俺町物語 -3ページ目

時報仙人

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我々取材班は俺町山の奥深くに来ていた。
なんでも昼の12時になったら叫ぶ男、通称・時報仙人がいるそうだ。
近隣(にはほとんど人はいないが)住民からは迷惑がられているわけではなく、既にチャイムのような感覚になっており、この叫び声な聞こえたら、昼飯を食べる習慣となっているらしい。
その時報仙人が最近めっきり叫ばなくなってしまったらしく、住人達は心配して我々取材班に調査を依頼したわけだ。
つーか警察を呼べよ。


俺町物語   時報仙人


「ここか」
よく言えば斬新、悪く言えば適当な地図を元に時報仙人の住む家までやってきた。
約3時間の探検に百戦錬磨の取材班もさすがに疲弊の色を隠せなかった。
早く生存確認をして帰ろう。
「すみません!誰かいらっしゃいますか?」
古びた小屋の扉の前で声をかける。
築何年になるんだろうか。
とても人が住んでいるようには見えないが。
などと、小屋を観察しているうちにドタドタと足音を響かせて、誰かがやってきた。
「誰じゃ」
「あっ、私俺町新聞の・・・」
「帰れ!」
食い気味に帰れと言われることは取材をしていたら何度かあったが、名を名乗ろうとして制止されることは始めてだ。
「新聞は取らんと昔行ったはずだ」
どうやら、この男は私を新聞勧誘の営業マンだと勘違いしているらしい。
それにしてもこんな辺鄙なところにまで勧誘に来るのはどこの新聞社だ?
まさかうちの営業じゃあるまいな。
「あ、今日はその件ではなく、取材をしに参りました」
「取材???」
「ええ、なんでもこの辺りから正午になると人の叫び声が聞こえてくると噂になっていたんですが、その叫び声がつい最近ぴたっと止まりまして、もしかしたらその叫び声の主になにかあったのかと思い、調べに参りました。」
私が説明する間、男は古びた戸ごしに黙って話を聞いていた。
「もしかして、あなたが叫んでいたんじゃありませんか?」
「そうだとしたらなんなんだ」
「なにって・・・叫んでいた理由はなんだったんですか?」
「叫びたいときに叫んで何が悪い」
なんだろうこの男からはロックの真髄を感じる。
「なぜ、正午に叫びたくなるんですか?」
「それは・・・笑っていいともが始まるからだ」
「笑って・・・いいとも・・・?」
「そうだ。笑っていいとも。これこそ俺の生きがいだった。笑っていいともが放送されると俺はテレビに向かっていいともおおおおお!と叫ぶのが習慣となっていた。その声を聞いた周りの住人の反応も面白かった。こんな辺鄙なところに住む俺にとって唯一のコミュニケーションが叫ぶことだったんだ。それなのにーーーーー」
「笑っていいともは終わってしまった」
「そう。俺はなんと叫べばいいのかわからなくなり、それと同時に生きる楽しみも失った」
「ヒルナンデスやバイキングじゃだめなんですか?」
「叫びづらいだろうが。」
「じゃあ・・・俺町なんてどうでしょう」
「俺町?」
「響きがいいでしょ?」
「俺町・・・俺町・・・俺町!」
「その息です!」
「おれまちーーーーー!!!!」


「ということで、時報仙人さんには今日から俺町新聞の宣伝をしてもらうことになりました」
「いや、宣伝って言っても叫んでいるだけじゃないか」
「それが彼の生きがいですから」
「?」
今日も俺町山の奥から叫び声が聞こえる。
「おれまち!!!!ありがとう!!!」と。

浮気調査!

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「浮気・・・調査?」
「はい、主人が浮気をしてるんじゃないかと気掛かりで夜も眠れず・・」
「いや、ちょっと待ってください!うちは地方新聞社ですよ?そういうのは探偵に・・・」
「探偵を雇うお金がないんです。それにあなた方の記事のネタになるかと。」
週刊誌じゃないんだから。


第4話 浮気調査!


「主人の帰りが最近遅くて・・・」
これまた典型的なご相談だこと。
心配する割に案外仕事とかだったりするんだよな。
「それだけじゃなくて!最近、主人が女性と歩いているのを見た!って友達が言ってるんですよ」
「それはもう尻尾を掴んだようなものでは?」
「ですが、まだ確証が得られないんです。仕事の付き合いなのかも知れないし・・・。とにかく、浮気と断定できるまで、こちらも動けません。ですから!俺町新聞のみなさんに協力していただきたいんです!」
急に強制力が出てきたな。


そこから張り込みが始まり、我々案外ノリノリで探偵ごっこをしていた。
と言っても仕事終わりにご主人の会社の近くで待っているだけなのだが。
「もう3日目ですが、奴さん尻尾出さないっすね」
完全に刑事になりきっている山口。
動きがあったのはそんなときだった。
「あれ?家とは逆方向に歩いてますよ!」
「よし、後を付けるぞ!」



着いたのはお洒落なバー。
我々はご主人に顔が割れていないため、堂々と店内に潜入。
堂々と潜入というのもおかしな話か。
「ご主人、あの女性店員とずっと喋ってますね、まさかこれなんじゃ?」
「いや、女性店員目当てでここに通っているとしても、それは浮気ではないだろう。」
「でも・・・」
「もう少し様子を伺おう。それ以上の何かがあるのかもしれない。」
楽しそうに話すご主人と店員ははとても今日初めて出会ったわけではなさそうだった。
「ちょっと、何を話してるか聞いてみましょう」
「え、ちょっ、おい!山口!!」
山口は二人の側へと歩いて行った。


