Drew Carver1, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:1258X489_How-SSL-Certificates-Work.jpg

インターネットで広く用いられる暗号化通信プロトコル「SSL」を説明した図。

本ブログでは何度かにわたってデータサイエンス・アナリティクス関係のプログラムを紹介しています。こうしたデータ分析関係とともに、最近、発展が著しい分野にサイバーセキュリティがあります。セキュリティの専門家だけでなく、他分野の専門職や一般のビジネスプロフェッショナルも触りぐらいは知っておいた方がいい領域だと思います。そこで、今回はアメリカにおけるサイバーセキュリティ分野の専門職課程を調べてみることにしました。

 

みんなのコード「国内の大学における情報系学部・学科の実態調査」(アメリカとの比較)


筆者自身はセキュリティやITの専門職ではなく、またビジネス系の勉強をしていた頃に経営情報システムの入門的な内容を勉強したのももう随分昔の話です。さらに言えば当時、セキュリティの内容をしっかり勉強した記憶はありません。ですので本記事では、私のような人のアップスキリングの機会についても少しメモしてみました。

1.専門職課程

アメリカのIT系専門職教育一般については、こちらの過去記事で説明していますので横に並べてご覧ください。

(1)情報学部

サイバーセキュリティ関係の勉強は、もちろん計算機科学関係の学部でもできます(通常の課程の他に、1年制の専門職修士課程を設けている場合もあるようです)。一方で、経営的(という言い方が正しいかどうかはよくわかりませんが)な内容まで含めたトレーニングを提供しているのは、「図書館情報学」の流れをくむ「情報学部」です。「iSchool」と呼ばれていることも多いです。こうした学部では、図書館司書向けの課程だけでなく、企業その他の組織に就職する人向けに「情報管理」「データサイエンス」「ヒューマンコンピュータインタラクション」等、様々な課程が用意されており、サイバーセキュリテイもその中で教えられています。


https://ischool.uw.edu/programs/msim/specializations
ワシントン大学情報学部のウェブサイト。学部で「Informatics」、修士で「Master of Library and Information Science」「Master of Science in Information Management」プログラムをそれぞれ提供しています。「Information Management」プログラムでは、「Business Intelligence」「Data Science」「User Experience」「Program/Product Management & Consulting」「Information Architecture」に加えて「Information and Cyber Security」専攻(Specialization)が用意されています。


プログラムとしては、所謂エンジニアの養成というより、「企業(その他の組織)の情報管理・セキュリティ担当者」育成プログラムだと思います。情報学部は、昔は情報系の中では比較的、就職が良くない方だったとは思いますが(「卒業してもWebサイト管理者にしかなれない」みたいな評判も小耳にはさんだ気もしますが…)、情報系の教育のニーズはますます高まっていますので、昨今のデータ分析やこうしたセキュリティ分野も含め活躍の場は広がっているのではないかと思います。卒業生の年収を見ても、なかなかに高いですね。

一方、本家(?)の図書館情報学は、卒業生の年収という意味ではかなり報われない専攻になってしまっているようですが…。

(2)ビジネススクール

ビジネススクールには(すべての大学にではありませんが)経営情報システム学科があり、そうしたところでプロフェッショナルの育成を行っています(学部Specialized MastersMBA)。情報システムとサイバーセキュリティは厳密には異なる職能ですが、もちろん両者は密接に関連していますので、そうしたところの教育にもサイバーセキュリティは積極的に取り入れられているようです(セキュリティそのものに特化したプログラムを用意しているケースは多くないと思いますが)。



https://foster.uw.edu/academics/degree-programs/master-of-science-in-information-systems/curriculum/

同じくワシントン大学のビジネススクール(Washington-Foster)「Master of Science in Information Systems」のウェブサイト。MBAとは別枠の1年制プログラム(Specialized Masters)でプロフェッショナルを要請しています。学習内容を見ると、「Data Mining & Analytics」「Cloud Computing」「Executive Leadership」に加えて「Cybersecurity」をカリキュラムの4本柱としてアピールしています。
 

  • 特にフルタイムMBAは学生数が減っており、一部の大学では提供コースを減らすなどもしているようなので、そうした影響はあるのかもしれません。
  • データ分析やこうしたセキュリティの授業も含め、IT関係の学習内容は増えており、MBAの専攻(Concentration)の一般的な単位数では必要な範囲が十分にカバーしきれなくなっている可能性もあります。
  • もしかしたら、情報システムをしっかりと勉強したいMBA学生はSpecialized Mastersとのダブルディグリーに誘導される(=追加の時間・授業料がかかる)のかも?

