の円を分割した様なものです。体験者は機器を身に着けて、手だけ壁に触れた状態で歩行します。するとあら不思議、本当に直線の道を歩いているように感じるんですよね。特に今回用意されていたプログラムは、柵のない高~い建物の淵を歩くという高所恐怖症号泣系の内容で、これは「壁から迂闊に手を離させない」+「早く歩かせない」という条件を自然とクリアさせる、上手い選択だったと思います。そしてこれを体験すると、私たちは日常の中、一体どのように空間を認識しているのか疑問がわいてきます。
今回の作品からは、ゲームセンターなどへのVRゲーム設置の可能性を感じました。使用空間問題に対する言及は、VR業界ではかなり評価されるのではないでしょうか。そしてVRの可能性は当然ゲーム分野だけのものではありません。医療現場、会社の会議、学業……その技術がより高まれば、どんな場面にでも応用が可能です。数年も経てば、VRは今よりずっと私たちの身近なものとなるでしょう。
ただ、会場にいた解説のお兄さんは「VRはまだ歴史が浅い分野で、人体にどのような影響が出るか解明されていない。だから、現状では子供にはあまりお勧めしない」と説明していました。確かにその通りだと思います。
仮想現実はあくまでも仮想。VRとはうまい付き合い方をしなければなりません。
新人賞;岡崎体育「MUSIC VIDEO」
これは、完全に発想の勝利タイプの作品です。
何も難しいことは考えずに、思わず「ふふ」と笑ってしまう作品です。エンターテインメント部門でこういった作品が賞を取ると、何だか安心しますね。YouTubeにあがっている動画を貼っておくので是非見て下さい。
実は去年、私は感想ブログにエンターテインメント部門の選定にはちょっと疑問が残る……的なことを書いていました。というのも、去年の受賞作は「直感的な楽しさ」に欠ける作品が例年よりやや多かったと感じたからです。アニメーション部門でも感じたことですが、「それ、アート部門じゃない?」と感じる作品がいくつかありました。
私は、エンターテインメント部門の作品は「直感的に楽しい、かわいい、美しい、面白い」や「未来に対する可能性を感じる」など、何かしら鑑賞者が掴みやすく、またリアクションを取りやすい要素が基盤にあるべきだと思っています。そこがアート部門との差であり、この部門の存在意義なのではないでしょうか。
去年の作品には、例えるなら、コンセプトというボールを一方的に投げられて、こっちは打ち返し方がわからないと感じるものがありました。私の個人的な意見として、このスタイルはアート部門だからこそ許容されているものであり、エンターテインメント部門の作品ならば、作者と鑑賞者はしっかりキャッチボールが出来なければいけないと思っています。
その点、今年の受賞作はとてもしっくりきました。どの作品も取るべくして受賞した、と感じます。何でしょうね?冒頭に書いた通り、単純に私の見る目が変わったのか、選考委員側の影響か、それとも時代の変化か。もしかしたら初めて展覧会に2回行った、というのが関係しているのかもしれません。
「MUSIC VIDEO」の話をほとんでしていませんが、これはもう見ればわかるものです。是非見て!(2回目)
新人賞;ObOrO
この作品に対する私の第一印象は、「あ、作品タイトル上手いな」です。作品の見た目と、タイトルの字面がリンクしているように見えます。Oだけ大文字にしてあるのでおそらく作者も狙ってのことでしょうが、こういう遊び心は嫌いじゃないです。
写真だと分かり辛いですが、この作品は、下の装置からの送風で回転したボールがふわふわと浮いている、といった感じのものです。風で浮く、という不安定さのせいか、ボールを掴むときに妙におっかなびっくりな手つきになってしまい、大人がやるとその姿が少々滑稽に見えてしまう。それもこの作品の面白さのひとつでしょう。
光と風が作り出す、不安定なようでどこか安心感のある見た目は、その名の通り“朧”という体をうまく表現していると感じました。
ただ個人的には、暗い空間で展示しているのを見たかったなぁと……。
新人賞;RADIX|ORGANISM/APPARTUS
プロジェクションマッピングを用いた作品です。
最近はプロジェクションマッピングも珍しいものではなく、これを用いた表現は世の中に沢山あります。その上で今作のポイントは、マッピングを壁などの無機物ではなく有機物、木にしているという点です。
10分程度の内容で、視覚的な刺激だけでも十分面白い作品なのですが、もう少し掘り下げると、この作品からはデジタル的美しさの行き詰まりを感じ取れる気がします。
自然の美しさは、そのひとつひとつがとても長い時間の末に誕生したものであり、刻一刻とその様相を変えていきます。そこには、ある種の不滅の美が存在していると言っても過言ではないでしょう。その点、デジタル的美は、刺激的で目に新しいものが多い代わりに、積み重ねた質量というものを感じない。当然と言えば当然のことであり、自然とデジタルを比べてどちらが美しいか、などという議論をする気はありません。
ただ、デジタル技術が急速に進化し、それらを誰でも手軽に使えるようなった昨今、そろそろ鑑賞者の目が慣れてきてしまったように思えます。デジタルアートの分野はこの先、心に残る作品を生み出すためには、美しさ以上の何かを作品に落とし込むことが必須になってくるのかもしれません。
そのような観点に立つと、この作品は新しいデジタルアートの切り口を説いているようにも解釈できます。ただ形に合わせるだけでなく、そして刺激的なだけでなく、木の性質を活かしたマッピング内容は、「デジタルアートは自然の美との共存の末に、新しい表現の可能性がある」と示唆しているようにも感じます。
以上、エンターテインメント部門受賞作品感想でした。
展示方法や展覧会全体の感想は最後のブログにつけますので、今回は作品感想だけ。
次回はアニメーション部門、マンガ部門感想の予定です。
aki