第20回文化庁メディア芸術祭感想③ ― モノクロで世界を創る | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

第20回文化庁メディア芸術祭感想③ ― モノクロで世界を創る

どうも遊木です。

11月ですね。

 

今年はHCPの強化、ビジュアルノベル制作でアウトプットに偏った生活を送っていました。なので、ビジュアルノベルを公開した9月中旬からはひたすらインプットの生活を送っています。

……しかしインプットをするとブログのネタがガンガン溜まるので、その消化が追いつかないと言う……取りあえずメディア芸術祭の残りを頑張ります。

というわけで、今回はマンガ部門の感想です。

 

Part1.はじめに、エンターテインメント部門感想

Part2.アニメーション部門感想

Part3.マンガ部門感想(←今ココ!)

Part4.アート部門感想、おわりに

 

 

 

○マンガ部門

大賞;BLUE GIANT

優秀賞;総務部総務課山口六平太

優秀賞;未生 ミセン

優秀賞;有害都市

優秀賞;Sunny

新人賞;応天の門

新人賞;月に吠えらんねえ

新人賞;ヤスミーン

 

 

マンガ部門もアニメーション部門と同様、全ての作品に目を通しているわけではないので、展示から感じた全体的な感想を述べようと思います。

受賞した作品はどれも「なるほどな」と納得できるものでした。昨今、SNSなどではゆるいウェブ漫画がウケる風潮にありますが、その流れの中で、作者の内に秘める“何か”をむき出しにしたようなパンチのある作品が多く受賞していることは、個人的に大変喜ばしく思います。

一種の偏見かもしれませんが、ウェブ上で読める無料漫画は、その多くが読者から流し読みされる、暇つぶしの役割を前提に掲載されている気がします。もちろん昔から、「漫画は暇つぶしのためのもの」という捉えられ方はされてきたでしょうが、それでも金銭を払わなければ読めなかった当時と、現代の“無料で誰でも”には、同じ「暇つぶしの道具」という肩書の裏に、大きな隔たりを感じます。漫画を描く人間として、昔でも今でも作品を仕上げる大変さに大きな違いはないだろうと思うからこそ、なんとな~く流し読みされることをそもそもの前提とされている(と感じる)昨今の無料ウェブ漫画のあり様に、首を傾げてしまう今日この頃です。たとえ多くの人に暇つぶし程度の役割しか認識されなくても、漫画には「贅沢な暇つぶし品」を目指して欲しい。

とはいうものの、そもそも漫画の無料化はスマホアプリの台頭が大いに関係していると思うので、文化を廃れさせないために無料化という措置を取って行くことは理解できます。だからこそこのような展覧会で受賞する作品が、時代の流れに迎合しないもので嬉しいと感じるのかもしれません。

 

 

 

大賞の『BLUE GIANT』、新人賞の『ヤスミーン』は、特に原稿から圧倒的な熱量を感じました。漫画なので、登場人物の声も、汗や血しぶき、そこに流れているかもしれない爆音、それらすべてを紙の上で表現します。この二作品からは、世界を構成する様々要素が、原稿からはみ出してこちら側に体当たりをしてくるような印象を受けました。これはなかなか出来ることではないと思います。飾らすに「すごい」と感じる作品です。

 

 

 

個人的に『ヤスミーン』の絵柄は一度見たら忘れられないインパクトがありました。不気味の谷……というのでしょうか。動物の身体つきはリアルなのに、瞳の表現はすごく人間的で、この漫画に描かれているものは動物なのか、見ている自分は人間なのか、不安定な場所に立っているような危うい感覚になります。

 

 

 

 

『有害都市』『Sunny』『月に吠えらんねえ』からは、叫びのような熱量というより、滲み出るような、作者の歯軋りが聞こえてくるような、そんな感覚を覚えました。漫画の本質は「おもしろいこと」とはいうものの、おもしろさという枠では括りきれない作者の主張を感じる重量のある作品です。「あぁ、描かずにはいられなかったのだろう」と感じました。

