久しぶりにSpecialized MastersMBAとは別枠で、より特定の分野に特化した専門職修士課程)の記事を。こうしたプログラムの中には、ビジネスに関わる専攻であるにも関わらず、ビジネススクールの外にあるものもあります。これまでにご紹介してきた、国際関係(金融・経営、国際関係の学部・大学院でも提供)、情報システム(情報関係の学部・大学院でも提供)等の課程も該当しますね。

 

今回は、そのようなビジネススクールの内外にあるプログラムを、さらに幾つかピックアップしてみました。

 

(注)本当は、国際関係や今回紹介する医療経営等は、厳密に言えば、より狭い分野に特化したSpecialized Masters、という言葉の定義からはやや外れるかもしれません。今回は、あまり細かい言葉の定義には拘らず、MBA以外のビジネス関係の修士、と言った意味合いで用いています。

 

 1.サプライチェーン・マネジメント

 

通常はビジネススクールで(MBAの一部として・別個のSpecialized Mastersとして)提供されているサプライチェーン・マネジメント専攻。しかし、MITではビジネススクール(Sloan)ではなく、「MIT Center for Transportation and Logistics」という組織で提供されているようです。ランキングを見ると、分野の性格を反映してか、中西部の大学が多いようですね。

 

 

http://www.best-masters.com/ranking-master-in-usa/master-supply-chain-and-logistics.html 

EDUNIVERSALのサプライチェーン・マネジメントの修士課程のランキング(米国、2017年)。Specialized Mastersは一般的に信頼できるランキングがないため、ご紹介にはいつも苦労します。このランキングにもMBAのプログラムがいくつか混じっていますが、各校(PurdueArizona StateIndianaMichigan State)とも、Specialized Mastersプログラムを出しているようです。

 

アメリカのサプライチェーン・マネジメント分野には資格等もあり、カリキュラムも確立されているようです。物流、運営管理から購買、計画、定量分析・IT、国際SCM等、カバーする範囲が広く、MBAと別枠でプログラムを設けるのも頷ける内容です。

 

キャリアパスとしても、アメリカの事業会社は「サプライチェーン・マネージャー」といったポジションを用意していることが多く、購買から最終的なサービス提供に至るサプライチェーン全体を統括しています。そのようなポジションは、例えば「需要予測は職人的に詳しいけれど購買のことは何も分からない」といったように、サプライチェーン全体の中で特定の分野の専門性に穴が空いてしまうと務まらないため、こうしたプログラムや資格試験等で全方位的な人材を育成しているようです(こちらも参照)。

 

 2.金融工学

 

その名の通り、通常のファイナンス修士とは別に、より定量的な内容にフォーカスしたプログラムです。「Financial Mathematics」等のプログラムも含みます。ビジネススクール、工学部(経営工学関係)、数学科等で教えられています。

 

 

https://tfetimes.com/best-financial-engineering-program-rankings/

TFT Timesの金融工学修士課程のランキング(2018年)。上の表からは直接は分かりませんが、UCB8位のRensselaer Polytechnic Instituteはビジネススクール、他は工学部、数学科等で教えられています。NYUは数学科が提供する「Financial Mathematics」と、工学部で提供する「Financial Engineering」が別々にランクインしています。

 

いずれの場合も実務経験等が求められることは少なく、理系出身者が金融業界に進む際のコンバージョン・コースになっていることが多いようです。また、通常のファイナンス修士の中で、「Quantitative Finance」と言った専攻名でより定量的なコースを用意している場合もありますが、一般的には、それでも「Financial Engineering」プログラムほど数学的ではないことが多いようです。

 

 3.医療経営

 

米国では医療分野の市場が大きくなっていることと、医療費の高騰等の問題を抱えていることもあり、医療分野の専門性を持ったプロフェッショナルが多く求められています。米国の医療は色々と問題も多いので、そのまま真似をするようなものではないと思いますが、日本でも九州大学等で専門職修士を出しているようですね。

  

医療経営は、MBAの専攻(Concentration)の中でコースを取る場合と、公衆衛生関係の大学院で勉強する場合があります。後者の場合、学位名はMaster of Health AdministrationMHA)と言うことが多く、医療経済学、政策・制度論、会計・財務管理から生物統計学、疫学等に至るまで、より医療経営に専門特化して学ぶことができるようになっています。

 

また、MHAに加えて、医療分野で用いられる情報技術に特化したHealth Informatics、生物統計学、公衆衛生等、医療・健康分野では他にも様々な専門職修士課程が用意されているようです。

 

 4.その他のプログラム

 

このブログで既に紹介した中にも、以下の通り、ビジネススクール内外で教えられるものがあります。

 

Ÿ   情報システム(情報学部)

Ÿ  国際金融経営(国際関係学部)

Ÿ   データサイエンスアナリティクス(計算機科学部、統計学部等)

Ÿ   税務(ロースクール)、等

 

日本だと、どうしても専門職大学院=ビジネススクール=MBAの等式が前提になってしまいますが、アメリカでは適切な専門性がある大学院が、結構自由に色々なプログラムを出しています。教える側の感覚として、専門職学位を教えるのが面白いかどうかは良く分からないのですが、少子化に伴い日本でもアカデミック・ポストは減っているようですので、先生としても職を失ってしまうぐらいなら、こういうプログラムに挑戦する所がもっと出てきても良いのではないでしょうか?