【作品#0471】ロッキーVSドラゴ:ロッキーⅣ(2021) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ロッキーVSドラゴ:ロッキーⅣ

 

【Podcast】

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

 
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【概要】

2021年のアメリカ映画
上映時間は94分

【あらすじ】

アポロの協力を経てチャンピオンの座を取り戻したロッキーの元へ、ソ連からイワン・ドラゴが挑戦を仕掛けてくる。アポロはドラゴを倒したいとして5年ぶりの現役復帰を果たすが…。

【スタッフ】

監督/脚本はシルヴェスター・スタローン
音楽はヴィンス・ディコーラ
撮影はビル・バトラー

【キャスト】

シルヴェスター・スタローン(ロッキー・バルボア)
タリア・シャイア(エイドリアン)
バート・ヤング(ポーリー)
カール・ウェザーズ(アポロ)
ドルフ・ラングレン(イワン・ドラゴ)
ブリジット・ニールセン(ルドミラ)

【感想】

シリーズ最大のヒット作「ロッキー4/炎の友情(1985)」をスタローンが42分もの未使用シーンを盛り込んだ新たなバージョン。アメリカでは2021年に劇場公開された。

本作は一応ディレクターズ・カット版であるが、一般的なそれとは異なる印象である。アメリカでは最終編集権はプロデューサーにある。スタローンは「ロッキー4/炎の友情(1985)」でプロデューサーこそ務めていないが、脚本も執筆しており、監督、主演なので当然それなりに意見できる立場にあったと思うし、当時のスタローンの考えるロッキーの4作目がまさに1985年に公開されたものだったのだろう。また、ディレクターズ・カット版はプロデューサーの意向でカットせざるを得なかった場面を監督の意向で復活させたり、シーンを入れ替えたりすることであるが、未公開シーンが42分と、ほぼ半分の映像を入れ替えているのだから、またそれとも異なるわけである。この様々なシリーズやスピンオフ作品、またスタローンの人間、映画人としての経験を経てこうなったのだろう。「クリード 炎の宿敵(1985)」の製作でスタローンは脚本も共同で書いており、その時に「ロッキー4/炎の友情(1985)」のことはいろいろ思い出し、映像も確認したことだろうから、それが一番大きな要因だと感じる。

まず、オリジナルのオープニングはアメリカの星条旗のグローブとソ連の国旗のグローブがぶつかり合い爆発すると言うインパクトのあるものだったが、当時の米ソ冷戦下を描くにしてはやや過激な印象はある。本作はこの部分はカットされており、米ソ冷戦下であることを示す描写は限りなく薄められていると感じる。

「ロッキー」シリーズは「ロッキー2(1979)」から「ロッキー5/最後のドラマ(1990)」まで冒頭に前作の戦いのダイジェストが流れるのが定番であった(この演出は好きではなかった)。本作もその流れを汲んでいるが、それとは意味合いが全く異なっている。オリジナルの冒頭に使用される「ロッキー3(1982)」の映像と本作の冒頭に使用される「ロッキー3(1982)」の映像からして異なるオリジナルでは、クラバーとの戦いと、その後のロッキーとアポロ2人だけの対決シーンが使われていた。本作ではロッキーがクラバーに敗れ、落ち込むロッキーにアポロがトレーナーを申し出、再びクラバーとの戦いに臨み勝利するところが使用された。この冒頭だけ見ても、アポロの物語をちゃんとやろうとしているのが分かる。

前作までのダイジェスト映像が終わると、アポロが家のプールにいてプールサイドのテレビからドラゴの情報を目にするという場面になる。なので、オリジナルでロッキーがポーリーにロボットをプレゼントする件は丸ごとカットされていることになる(ドラゴに人間らしさがないことと重ね合わせる設定だったと察するが)。

そして、序盤の目玉はロッキーの家にやって来たアポロとロッキーが家の庭で話す場面である。ドラゴがロッキー名指しで試合をしたいと言ってきているが、ロッキーがどう考えているかをアポロが聞く。ロッキーが「分からない」と答えたと言うと、アポロが「自分がやっても良い」と言う。そこでアポロはアメフトのボールを持っているが、カール・ウェザーズは俳優になる前はアメフトの選手だった。これはかつての自分に戻りたいことを示す良い場面だと思う。そして、オリジナルにもあったロッキーの家の食卓で話す場面に移行する。

オリジナル通り、アポロの現役復帰をエイドリアンが反対する。その後、エイドリアンが台所に行き、それを追いかけたロッキーとの会話シーンも追加されている。エイドリアンがパンか何かが入った袋をパンチする場面は良い。

