このブログの実質的な第1号の記事は、MBAに比べより特定の専門分野に特化した「Specialized Masters」についてのものでした。本記事はその更新版です。その後もSpecialized Mastersを提供している学校は増えており、この記事でも後に触れますがざっと調べてみたところ、トップ15のビジネススクールのうち現在は11校(M7のうち4校)で何らかのSpecialized Mastersが提供されています。それ以下のランクの大学では、ほぼ全てが提供していると言っていい状況となっています。
Specialized Mastersとは?
Specialized Mastersは、ビジネスリーダー養成を目的として広く浅く学ぶMBAと異なり、より特定の専門分野に特化した専門職課程です。対象学生やプログラムのフォーマット等はプログラムにより異なりますが、MBAより職歴の浅い(全くない/インターンしかない)学生を対象としていることが多いです。学部-修士一貫課程が用意されていることもあります。フルタイムのプログラムであれば1年~1.5年程度で終了できることが多いようです。カリキュラム上の特徴としては、MBAのようにビジネスの一通りの分野をカバーするコアコース等は用意されておらず、直ぐに専門の授業に入ります。修士論文はありません(もう少し軽めのプロジェクト等はあるかと思いますが)。
卒業後は各々の分野の専門的なポジションで務めることになりますが、マネージャー一歩手前ぐらいから始まることが多いMBAとは異なり、通常はあくまでスタッフレベルからのスタートです。そのため、卒業後の初任給は一般的にはMBAと比較すると低くなります。
Specialty Masters Programs | Paul Merage School of Business | UCI
UC Irvine Pal Merage School of BusinessのSpecialized Masters。対象となる学生、プログラム・フォーマット等が専攻により異なるため、横並びで比較できる形で紹介しています。
こうしたプログラムの中には、正直に言えばビジネススクールの学生集めの側面も否めないものもあり、また外国人の留学生の割合がかなり高い場合もあります。但し、外国人であれば米国での就職を期待して留学しているケースが一般的であり、学校側としても就職実績がなければ学生を集められませんので、米国で通用するよう学生を厳しく鍛えてくれるプログラムも多いです。米国における外国人STEM(理系)卒業者の就業優遇制度にも積極的に対応しています。
主な提供分野
ここから先は、分野ごとに提供されているプログラムの一般的な概要を書いていきます。Specialized MastersはMBAほどフォーマットが定まっていない側面もあり、一般的な傾向が当てはまらないプログラムもあるかと思いますのでご留意ください。また、パートタイムの場合には大きく傾向が異なるケースもありますのでこちらもご留意ください。
(1)ファイナンス
定番のファイナンス。Specialized Mastersを用意している学校も多いとされています。カリキュラムとしては、MBAと共通の科目と独自の科目の双方から構成されている場合が多く、後者はMBAよりテクニカルなコース設定になっている場合が多いです。一般的なファイナンスのコースの他に、より定量的なコースを用意している学校もあります。最近は上記のSTEM対応が進んでおり、ほとんどの学校でSTEM認定を受けられるようになっているようです。一般的に学部でファイナンスを専攻している必要はありませんが、ある程度はバックグラウンドの前提条件(数学・経済学・統計学の履修等)があります。
キャリアパスはコーポレートファイナンス・マーケット関係双方あります。卒業後にはCFAを取得する学生も多いようです。
(2)会計学
アメリカの会計専攻は、公認会計士(CPA)養成コースになっていることが殆どです。CPAの取得要件は「単位取得」「資格試験」「実務経験」の3つに分かれており、最近は最初の「取得単位」の要件を満たすのに必要な単位数が増えているため、大学院まで進むのも一般的になっています。学部の会計学専攻は学習しなければいけない範囲が広く、ひたすら必要な範囲をカバーするだけで選択科目等もほとんどないケースも多いですが、修士課程では例えばフォレンジック、内部統制、税務等、専門分野を選んでより進んだ勉強することができます。学部時代に会計学を専攻した既修者向けの他に、未修者向けのコースを設けている学校もあります(但し、入学要件やCPAの取得要件を満たすことができるか、等は注意が必要になります)。学校によっては別に税務専門の修士課程を設けているケースもあります。