特に『有害都市』に関しては、この内容の作品が文化庁主催の芸術祭でしっかり評価された、そのことにも大きな意味を感じます。「表現の自由」とは一体何なのか。それは昔から多くの人が尊び、そして悩まされてきた問題です。自由を考える人ほど不自由を実感せずにはいられない、このジレンマと向き合い続けることが表現者の宿命なのかもしれません。

 

 

『応天の門』に関しては、もう完全に個人的な趣味の話ですが、圧倒的色気のある絵柄にノックアウトされました。目つきも良いですが、特に口元がやばい。

サラッ!シュッ!という効果音が聞こえてきそうなペンタッチと魅力的な絵柄、平安の世界観が狂うことなく見事にマッチしている作品です。漫画は、物語だけじゃない。絵だけじゃない。様々な要素が複雑に絡み合って成立していることが良く分かります。

 

 

今回唯一の海外勢受賞作品『未生 ミセン』は、これまた唯一のカラー漫画でした。

この作品を見て感じたのは、「漫画がモノクロで表現される意味とはなんだろう」ということです。個人的にフルカラー漫画とモノクロ漫画は別媒体だと思っていますが、良く考えるとアメコミなども基本はカラーの印象がありますし、「え、漫画は普通モノクロでしょ?」という考えは日本独自のものなのかもしれません。

私が初めてフルカラー漫画を読んだのは峰倉先生の『Stigma』でしたが、当時から他の漫画には感じない違和感があったのを覚えています。単純な作業量の問題、印刷の関係、現実的な問題も当然あるでしょうが、多くの日本漫画がモノクロで表現され、その表現が歓迎されてきたのは、墨と共に生きてきた日本人独自の美的価値観が関係していのかもしれません。近年は日本でもフルカラー漫画が増えてきましたが、やはり漫画の本編はモノクロで表現することに美学を感じます。

 

 

最後に『総務部総務課山口六平太』について触れておきます。この作品は去年、作画担当の高井先生が亡くなられ、連載開始から30年で完結。その間一度も休載することなく連載が続けられました。秋本先生の『こち亀』も同様ですが、数十年にも渡る連載を続けながら、完結まで一度も休載しないというのは、本当にすごい……なんて陳腐な言葉では表現しきれないくらいぶっとんだことだと思います。

読者は当然のように毎週、毎月、漫画の続きを読めると思っている。その思いを絶対に裏切らない姿勢は、漫画家という枠を超えて人間として見事という他ありません。

 

 

ところで講評に四コマ漫画の衰退を指摘している審査員がいましたが、確かに言われてみればそうですね。所謂、起承転結型の四コマ漫画って最近少なくなっている気がします。現代の四コマ漫画は、その多くが物語を切り取って四つに分割しているだけで、昔からある四コマ漫画とはちょっと違う気がするんですよね。私はエッセイ漫画のとき以外は四コマを使わないのであまりピンとこないのですが、この昔ながらの四コマ漫画の衰退が一体何を意味しているのか、少々気になります。

 

あとは、やはりアナログ原稿は良いな、と。

どんどん便利になっていくデジタル漫画ツールの影響で、プロの漫画家もその多くがデジタルに移行しています。私も場合によって使い分けていますが、確かにデジタルは便利です。汚れないし、がさばらないし、お金もアナログ程かからない。そもそもつけペンとか、トーンの扱いとか、自分が思った通りに出来るようになるまで練習が必要ですからね。正直デジタルより倍ぐらいハードルが高いんですよ。

それでも、私は見るのも自分で制作するのもアナログ原稿が良いなぁと思います。原稿用紙を引っ掻くカリカリという音や、乾いたインクの僅かな凸凹とか、もう芸術ですよね。「あ、この線は二度と引けないな」という感覚を味わえるのもアナログの醍醐味だと思います。

 

 

 

以上、なんだか「漫画良いなー」しか語っていない気がしますが、マンガ部門感想でした。

次のアート部門でようやくラストです!

 

 

aki