【作品#0468】クリード 炎の宿敵(2018) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

クリード 炎の宿敵(原題:Creed II)

 

【Podcast】

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

 
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【概要】

2018年のアメリカ映画
上映時間は130分

【あらすじ】

王者になったアドニスに、かつて父のアポロをリング上で殴り殺したイワン・ドラゴの息子ヴィクターが戦いを挑む。

【スタッフ】

監督はスティーヴン・ケイプル・ジュニア
脚本はジュエル・テイラー/シルヴェスター・スタローン
製作はシルヴェスター・スタローン/アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ
製作総指揮はライアン・クーグラー/マイケル・B・ジョーダン
音楽はルートヴィッヒ・ヨーランソン
撮影はクレイマー・モーゲンソー

【キャスト】

マイケル・B・ジョーダン(アドニス・クリード)
シルヴェスター・スタローン(ロッキー・バルボア)
テッサ・トンプソン(ビアンカ)
ドルフ・ラングレン(イワン・ドラゴ)
フロリアン・ムンテアヌ(ヴィクター・ドラゴ)
ブリジット・ニールセン(ルドミラ・ドラゴ)
マイロ・ヴィンティミリア(ロバート)

【感想】

当初は「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」のライアン・クーグラーが監督予定だったが、「ブラック・パンサー(2018)」の監督に抜擢されたことで降板。その後、本作に共同で脚本にも携わっているスタローンが監督する選択肢もあったが、長編映画では監督2作目の若手スティーヴン・ケイプル・ジュニアが監督を務めた。また、「ロッキー4/炎の友情(1985)」でイワン・ドラゴを演じたドルフ・ラングレン、ルドミラを演じたブリジット・ニールセンが33年ぶりにシリーズ復帰を果たした。

漫画のような絵空事だった「ロッキー4/炎の友情(1985)」と同じく、自分の父親をリング上で殴り殺した男の息子と戦う展開は字面だけ見れば漫画のような話である。ただ、そんなただの娯楽作の焼き直しになっていないところが、この「クリード」シリーズの素晴らしいところだろう。

本編はドラゴ親子の静かな日常から始まる。ソ連人だったドラゴがロシアではなくウクライナにいるというところでピンとくる人はいたと思うが、ドラゴ一家はロッキーに敗れてからソ連、もしくは後のロシアには居場所がなかったのだろう。ウクライナの首都キーフ(本作製作時の呼称はキエフ)とはいえ、ドラゴ親子、あるいはその映像からはどこか哀愁を感じさせるものがある。「ロッキー4/炎の友情(1985)」以降の作品で、ドラゴが回想シーンに登場することはあっても、ドラゴのその後を考えたことなんてまるでなかった。勝者には勝者の、そしてそれ同じ数だけ敗者の物語もあるのだ。その観点から前作「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」を振り返ると、「ロッキー4/炎の友情(1985)」でアポロが死に、その後アポロの家族がどうなったかなんて描かれもしないし、気にもしなかった部分ではある。前作もある意味、敗者の側を描いた物語でもあったと言える。

「ロッキー4/炎の友情(1985)」でドラゴらがアメリカにやって来るのと同じように、本作でもドラゴ親子がアメリカにやって来る。中でもフィラデルフィア美術館前に立ち、あのロッキーやアドニスが見た光景をドラゴ親子が目に焼き付けるように眺めるシーンは素晴らしい。

また、ブリジット・ニールセンまでもが再登場する。「ロッキー4/炎の友情(1985)」での共演を期にスタローンと結婚したが、後に「ビバリーヒルズ・コップ2(1987)」に出演した際に監督のトニー・スコットと不倫して、スタローンとは僅か2年で離婚している。ブリジット・ニールセンに100%非があるのに、州の法律によりスタローンは築いた財産の半分を持っていかれた。さらに以降のスタローンは主演作品もなかなか当たらない時期も続いた。本作ではイワン・ドラゴもヴィクター・ドラゴもこのブリジット・ニールセン演じるルドミラに捨てられたという設定になっている。これぞスタローンが味わった屈辱ではないか。スタローンと画面を共有する場面こそないが、よく共演したなと思う。

あれよあれよとアドニス対ヴィクターの戦いは始まってしまう。この試合に反対するロッキーはセコンドにはいない。そこでは勝利を渇望するヴィクターがダウンしたアドニスにパンチを浴びせてヴィクターが反則負けという形になる。圧倒的な差を見せつけられての事実上の敗戦。死ぬことはなかったが、再び父親アポロという大きな存在がアドニスを苦しめることになる。また、ロッキーはセコンドについてやれなかったことを後悔する。マスコミがうるさくする場面が限定的だったのは好印象だった。

アドニスとヴィクター両者それぞれにドラマがあるからこそ、最後の戦いはどちらも負けてほしくないと思わせるものがある。また、この手の映画だとラストにアドニスが勝つのは目に見えているのだが、ドラゴ側にも勝ってほしいと思わせるところが興味を持続させる要素になっている。どうせアドニスが勝つのだからと思って興味が薄れることは全くない。アポロ・クリードの息子アドニスと、イワン・ドラゴの息子ヴィクターが戦うというアドニスからすれば父親の敵討ちのような戦いになりかねない。また、父親アポロと同じ目に遭うのではないかという恐怖もある。

 