会計学は外国人でも比較的米国で就職しやすい専攻ですが、一般的にはSTEM専攻とはみなされないためビザ取得の制度の面では強みはありませんでした。最近ではこうした点に対応するため、会計データ分析等の授業を用意することでSTEM対応しているコースもあるようです。
(3)経営学
経営学のSpecialized Mastersは他と異なり、狭い意味での「経営学(経営組織論・戦略論)」に特化するのではなく、エントリー/アーリーキャリアの学生向けにMBAのようなゼネラリスト教育を施すプログラムです。学部の段階でビジネスを専攻している必要はありません。カリキュラムとしてはMBAのコアコースに近い必修科目に少数の選択科目(経営学だけでなく他のビジネス分野も含む)やアクション・ラーニング(実際の企業を訪問して経営診断等を行う等)を加える内容となっていることが一般的です。
NGO等のビジネス以外の経験(インターン含む)を積んだ学生向けのコンバージョン・コースとしての側面もあると思われます。卒業後はキャリアを積んだ後でまた大学に戻り、Specialized Mastersのバックグラウンドを生かす形で1年制MBAを取得するルートもできているようです。
(4)ビジネス・アナリティクス
ビジネススクールで提供されているデータ分析関係のプログラム。「ビジネス・アナリティクス」は計算機科学科等で提供される「データサイエンス」に比べると「文系」っぽいイメージがありますが、実際には学部で理系だった学生を中心に採用し、経済学・ビジネス等の学生も一部入っている、といったケースが多いようです。学習内容はもちろんプログラミングや機械学習といった専門的な勉強が中心となり、MBAで教えられる内容と比べるとかなりテクニカルになっている場合が多いようです。学校によってはさらに機能別(ファイナンス・マーケティング等)の内容やテクニカル・コミュニケーション、リーダーシップ等のトレーニングを用意している場合もあります。
就職先としてはどちらかと言えばテック系だけでなく、コンサル・インダストリーへの就職も多いようです。データ分析の専門性は需要が高く、勿論ビジネス・アナリテイクスを専攻していればSTEM専攻としても認められるため、外国人留学生にも人気が高い専攻です。
(5)経営情報システム
ITの技術とビジネスの両側面を学ぶ経営情報システム専攻。カリキュラムとしては、基礎的な情報技術・プログラミング、伝統的なデータベース・情報管理、システム分析・デザイン等に加え、クラウド・コンピューティング、データ分析、セキュリティ等の内容も増えているようです。ビジネスの側面ではIT戦略・プロジェクト管理・投資評価等についても勉強します。どちらかと言えば、エンジニアというよりは「情報システム担当者(又はコンサル)」向けのプログラムです。
以前はMBA、Specialized Masters双方から勉強できることが多かったものと思いますが、最近は学習内容が増えたこともあってか、Specialized Mastersに特化し、MBA向けの授業は軽めにしている学校も出てきているように見えます。計算機科学等と比べると「文系」的なプログラムですが、STEM専攻として認められます。
(6)サプライチェーン・マネジメント
サプライチェーン・マネジメント。米国では確固たる職種として確立しており、専門職教育も充実しています。このポジションは、例えば「需要予測は職人的に詳しいけれど購買のことは何も分からない」といったように、サプライチェーン全体の中で特定の分野の専門性に穴が空いてしまうと務まらないため、教育課程の方も需要予測から購買、ロジスティクス・在庫管理、オペレーション管理等、サプライチェーン全体に渡る専門性を習得できるようになっています。その専門性の高さから、MBAとは別建てでSpecialized Mastersが設定されているケースも比較的、多いです。STEM専攻としても認められます。
上位校のプログラム
最後に、MBAランキングでトップ15のビジネススクールについて、どのようなプログラムが提供されているかざっと調べてみましたのでまとめておきます。調べてみた限り、15校のうち11校(M7のうち4校)で何らかのSpecialized Mastersが提供されているようです(提供していないのはHBS/Wharton/Stanford-GSB(MSxはSpecialized Mastersには該当しないものと思いますのでカウントしていません)/Dartmouth-Tuckのみ)。あくまでもざっと見ただけですので、漏れ抜けなどはあるかと思いますがご了承ください。なお、それ以下のランクの学校では、ほぼ全てが提供していると言っていい状況となっています。






