【作品#0465】クリード チャンプを継ぐ男(2015) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

クリード チャンプを継ぐ男(原題:Creed)

 

【Podcast】

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

 
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【概要】

2015年のアメリカ映画
上映時間は133分

【あらすじ】

アポロ・クリードの隠し子として育ったアドニスは、アポロの息子であることを隠してメキシコで地下ボクシングを戦っていた。ある日、アドニスは会社を辞め、フィラデルフィアのロッキーに会い、トレーナーになってもらうように説得へ行く。

【スタッフ】

監督/脚本はライアン・クーグラー
製作はシルヴェスター・スタローン/アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ
音楽はルートヴィッヒ・ヨーランソン
撮影はマリス・アルベルチ

【キャスト】

マイケル・B・ジョーダン(アドニス・クリード)
シルヴェスター・スタローン(ロッキー・バルボア)
テッサ・トンプソン(ビアンカ)
アンソニー・ベリュー(コンラン)
グレアム・マクダヴィッシュ(トミー)


【感想】

「ロッキー」シリーズのスピンオフ1作目。長編映画を撮ったこともなかったライアン・クーグラーが温めていた企画をシルヴェスター・スタローンに持ち込んだことで実現した作品。ライアン・クーグラーは「フルートベール駅で(2013)」で監督デビューし、その作品で主演したマイケル・B・ジョーダンが、ロッキーのライバルであり親友でもあったアポロの息子役を演じることになった。「ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」以来、9年ぶりにロッキー役を演じたシルヴェスター・スタローンはアカデミー賞の助演男優賞候補になり、ゴールデン・グローブでは助演男優賞を受賞した。ちなみに本作の製作前にスタローンは息子で、「ロッキー5/最後のドラマ(1990)」でロッキーの息子役を演じたセイジ・スタローンを36歳の若さで亡くしている。また、コンランのマネージャーを演じたグレアム・マクダヴィッシュは「ランボー 最後の戦場(2008)」にも出演している俳優である。

本作の製作が発表された時点で、誰もが「またロッキーシリーズをやるのか…」と思った事だろう。「ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」できれいに終わっていたシリーズをまた復活させたわけだが、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれる快作に仕上がっている。

本作で無名のアドニスが、かつてのチャンプのロッキーにトレーナーの依頼をするところこそ、無名の映画監督ライアン・クーグラーが、シリーズ生みの親であるシルヴェスター・スタローンに話を持ち込んで、度重なる説得の末、シリーズ続行を認めさせたところに重なるわけである。長編映画を撮ったことのない時点でこの企画を温め、それをスタローン自身に持ち込んだわけだからその熱量は相当なものだったのだろう。また、そんな無名のライアン・クーグラーにちゃんと会って話を聞いたスタローンもやはり心が広い。

アドニスは、かつてのボクシング界のスターだったアポロの隠し子であり、そのアポロはアドニスが生まれる前に亡くなっているという設定である。里親や施設での暮らしを余儀なくされたアドニスは、アポロの妻メアリー・アンによって引き取られ、ちゃんとした教育を受けて成人したことで、学もあり、スーツ姿で仕事をする立派な人間になっている。しかも、仕事では昇進するなど順調には見える。たとえクリードの姓を名乗らずに生きてきたとしても、父親の功績や醜聞は嫌でも耳に入って来るだろう。でも、アドニスは父親に会ったことはない。父親の不在も影響してか、荒れた思春期を送ったことで自ずと力を身に着け、気付けばボクサーとして戦っていたと考えるべきだろう。アポロの不倫相手でアドニスにとっての母親はいなくなっており、最終的には父親の妻で血が繋がっていない人が母親代わりである。そんな金持ちの一家に育てられたからこそ、学もあっていい会社に就職できたのだろう。でもそれって自分なのか。偉大な父親だったからこそ、「自分とは何者か」と考え、アポロの息子ではなくて、アドニスなんだと立ち上がって戦う姿に感動がある。そう考えると、アドニスの人生が決して満たされている訳ではないことは十分に伝わって来る。「アドニスは恵まれている」というネットの声も見たが、誰かと比べて恵まれているとかそういう問題ではないし、アドニスはアドニスにしかない悩みを抱えている(こんな境遇の人間の方が少ない)。何よりタイトルにもなっている、そして主人公の姓でもある「クリード」には「信念」の意味がある。

そんなアドニスがわざわざメキシコの地下ボクシング場で試合をしているのも「ロッキー(1976)」の冒頭で行われている場末のボクシング場と重ね合わせられているとも言えるし、自分という人間が知られていない環境で試しているとも言えるし、また同時にアメリカではない場所にいるわけだから逃げているとも捉えることができる。この冒頭の設定だけでアドニスの抱える矛盾を見事に表現できていると感じる。また、このネットの時代となれば、YouTubeでもボクシングの過去の映像も見つけることができるだろう。つい父親アポロとロッキーの試合をアドニスは見てしまう。自宅の壁に投影された映像には父親のアポロとロッキーが激闘を繰り広げている。アドニスは居ても立っても居られなずに立ち上がってシャドーボクシングを始める。そこでは、父親のアポロではなく、ロッキーの動きに重ね合わせるようにしている。アドニスが父親という不在の、そして強大な存在を打ち負かしたいと考えていることが伝わる、そして観客としても熱くなる名場面である。