そして、セコンドのロッキーもこの戦いをやらせるべきか止めるべきか相当悩む。簡単に戦いを止めてしまうことはアドニスのボクシングだけでなく人生にも大きな影響を与えかねない。かといって最後まで戦う気満々のアドニスを止めなければ父親アポロと同じ道を辿るかもしれない。そうなればビアンカや生まれてきた子供を孤独にさせてしまうことになる。ロッキーはアポロから「タオルを投げるな」と言われており、実際にタオルを投げなかった。だから親友のアポロを死なせてしまったのだという強い後悔の念がある。ドラゴも「ロッキー4/炎の友情(1985)」では、血も涙もない殺人マシンというような描かれ方で、終盤に人間っぽさを示す描写がほんの少しあった程度だった。

前作同様にリアリティをもたらす手法は取られており、何と言ってもマイケル・B・ジョーダンの作り上げてきた肉体が何よりもそれを物語っている。前作とボクシングシーンの撮り方は異なるが、前作以上の肉体を作り上げて来たなら、「強くなったんだな」という説得力がある。これは「ロッキー2(1979)」から「ロッキー3(1982)」にかけてのスタローンの肉体の変化にも重なる(これは「ランボー(1982)」撮影時の肉体改造が影響しているのだが)。それによって4ラウンド以上戦ったことのないヴィクターを長期戦に持ち込むことで苦しめていく。それでも何度もダウンを奪われる厳しい展開だが、何度となく立ち上がる。アドニスには子供が生まれ、その子供はビアンカの聴覚障害を遺伝により引き継いだ(進行性難聴の母親の子供が生まれつき聴覚障害を患っているケースは稀らしいが)。子供が自分の存在をほとんど知らないまま死んでしまうわけにはいかない。前作で失神状態のアドニスを立ち上がらせたのは亡き父親アポロだったが、本作では愛するビアンカと生まれてきた子供がアドニスを強くする。アドニスがヴィクターをコーナーに追いつめてパンチを浴びせまくると、ドラゴがタオルを投げ入れることになる。これによって色んな人物がある意味救われるという、見事な着地だった。アドニスも、ドラゴ親子も、そしてロッキーも救われることになる。

 

レストラン「エイドリアンズ」で話したシーン以外は会話シーンもろくにないロッキーとイワン・ドラゴが、試合が終わった後も健闘を称えあうとか握手するとかそういったものがないところも良い。あくまでアドニスのドラマとして描いている。

その後、ドラゴ親子の短い後日談が描かれる。冒頭と同様に早朝からのランニングだが、ラストでは父親のイワン・ドラゴも一緒に走っている。この静かな後日談だけで十分に伝わる。

また、ロッキーはカナダにいる息子のロバートを訪ねる。ちなみにロバートが登場するのは「ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」以来である。何と言ってもロッキーの孫がめちゃくちゃかわいい。ロッキーは息子のロバートと疎遠になっていたが、本作中で多くの親子関係を見て来た。アポロとアドニス、メアリー・アンとアドニス、アドニスとビアンカの子供、セコンドについていたデューク、ドラゴ親子、そしてもちろんロッキーとアドニスも疑似的な親子関係だった。親子関係に前向きになって映画が終わる。これでロッキーのアドニスに対する役割は終えたように思う。

 

それに、アドニスも父親アポロの墓を訪れ、父親への思いを語り、これでまたアドニスが父親アポロを乗り越えるドラマもひと段落した印象である。

振り返ると、ややアドニスがうじうじしている印象は拭えない。これは「ロッキー2(1979)」や「ロッキー3(1982)」のロッキーのうじうじ感にも似ている。前作でアドニスは父親像を打ち破ったと言えるが、その父親を殺した男が戦いに挑んできたらまた話は別かなとも思える。

それから、本作の後にスタローンが「ロッキー4/炎の友情(1985)」を再編集した「ロッキーVSドラゴ:ロッキーⅣ(2021)」を見てから本作を見ると、あるいはその逆をしても印象は変わるだろう。

2023年には「クリード3」が公開予定である。本シリーズ主演のマイケル・B・ジョーダンが監督まで務めることになり、ロッキーシリーズで主演のスタローンが続編で監督を務めるのと同じ道を辿っている。ただ、スタローンは続投しないことが発表されていおり、スタローンなしの「クリード」シリーズがどう展開するのかは楽しみである。また、IMDBによると、本作のヴィクターや前作のラストで戦ったコンランが再登場することになっており、ロッキーに対するアポロのような存在になるのかなども含めて注目である。

 

【関連作品】

ロッキー(1976)」…シリーズ1作目
ロッキー2(1979)」…シリーズ2作目
ロッキー3(1982)」…シリーズ3作目
ロッキー4/炎の友情(1985)」…シリーズ4作目
ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ(2021)」…シリーズ4作目のディレクターズ・カット版
ロッキー5/最後のドラマ(1990)」…シリーズ5作目
ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」…シリーズ6作目

クリード チャンプを継ぐ男(2015)」…スピンオフ「クリード」シリーズ1作目
「クリード 炎の宿敵(2018)」…スピンオフ「クリード」シリーズ2作目

クリード 過去の逆襲(2023)」…スピンオフ「クリード」シリーズ3作目




取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

映像特典

├「ロッキー」から「クリード」へ

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

映像特典

├父と息子

├最強の敵・ヴィクターのキャスティング

├「クリード 炎の宿敵」を彩る女優たち

├「ロッキー」から「クリード」へ

├未公開シーン集

 

<4K ULTRA HD+BD>

 

収録内容

├上記BDと同様