先日、ワシントンDCの地下鉄に乗っていると、こんな広告を見かけました。
ニューヨーク大学SternビジネススクールがDCでエグゼクティブMBA(EMBA)プログラムを開設したそうです。EMBAとは、MBAよりも上の年齢層(といっても30台がボリュームゾーンだと思いますが)向けに、一般的には夜間・週末を中心とした2年制パートタイムで提供されるプログラムで、ワークロードは通常のMBAより軽くなるのが普通です(選択科目も比較的限られるそう)。
ワシントンDCは地元の大学(ジョージタウン、ジョージワシントン等)に加え、既に周辺の大学も多く参入しており、上記のEMBAを始めとして様々なパートタイムのプログラムを出しています。ちょっと調べると以下のような大学が出てきました。
ジョンスホプキンス大学(医学等では世界的名門だがビジネススールでは新興勢力)
バージニア大学(日本では知られていないが州立ではUCLAと並ぶ名門)
バージニア・テック(DCの中心街からは少し遠い)
メリーランド大学(メインキャンパスもDC郊外に立地)
メインキャンパスが比較的田舎にある大学が多く、パートタイムのプログラムでは市場を求めてDCに出てくるようです。
「海外のトップ・スクールはパートタイムはやらない」って本当?
「海外のトップ・スクールはパートタイムはやらない」というのは日本で時々聞かれる通説で、それはある程度事実ではあります。しかし、実際にアメリカに住んでみると上記のような世界もあるわけです。この矛盾には、アメリカの大学の立地が深く関係していると思います。
例えばハーバード大学はボストンに立地しています。実際に行ってみると分かりますが、ボストンは世界的ビジネスセンターと呼べるほどの規模の街ではありません。(でも、本当に素晴らしい街です!!)。すると世界のリーダーたるHBSとしては、単純に地元の市場だけをターゲットにせざるを得ないパートタイムプログラムは出しにくいわけです。地元のニーズは他の大学(ボストン大学、ボストン・カレッジ等)が応えています。
スタンフォードも同様で、シリコンバレーはとにかく広大なので(サンフランシスコ-サンノゼ間は東京‐筑波山ぐらいの距離があるそうです)、地元で働きながら夜間に通える学生はかなり限られると思います。
一方、M7の名門ビジネススクールでも、大都市にキャンパスを置くシカゴ、ノースウェスタン、コロンビア大学は、普通にEMBAその他のパートタイムプログラムを出しています。シカゴ、ニューヨークともなると、そのレベルのビジネススクールでも地元のニーズを無視できないわけですね。
大学が田舎に立地していると、困るのはEMBAのようなエグゼクティブ教育です。学生は仕事から離れたくないため、会社を辞めて引っ越すことはできません。HBSは「EMBAの対案」として、オンライン教育と短期集中的なスクーリングを組み合わせた「PLD(Program for Leadership Development)」を用意しており、ウェブサイトを見ていると他にも様々なオンラインコースを出しているようですが、これも「なんとか引っ越してくれないエグゼクティブ層にリーチしたい」という意図を感じます。
一方、ウォートンは「会社に許可を貰って定期的に大学に泊まり込む」ことを前提としたEMBAを出しているようです(MITも近いと思われる)。それもかなり大変ですね…。
ちなみに、EMBAとパートタイムMBAのどちらがより学生を集めているかというと、これも都市によって違いがあるようです。ニューヨークではEMBAが、シカゴではパートタイムMBAが比較的多いと聞きます。また、アメリカでは管理職になるために大学院卒の学歴や資格(例えば経理ならCPA等)が求められる場合も多く、EMBAは通常のパートタイムMBAよりワークロードが軽くなるため、効率的に学歴要件を満たしたいプロフェッショナルが取得しに来ることもあるようです。
日本では…
日本ではビジネスも大学も圧倒的に東京に集中しています。「東京のローカル・ニーズは相手にしない」と言い切れるビジネススクールなどないでしょう。また「ビジネススクールに通うために会社を辞めて引っ越す」という学生もほとんどいないと思います。ですので、日本の地理環境を考えると、少なくとも東京にあるビジネススクールがことごとくパートタイム中心になるのは当たり前のことだと思います。
EMBAについては、日本とアメリカでは昇進スピードが全然違うので、そのまま輸入してくるのは難しいような…。最近慶應が始めたという話を聞きましたが、どんな学生が集まっているのか、興味あります。