アドニスはついに仕事も辞めて、義理の母親の反対を押してアドニスはプロボクサーへの道を歩むことを決心する。ロッキーが営むレストラン「エイドリアンズ」に行き、アドニスは直々に自分のトレーナーになってくれるように依頼する。最初はロッキーに断られるが、何度も説得することで、ついに「基本だけだ」という言葉を引き出すことに成功する。山が動けばこっちのもの。ロッキーは次第にアドニスの育成に夢中になっていく。すると、同じジム内の有望株との試合を組まれ、アドニスとロッキーは事実上ジムを追い出されて、別のジムでトレーニングをすることになる。

一方、アドニスは下の階に住む住人ビアンカと知り合い、徐々に仲良くなっていく。ビアンカは進行性難聴を患いながらも、音楽活動をしており、いずれは耳が聞こえなくなる恐怖と戦いながら生きている。誰しも時間は限られている。ロッキーだってこの先長くないかもしれない。アドニスだってボクサー生活と考えれば決して悠長なことは言っていられない。

本作でのボクシングシーンの気合の入り方は尋常である。冒頭のシーンこそ、アドニスが自己流なために基本ができていないことを示していたので、映像的にも張り切っている印象はなかったが、中盤の試合シーンは驚きの2ラウンド長回しである。撮影では、13テイク撮影して11テイク目を本編で使用したらしい。特に5作目までの「ロッキー」シリーズのボクシングシーンはどこか本物ではない感じがあった。防御しないとか、殴りかかるようなパンチとか、特に「ロッキー3(1982)」や「ロッキー4/炎の友情(1985)」は娯楽映画と化していたし、対戦相手の力強さがシリーズごとにインフレを起こしてちょっとおかしなことにもなっていた。本作のこのボクシングシーンで2ラウンド長回しにすることで、決して嘘ではない本物を見せるという気概を感じる。

その試合に勝利したことで、アドニスは自分という人間を証明できたのだが、それと同時に自分の出自が世間に知られてしまうことになってしまった。有名人の子供故に、それを隠して活動したい思惑と、有名人の息子であることを利用したい連中がいるという紛れもない事実。それにより、またしても父親という大きな壁がより大きくなり、多くのプレッシャーを受けることになる。でもいずれは立ち向かわなければならない壁が中盤でより明確になり、そこからまた立ち向かっていく流れであることも見事であると感じる。

一方のロッキーは、親友ポーリーも失ったことや加齢が影響してか、少し後ろ向きな人間になっている。前作の成長を鑑みるとやや後退しているように見えるのは仕方なしか。ロッキーは癌が見つかった後も治療を拒否して、「早くエイドリアンに会いたい」とまで言っている。さらに、スタローンはこの映画のプリプロの段階で、長男のセイジ・スタローンを36歳の若さで亡くしている。セイジ・スタローンは「ロッキー5/最後のドラマ(1990)」でロッキーの息子役を演じた。まるでこの事実を受けた落ち込みも連想するほどだし、本作中にはセイジ・スタローンの写真も映っている。

スタローンが始めて、スタローンが一度は完全に終わらせたシリーズ。それを熱意ある若者が続編を作りたいと言ってきた。最初は断ったそうだが、ライアン・クーグラーの熱意を買って再びシリーズを起動させることを決めた。これも、「もう死んでもいい」とすら思っているロッキーをアドニスらが奮い立たせるところとも重なる。

ラストではコンランとの試合になる。不在の、そして巨大な父親像に苦しめられてきたアドニスがそれと戦い、混乱のパンチでダウンして失神状態になるが、それを目覚めさせてくれるのは走馬灯のように駆け巡る中、最後のフラッシュバックで登場する父親の姿である。不在の父親に苦しんだアドニスが、不在の父親によって立ち上がる展開は胸が熱くなる。この辺りから涙なしには見られないものになった。

スピンオフの1作目とあり、「ロッキー」シリーズ1作目と同様に、すべてのキャラクターが立ち上がる話になっているところも良い。試合に負けて自分との戦いに勝ったというラストも踏襲されている。また、本作はビル・コンティの作り上げた名スコアはなかなか流れず、「ここぞ!」というところで流れるからこそ威力を発揮するのも1作目と同様である。また、ルートヴィッヒ・ヨーランソンが作り上げたスコアも決してビル・コンティのスコアに負けない、本作ならではの音楽に仕上がっている。

 

「またロッキーシリーズをやるのか」という白い目でも見られたことだろう。多くのプレッシャーの中、若いライアン・クーグラー監督の熱意が新たな物語を見事に作って見せた。本当に「ロッキー」シリーズに恥じない、何なら新たなスポーツ映画の歴史を作り上げたと言っても良い。

【関連作品】

 

ロッキー(1976)」…シリーズ1作目
ロッキー2(1979)」…シリーズ2作目
ロッキー3(1982)」…シリーズ3作目
ロッキー4/炎の友情(1985)」…シリーズ4作目
ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ(2021)」…シリーズ4作目のディレクターズ・カット版
ロッキー5/最後のドラマ(1990)」…シリーズ5作目
ロッキー・ザ・ファイナル(2006)」…シリーズ6作目
「クリード チャンプを継ぐ男(2015)」…スピンオフ「クリード」シリーズ1作目
クリード 炎の宿敵(2018)」…スピンオフ「クリード」シリーズ2作目

クリード 過去の逆襲(2023)」…スピンオフ「クリード」シリーズ3作目




取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

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├オリジナル(英語)

 

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言語

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映像特典

├ボクサーを演じるための体づくり

 

<BD>

 

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映像特典

├“ロッキー”を継ぐ者たち

├ボクサーを演じるための体づくり

├未公開シーン集

 

<4K ULTRA HD+BD>

 

収録内容

├上記BDと同様