等があるかもしれません。


2.資格

サイバーセキュリティ関係の資格は日米を問わず広く流通しています。少し検索してみると、例えば以下のようなリストが見つかりました。

 

 

アメリカではこうした資格というのは、一般的には「就業経験、試験、学歴(資格認定団体がコースを提供していること等もありますが)」の三つが組み合わさってできています。上記の資格の概要を見てみると、学歴要件が必須なものこそ見当たりませんが、「学位がある場合には実務経験xx年としてカウント」といった記載があるものもありますね。また多くの資格が実務経験を要求しており、日本のように「試験で受かっただけ」で名乗れる資格というものは多くなく(全部が全部、というわけでもありませんが)、また、実際にも試験に受かっただけでなく、経験等の要件も満たしてきちんと登録していないと、ジョブマーケットでの価値も限られるケースが多いようです。

日本だと米系資格にチャレンジする場合、結構、試験に合格しただけで終えてしまって登録まではしていないケースも多いように思いますが、この辺りは日米でかなり感覚が違うところです。

 

アメリカの公認会計士養成課程


そうした背景もあり、こうした資格というのは学位の代替というよりは、学位を取った後で経験を積み、試験を受けて取得するもの、というイメージが強いです(いずれにせよ価値が高い資格の取得には実務経験が必要なため、資格を取ってマーケットにエントリーする、という道筋は必ずしも容易ではない場合も多いです)。

3.アップスキリング

筆者のように学校を卒業して時間を経ってからのアップスキリングのため、各ビジネススクールでは教育プログラムやサーティフィケートの提供等を行っています(サイバーセキュリティのように、その分野の専門職でなくとも知っておくべき内容のトレーニングを含む)。また、専門資格等を取得している場合には、登録先の団体で情報を提供したり、教育プログラムを用意している場合もあります。日本でも士業(会計士税理士弁護士等)であれば協会がそうした機能を果たしているものと思いますが、それと似たような機能を果たす団体がより幅広い専門分野にあるようなイメージでしょうか。

 

米国公認会計士協会(AICPA)のウェブサイト。独立開業していれば自分のセキュリティは自分でやらないといけませんし、一方でクライアント向けに関連のサービスを提供しようとするメンバーもいるということで、教育プログラムの提供を含めいろいろなニーズに対応したコンテンツを用意しているようです。


日本でもアメリカでも、大きな企業で働いていれば会社の研修などでも勉強できるんだとは思いますが、アメリカのように頻繁に転職したり、またフリーランスで働く人も多い社会では、こうした学校や専門資格の団体等による情報提供や教育プログラムの提供はとても有効だと思います(学校から離れて時間が経ってみると、ありがたさが分かるものです…)。

ただ最近は、Coursera等のオンラインプラットフォームで高品質の教育プログラムが大量に提供されていますので、実際にはそうしたところで勉強する人が多いのではないかと思います。筆者自身は、割と本を読んだりとか、そういう古い勉強の仕方をしがちなんですねどね…。



こういった分野の勉強は、日本でも資格真剣等が急速に整備され、学習環境も作られてきています。社会がより複雑になり、勉強しなければいけない内容も増えていく中で、若い皆様には、是非、早いうちから積極的にこうした内容も勉強されることをおすすめします。そうした努力に所謂JTCがどこまで報いられるか、未だにちょっと自信がないところもありますが、早めにキャリアについて考え、必要な勉強をしていかないと、キャリア形成に時間がかかりすぎることになってしまいますので…。