その後、再びオリジナル通りロッキーとアポロが2人になり、かつての2人の戦いをテレビで見ている場面になる。そこで、アポロが「忘れ去られたくない」と言って、ロッキーが「時代は変わるんだ」と慰めても現役復帰をアポロが選択する流れになっている。アポロのシーンとしては、ロッキーとの会話シーンが追加されただけだと思うが、これがあるだけでオリジナルよりもドラマになっている。

そして、アポロとドラゴの試合になる。ジェームズ・ブラウンの前座はオリジナル通り。やっぱり映画館で見ただけあってジェームズ・ブラウンのパフォーマンスにも圧倒される。このお祭りムードで舐め切ったアポロがドラゴで殴り殺されると言う展開を考えるとこれ以上ないフリである。試合シーンは多少肉付けされていたと感じるし、アポロの奥さんのリアクションが増えていたと思う。

リング上でアポロの死を見届けたロッキーらはアポロの葬儀に参列する。オリジナルの比較的感情を押し殺していたロッキーに対して、本作では涙ながらにアポロへの思いを口にしているところも後の展開を考えるとよっぽど良い。

葬儀を終えたロッキーはボクシングの委員会のようなところへ行くシーンが追加されている。ドラゴとの試合は認められないと言われるとロッキーは席を立ち、チャンプの座を返上するという流れになっている。ロッキーとしては筋を通そうとしたがそれが認められずにチャンプを返上してまでドラゴと戦う決意をする。その後にエイドリアンと夜に家に帰ったロッキーと話す場面や子供と話す場面がある。個人的にはここまでの流れはオリジナルよりも真摯にドラマをやろうと言う姿勢が見える。

オリジナルで退屈に感じたのはロッキーが車に乗って色々思い出す場面で、シリーズ1作目から本作までの映像が次々に流れる場面である。曲をほぼフルで流してただただ過去作の映像が流れるだけであり、本作でもこの場面はおそらくそのまま使用されている。ロッキーがどんな思いでドラゴとの戦いに臨むのかというのをち演出としては簡単に済ませ過ぎな印象は拭えない。何ならアポロの葬儀の場面だけでも十分だった。

中盤からトレーニングシーンまではあまり変化は感じないし、オリジナル通り楽曲頼みの展開になっている。それこそオリジナルではサバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」は序盤に流れたが、オリジナルの音楽は比較的アップテンポで激しいナンバーが多い。その分、ロッキーのトレーニングシーンをしっとり聞かせるのもありだったんじゃないかとは思う。

ラストの試合前から再びオリジナルと大きく印象は異なってくる。何と言ってもドラゴを捉えるショットも増えているし、テレビでは味わえないボクシングシーンの迫力が映画館では味わえる。特に効果音ではあるが、パンチを繰り出す時の音と当たった時の音が臨場感を増していた。これは劇場ならではだと感じた

試合が終わった後、ロッキーがドラゴに歩み寄り、健闘を称えあうカットや、試合後のドラゴの表情なんかも追加されていた。これらの追加により、ドラゴだって1人の人間だったのだと言うことがよく分かるし、本作を見てまた「クリード 炎の宿敵(2018)」を見直すのも良いかもしれない。

また、ラストでマイクを向けられたロッキーが息子に向けたメッセージを語る場面や、試合中にロッキーの子供が友人と試合を見ているところもカットされていた。

そして、オリジナルでは試合後のスピーチが終わると映画も終わったのだが、本作ではリングを降りたロッキーがロッカールームへ引き上げるところで静止画になって映画が終わるように改変され、オリジナルで冒頭に流れたサバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」がこの直前から流れ始める。

米ソ冷戦下の印象を極力弱めて、アポロとの友情、ドラゴもあくまで1人の人間であるというところを強調する作りになっており、オリジナルよりは相当良くなっていると感じる。ただ、ラストでのロッキーのスピーチを聞くと、2022年に始まるロシアによるウクライナ侵攻を思い出さないわけがない。もちろん本作の再編集版は2021年には完成しているので、これは想定していなかったとは思う。監督のスタローンが再編集版を作るにしても、各所への根回しなど相当な労力を要する仕事だったと思う。それでもやるだけの価値はあったと思うし、スタローンの映画人としての心意気を感じる作品でもあった。

【関連作品】


ロッキー(1976)」…シリーズ1作目
ロッキー2(1979)」…シリーズ2作目
ロッキー3(1982)」…シリーズ3作目
ロッキー4/炎の友情(1985)」…シリーズ4作目
「ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ(2021)」…シリーズ4作目のディレクターズ・カット版
ロッキー5/最後のドラマ(1990)」…シリーズ5作目
ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」…シリーズ6作目

クリード チャンプを継ぐ男(2015)」…スピンオフ「クリード」シリーズ1作目
クリード 炎の宿敵(2018)」…スピンオフ「クリード」シリーズ2作目

クリード 過去の逆襲(2023)」…スピンオフ「クリード」シリーズ3作目




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【予告編】