【作品#0635】クリード 過去の逆襲(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

クリード 過去の逆襲(原題:Creed Ⅲ)

【Podcast】

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【概要】

2023年のアメリカ映画
上映時間は116分

【あらすじ】

すでにボクシングを引退したアドニスのところへ、かつて兄弟の如く慕っていたデイミアンが出所して会いに来る。

【スタッフ】

監督はマイケル・B・ジョーダン
音楽はジョセフ・シャーリー
撮影はクレイマー・モーゲンソー

【キャスト】

マイケル・B・ジョーダン(アドニス・クリード)
テッサ・トンプソン(ビアンカ・クリード)
ジョナサン・メジャース(デイミアン・アンダーソン) 
ウッド・ハリス(リトル・デューク)
フィリシア・ラシャド(メアリー・アン・クリード)
ミラ・デイヴィス=ケント(アマーラ・クリード) 

【感想】

「クリード」シリーズ3作目となる本作は、主演してきたマイケル・B・ジョーダンの監督デビュー作となった。作品を重ねるごとに予算アップしていった本作の興行成績も右肩上がりで過去最高を記録し、批評家からも好評の声で迎え入れられた。また、「ロッキー」シリーズからロッキー役で出演してきたシルヴェスター・スタローンは本作には出演しておらず、「ロッキー」に関する権利を巡ってアーウィン・ウィンクラー親子を批判する声を上げている。

「ロッキー(1976)」で主演したシルヴェスター・スタローンが「ロッキー2(1979)」以降に監督を兼任していったのと同じ道を歩むように、「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」に主演したマイケル・B・ジョーダンが本作では監督を兼任している。着実に「ロッキー(1976)」に始まった物語が受け継がれていると感じる。

例えば、冒頭のアドニスの引退試合の相手は「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」の対戦相手だったコンランであり、後に彼はアドニスのスパーリング相手になっている。1作目の対戦相手が協力してくれる流れは、「ロッキー(1976)」でロッキーの対戦相手だったアポロが「ロッキー3(1982)」でロッキーのトレーナーを名乗り出る展開を思わせる。

また、「ロッキー3(1982)」では、ロッキーが自身の銅像にヘルメットを投げつける場面があった。本作はやや異なるが、アドニスが運転中に自身がモデルとなったラルフローレンの吊り広告を見る場面がある。

そういった同じシリーズ3作目を思わせる要素こそあるが、かといって「ロッキー3(1982)」オマージュというほどでもない。「ロッキー」シリーズとは少し距離感を置いた感覚で、このシリーズはあくまで「クリード」なんだと言いたげでもある。

その意味において、ロッキーが登場しないことにそこまで不自然さもないような工夫は感じるのだが、改めてロッキーが登場しない物語なのだと寂しい気持ちも覚えた。前作「クリード 炎の宿敵(2018)」のラストから考えれば、ロッキーが登場しなくても違和感がなく、あれでロッキーは役割を終えたと十分に考えることができる。

だが、本作は現役を引退したボクサーが復帰するという物語である。アドニスの父親アポロは「ロッキー4/炎の友情(1985)」でロッキーの反対を押し切って現役復帰を果たして、ドラゴにリング上で殴り殺されるという結末に至った。そういったアポロのことを知るロッキーだからこそ本作でアドニスに対してできることはあったように思う。

そんな本作がやりたかったのは、要するに「カインとアベル」の物語。アダムとイヴの息子の兄のカインが弟のアベルを殺したことで、神話における最初の殺人となった。神に愛される弟のアベルを妬んで兄のカインがアベルを殺したとされるが、本作も世界チャンプにまで上り詰めた弟分のアドニスを妬んだ兄貴分のデイミアンが戦いを挑んでくる。養護施設では唯一の兄弟分だったと話している。

この物語をベースにしたので、現チャンプのチャベスのドラゴの息子は腕を折られ(さすがに続投したドラゴは可哀そう)、プロ転向すらしていないデイミアンにアドニスがチャンスを与えるという非現実的な展開が待っている。アポロがしがないロッキーにチャンスを与えたことをなぞる展開ではあるが、やや事がうまく運び過ぎな印象はある。

ただ、そのカインの側に当たるデイミアンを演じたジョナサン・メジャースが素晴らしかった。アドニスとデイミアンが兄弟同然でありながらも過去に何かあったことが徐々に提示される形となっている。当初のデイミアンは出所したての元犯罪者で刑期が伸びて18年刑務所暮らしをしたと言っているので、おとなしく刑務所暮らしをしていなかったと推測できる。アドニスとデイミアンの会話シーンは危険な話は何もしていないし、ごくごく一般的な雑談程度である。にもかかわらず、このジョナサン・メジャースの醸し出す危なげな雰囲気によって、アドニスも完全に圧倒されている。彼らが食事をするファーストフード店での会話シーンの時点ですでに彼らは向かい合って座り、心理戦でデイミアンがアドニスを圧倒している。何ならラストの彼らのファイトシーンよりも見応えがある。

そんなデイミアンの考えは中盤までは描かれるが、タイトルマッチのファイトシーンとラストの彼らの握手まではちゃんと描かれていない。そう考えると前作「クリード 炎の宿敵(2018)」のアドニスとドラゴの方がよっぽど平等に描いていたと思う。その観点から考えても、ラストの戦いでアドニスが勝利するところの感動いまいち得られない。「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」「クリード 炎の宿敵(2018)」の方がよっぽど感動的だった。

また、先天的に耳の不自由な娘アマンダの教育に関する話が、アドニスの養母メアリー・アンの死や現役復帰の話でそっちのけになってしまった印象がある。現役を引退してボクサーを育成する立場にいるアドニスと、耳の問題で歌手からプロデュース業に回っているビアンカという、ある意味現役ではないという立場の2人が共に立ち上がるという物語だから、せめてアドニスが現役復帰に至る流れの中で、ビアンカにもあるいは娘のアマンダにも見せ場があっても良かったと思う。最後に家族3人でリングに上がるという結末を用意するなら、もう少し家族の物語をベースにしても良かったと思う。

とはいえ、「クリード」シリーズらしさ、それなりに安心して観ていられるものは提供されたと思う。これからも続いていくだろうが、ロッキーなしの船出としてはボチボチだったので、どう物語を作り上げていくのかは楽しみである。

また、本編上映後に約5分ほどの短編アニメが上映された。マイケル・B・ジョーダンは日本アニメのファンを公言しており、本作のボクシングシーンもその影響を受けたものがあると話している。この短編アニメには日本人スタッフも携わっており、おそらく彼が影響を受けた頃ぐらい(おそらく80年代から90年代)の質感のアニメーションであった。

【関連作品】

 

ロッキー(1976)」…シリーズ1作目
ロッキー2(1979)」…シリーズ2作目
ロッキー3(1982)」…シリーズ3作目
ロッキー4/炎の友情(1985)」…シリーズ4作目
ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ(2021)」…シリーズ4作目のディレクターズ・カット版
ロッキー5/最後のドラマ(1990)」…シリーズ5作目
ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」…シリーズ6作目
クリード チャンプを継ぐ男(2015)」…スピンオフ「クリード」シリーズ1作目
クリード 炎の宿敵(2018)」…スピンオフ「クリード」シリーズ2作目

「クリード 過去の逆襲(2023)」…スピンオフ「クリード」シリーズ3作目




取り上げた作品の一覧はこちら



【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD+DVD>

 

言語

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├日本語吹き替え

映像特典

├撮影の舞台裏

├かつてないライバル

├未公開シーン集

 

<4K Ultra HD+BD>

 

収録内容

├上記BD+DVDと同様