UnsplashAnnie Sprattが撮影した写真

 

久しぶりにビジネススクール関係の記事を。アメリカではMBAプログラムは通常、フルタイムであれば2年制となっています(MBA以外のSpecialized Mastersであれば、もっと短いプログラムもあります)。しかし最近、すこしずつではありますが、「フルタイム1年制」のMBAのプログラムが出てきているそうです。

 

そちらについて、少し前ですがいくつか記事が出ていました。

 

 


いくつかポイントを書き出しておきます。

  • アメリカではMBAプログラムは通常、2年制です。しかしヨーロッパ等ではMBAを含む修士は一般的に1年制であり、国際的にはMBAも1年制のニーズが高まっています。
  • 1年制の魅力としては、トータルの学費が安いこと、より短期に集中したカリキュラムになっていること、教員ー学生比が優れていること、等が挙げられます。一方、2年制MBAは学習内容がより豊富で、ネットワーキングの機会等の面でも優れているとされています。
  • さらに、1年制の場合、就職活動をかなり早期から(ほぼプログラムに入った瞬間から)始めなければならず、サマージョブもないため、大きなキャリアチェンジは難しくなるようです。別の言い方をすれば、プログラムに入る前から卒業後の方向性がはっきりと見えている(それに対する適切な経験も既に積んでいる)ことが必要であり、総じてアメリカでキャリアを築こうとするプロフェッショナルにとって「1年制MBAは必ずしも万人向けではない」がコンセンサスになっているようです。

本ブログでは、MBAプログラムについてもいくつか記事を書いています。主なものは以下をご覧ください。

 

米国のビジネススクールの最近のトレンド

アメリカのオンラインMBA:ポスト・コロナの衝撃

最近の米国MBAの人気科目の傾向

戦略経営のスキルとキャリア

MBAのキャリアパス:プロダクト・マネージャー

エグゼクティブMBAと、ビジネススクールの立地あれこれ

 

上の方の記事に主なビジネススクールの1年制プログラムがいくつか紹介されていましたので、ウェブサイトを見てみることにしました。

 

Poets&Quants - The Top One-Year MBA Programs In The United States (poetsandquants.com)

ランキングはこの記事を書いているベンダーのもの。以下では敢えて触れませんが、授業料はもはやとんでもない金額になっていますね…。

 

いくつかパターンに分けてご紹介します。

 

 1.既にビジネス教育を受けた学生を対象とする場合(Kellogg、Fuqua)

 

ランクが比較的高い学校を見ると、Northwestern-Kellogg、Duke-Fuquaが1年制プログラムを提供しています。これらのプログラムの特徴は、既にビジネス教育を受けた学生を対象にしたプログラムになっていることで、Fuquaは既に修士号を取得していることを出願条件にしています(Kellogは学部でビジネスを勉強した学生も出願できるようです)。

 

これらの学校は、実は既にMaster of Management(実務経験の少ない(全くない/インターンしかない)学生向けの1年制プログラム)を別枠で提供しており、MBAプログラムの1年目で履修するコアコースの内容等はそちらのプログラムでもカバーしています。こうしたプログラムを先に終えた後、社会に出て経験を積み、大学に戻ってきてMBAの残りのカリキュラムを終わらせる、というルートを提案しているように見えます。

 

 2.Tech MBA(Stern、Johnson)

 

NYU-Stern、Cornell-Johnsonは、テック業界に特化した「Tech MBA」プログラムを用意しています。Johnsonは他にも1年制MBAを提供していましたが、現在はTech MBAに一本化したそうです。Sternは他にも、同じく対象業界を絞った「Fashion & Luxury MBA」を提供しています。
 

Program Overview - NYU Stern

 

NYU-Stern Tech MBAのプログラム概要。5月スタート5月エンド、一般的なビジネスのコアコースの内容は夏~秋までに終わらせ、引き続いてTech Core(テクノロジー関係、データ分析プロダクト・マネジメント等を含む)を勉強しつつ、プロジェクト・コースで徹底的に業界の関係者と引き合わせる。こうしたところでの人脈形成を元に就職していく学生も多いものと思います。

 

Class Profile - NYU Stern

 

NYU-Stern Tech MBAの学生構成。50人超の学生のうち5割が女性、4割が外国籍、平均在職年数は5.7年。ビッグ・テックとスタートアップを合わせると4割が入学前からテック企業の経験を積んでいます。さらに学部の専攻を見ても4分の3超が工学・数学・科学とビジネスであり、このルートからテック業界に参入するにはかなり早い段階から準備しておく必要があることを伺わせます。

 

The Kellogg & McCormick MBAi Program | Kellogg School of Management (northwestern.edu)

 

こちらは1年制ではないため上のリストには出てきませんが、Kelloggが工学部(McCormick)と共同で運営しているプログラム(MBAi)のウェブサイト。テクニカルな職歴やSTEMの学歴がある学生(経験年数2~6年程度)を想定し、5クオーターでビジネスとAIの両側面を教える。サマージョブの機会が得られることもアピールしています。

 

 3.その他

 

ONE-YEAR MBA (IBEAR) - USC Marshall

 

USC-MarshallのOne-Year MBA(International Business Education and Research/IBEAR)のウェブサイト。新入生の平均年齢36歳(通常の米国のプログラムと比べて極めて高い)、各学年12~15か国から55人程度の学生を集めているとしており、留学生向けに国際フォーマット(=1年制)の教育を提供しているものと見られます。一方、STEM認定を受けていることもアピールしており、米国内での就職にも配慮しているようです。
 

J-Term | Columbia Business School Academics

 

こちらも上のリストには出てきませんが、Columbia Business SchoolのJ-termプログラム。1月スタート、サマージョブをスキップしてコアコースを履修し、2年制MBAと同じ内容を16か月で終えるプログラムです。

 

 

今回は以上です。実際には1年制はアメリカでは主流ではなく、学校側としても1年制をあまり増やせば2年制と学生を取り合ってしまうことになると思いますので今後大きく増えるかどうかは分かりません。しかし、MBAで教わる知識的な内容は既にかなり広く普及しており、またネットワーキングや転職の仕方等も、2年制のMBAが確立された頃からは大きく変化しています。さらに、特にテック業界等であれば、やらなければいけないことは沢山ありますのでビジネスの勉強にあまり時間をかけたくない人も多いでしょうし、またフルタイムMBAの伝統的な人気就職先(投資銀行、戦略コンサル等)と比べてもReputation Gameの度合いは高くないのではないかと推測します。そうしたことから、フルタイムMBAの教育フォーマットも今後、変化していっても不思議ではないように思います。