アメリカで「理系(Science、Technology、Engineering、Mathematicsの頭文字を取り「STEM」と呼ばれる)」のカリキュラムを取り入れたMBAプログラムが続々、立ち上がっているそうです。

 

丁度一年前、こんな記事を書きました。

 

 

留学生が卒業後、アメリカで就職する際に障害となるビザ規制が厳格化され、反移民的な政策が取られていることにより、近年、ビジネススクールが学生集めに苦しむ中で、アメリカの移民制度上、ビザ取得に有利なSTEMの認定を受けた修士課程に注目が集まっている、という記事です。アメリカでは、医学や工学といった分野に加え、例えば以下のような分野についても、STEMと見做されることがあります。

アメリカの移民制度の概要等は元記事を見て頂ければと思いますが、元記事のポイントの一つとして、MBAは本来、テクニカルなプログラムではなく、従って上記のような分野を専攻していても原則的にSTEM認定は受けられないため、各大学がMBAとは別枠でSTEM認定されたSpecialized Mastersを提供し始めている、という点がありました。

 

しかしその後、調べてみると、元記事を書いてからこの一年の間でも、以前は例外的とされていたこの「STEM認定を受けたMBAプログラム」がかなり増えたようです。そこで、前回の記事のアップデートとして、この記事を書いてみました。

 

 STEM認定を受けたMBAプログラムの例

 

(2020/2/13追記) この記事を書いた後、Stanford GSB、Chicago-Booth、MIT-Sloan、Columbia-GSB、Northwestern-Kellogg、Michigan-Ross、NYU-Stern、Dartmouth-Tuck等も相次いでMBAプログラムのSTEM化を発表しました(Stanford GSBは準備中)。下記と合わせると、トップ校のほぼ全てで何らかの形でSTEM化されたMBAプログラムが提供されることなります。

 

以下の記事に、STEM認定を受けたMBAが幾つか紹介されています。

 

 

調べてみると、カリキュラムの作り方に幾つかパターンがありますね。

 

MBAとSTEM分野の修士のDual Degreeを取得するパターン

  • Harvard Business School - Master of Science in Engineering Sciences and Master of Business Administration (MS/MBA) & MS/MBA Biotechnology: Life Sciences Program
  • MIT Sloan School of Management Leaders for Global Operations Dual-Degree Program (MBAと工学修士のデュアルディグリー・プログラム)
  • University of Notre Dame Mendoza College of Business MBA/Master of Science in Business Analytics Dual Degree、等

STEMプログラムとデュアル・ディグリーを取得することによりSTEMの認定を取得するというもので、これにはビザ規制厳格化の前からあるものもありますね。学位を2つ取得するわけですから、2年間で卒業できる場合でも夏休みにコースを履修する等、ワークロードも(授業料も)増えることが普通です。また、例としてNotre Dame-MendozaのMBA/Master of Science in Business Analytics Dual Degreeを入れておきましたが、最近、ビジネス・アナリティクスのようなSTEMのSpecialized Mastersプログラムを新しく提供し始めた学校の中には、こうしたデュアルディグリー・プログラムを提供している学校も多いものと思われます。

 

特定の選択科目を一定数履修することでSTEM認定が受けられるパターン

  • Duke University Fuqua School of Business - Second Major in Management Science and Technology Management (MSTeM)
  • University of Virginia Darden School of Business: - MBA Specialization in Management Science
  • University of Southern California Marshall School of Business: - MBA Specialization in Management Science、等

分野に関わらず、特定のコースの中から選択科目を一定数、履修することでSTEM認定を受けられるパターンです。一般的には、MBAで専攻(Concentration)を一つ取るよりも沢山のSTEM認定科目を取ることになるようです(Duke-Fuquaは「Second Major」という言い方をしていますね)。選択科目は時代を反映して、アナリティクス・テクノロジー関係が比較的多いようですが、ファイナンス・マーケティング・ヘルスケア関係等のコースも用意されているようです。

 

https://www.marshall.usc.edu/sites/default/files/2019-04/MBA%20STEM%20Management%20Science%20Specialization.pdf

USC-MarshallのMBA Specialization in Management Scienceのカリキュラム構成。同校は既にSTEM認定を受けたSpecialized Mastersプログラムを多く出していることもあり、そうしたプログラムと共有のコースも多いようです。他の学校では、また違ったカリキュラムの組み方をしているかもしれません。

 

一定の専攻を取ることでSTEM認定が受けられるパターン

  • Purdue University Krannert School of Management - MBA in Business Analytics and Information Management, Finance, Global Supply Chain Management, or Marketing
  • University of Wisconsin-Madison School of Business - Full-Time MBA Specialization in Operations and Technology Management or Supply Chain Management
  • Wharton ※ 記事には出てきませんが、専攻によりSTEM認定を受けられることもあるようです(こちらを参照)、等

よりシンプルに、特定の専攻(アナリティクス、ファイナンス、サプライチェーンオペレーション、マーケティング等)を取ることでSTEM認定が受けられるパターンです。

 

MBAプログラム全体がSTEM化されているパターン

  • University of Rochester Simon Business School - All Specializations in Full-Time MBA
  • UCB Haas School of Business ※11月に入り発表(こちらを参照)
  • Carnegie Mellon University Tepper School of Business ※こちらも11月に入り発表(こちらを参照)

 

 これは、どう考えればいいの?

 

私ももう日本に帰ってきてしまっていますので(年も食ってますし(笑))、正直のところ新しい動きにはついていけないところもあります。ちょっと考えただけでも、いろいろと疑問点が浮かんできます。

  • 実際にSTEM職種に就職できるレベルのトレーニングが受けられるのか? ※アメリカの制度上、STEMプログラムを卒業すればどんな職種でもメリットを取りながら就職できるというものではなく、実際に学位の専門性に見合った職種でなければビザは下りないはずです。
  •  もしそうだとしたら、逆に普通のMBA学生には難しすぎるのではないか? ※例えばBusiness AnalyticsのSpecialized Mastersプログラムの場合、分析業務の現場に送り出せる学生を育てるべく、理系学部の卒業生を中心に取っているプログラムも少なくないようです。
  • STEM職種に就職するとして、MBAにかける時間・学費は割に合うのか?他のSTEMプログラムに行った方が効率がいいのではないか?

また、これは個人的な先入観ですが、英語になじんだヨーロッパ・インド・中南米系ならともかく、普通の日本人がこうしたプログラムを経てアメリカで就職するのは、やはり少々難易度が高いのではないか、というのが第一印象ではあります。

 

アメリカのMBAプログラムの応募数は近年減少しており(例えばこちらを参照)、正直のところ、これは大学側の留学生目当ての生き残り策か、と思ってしまうところもなくはありません。しかし、こうしたSTEM教育を受けた学生のニーズが高いことも事実のようで、最初に紹介した記事によれば、MBAをSTEM化した学校は、留学生のみならずアメリカ人の応募者数も増えたそうです。

 

また、例えばUCB-Haas(2019年のUS News and World Reportのランキングでは全米8位=M7の次)、Duke-Fuqua(同10位でMichigan-Rossと同ランク)、Virginia-Darden(同12位でNYU-SternやDatmouth-Tuckと同ランク)等、かなりのランクの大学がこうしたプログラムの提供を始めたということで、これはそろそろ無視できないと思い、本ブログでも取り上げてみました。