「いつが空いてる?」
「今度の金曜日なら行けます!」
「じゃあ、その日にお願いしようかな」
「私でいいんですか?」
「君に頼みたいんだよ。だから、こうして何回もここに通っているんだよ。」
山口が二人の会話を盗み聞きした内容をまとめたものだ。
これは決定的証拠だろうか。
しかし、まだ、だ。
二人が金曜日に落ち合っているところをカメラに抑えなければ、ならない。
「俺町公園で18時に落ち合うそうですよ」
「お前の地獄耳は並じゃないな」
「他のお客さんに訝しがられてましたけど、これぐらいお安い御用です!ああいう男がいるから!僕たち清純な男子までもが疑われるんだ!」
情熱が変な方向へ向いてないか心配だが、とりあえずやる気になっているのはいいことだ。


そして、金曜18時。
我々は俺町公園に来ていた。
そこにはすでにご主人の姿があり、バーの店員を待っている風だった。
「山口、とりあえず二人が落ち合うところを抑えておけ」
「わかってます!カメラマンの実力、ご覧に見せましょう」
「来たぞ!」
山口は事前に動物などを撮影することに特化した無音カメラをかまえていた。
二人が落ち合うと怒涛の連射が始まる。
しかし、二人はそれに気づかず歩き出す。
「追いかけるぞ!」
「・・・・・・。」
「いつまで連射してるんだよ」
山口は撮影になると我を失う。
というか、フィルムの無駄遣いだろ。
また野中君に怒られるぞ。



まず、二人が向かったのは高級デパート。
女が目を輝かせながら選ぶブランドもののバッグをご主人は購入した。
二人ともとても嬉しそうにしている。
「妻以外の人にプレゼントだなんて・・・」
と言いながら連射をする山口は途中警備員に連れて行かれた。



「今度は食事ですか・・・」
高層ビル最上階の高級レストランだ。
二人はまたもや楽しそうに食事をしている。
「これは浮気確定なんじゃないですか?」
「そういえば、お前、捕まったんじゃなかったのか?」
「俺町新聞の名刺を見せたらなんとかわかってもらいました。」
「おいおい。会社の名を貶めるようなことはしてくれるなよな。第一これは正式な仕事じゃないんだから」
「仕方ないじゃないですか。それに先輩はなんのために仕事をしているんですか?」
「それは・・・読者のためだろ?」
「そうです。その読者が困っているんですから、助けることだって、立派な仕事です!」
そう言いながら連射する山口には説得力がなかった。
お前のそれは完全に趣味だろ。


意外だったのは、食事の後、二人は普通に解散したことだった。
我々の尾行に気づいたのか。
わからないまま、我々も撤収することにした。



奥さんを呼んだのは土曜日の夕方。
「やっぱり主人は!!!」
こんなことを伝えるのは我々もあまり気持ちよくはない。
だが、ときには真実を知ることもたいせつだ。
今、教えなくてもいずれ、必ず知ることになるだろう。
決心した私は山口に目配せし、写真を出すよう促す。
山口が写真を取り出そうとした瞬間、奥さんの元に電話が入る。
「え?ええ・・・ええ。わ、わかったわ。すぐ行く。」
「なにか、急用でも?」
「夫がすぐに来てくれですって。あ、そうだ。あなた方もいらしてください!夫の前で真実を教えてください!」
そんなことをしたら殴られそうだが、我々は奥さんに引っ張られるようにして、ご主人が待つ場所まで行った。


「ここは・・・」
そこは、昨日バーの店員と来ていた店だった。
他の女と来た店に妻とも来るとは、一体何を考えているんだ。
「こっちだよ」
手招きするご主人の元に何故か我々も連れて行かれた。
「その人たちは?」
「俺町新聞の方々よ!今日は立ち会ってもらおうと思って」
「立ち会う? なんだ、気付いてたのか」
「当たり前でしょ!」
「そうだよな、なんせ今日は二人の10年目の結婚記念日だもんな。新聞記者の方々も一緒に祝いに来てくれたんですね。ありがとうございます!」
「「へ?」」
俺と山口はキョトンとしてお互いの顔を見合わせた。
結婚記念日だと!?
奥さんの方を見ると、奥さんが一番驚いていた。
「なんだよ!驚くことないだろ!」
「ちょ、ちょっと!待ってください!じゃ
、じゃあこの女性は?」
「おい、山口!」
山口は持っていた写真をご主人に見せつける。
「あーー、撮られていましたか。実はこのレストランの下見に着いて来てもらったのです。私は女性の好みというものがイマイチわからないので、彼女に手伝っていただきました。」
「でも、あのブランドの・・・」
「あなたは全てネタバレする気ですか?まあいいでしょう。これですね?」
ご主人は昨日買ったバッグを取り出し、奥さんに渡した。
奥さんの表情は怒りとも悲しみとも驚きとも取れないものになっていた。
「君は10年前に僕があげたバッグを未だに使ってくれてるね。でもそろそろあのバッグも古くなってしまった。穴が空いても使ってくれてるのは嬉しい。だけど、これからはこのバッグにたくさんの幸せを入れて行ってくれないか。」
奥さんの目からは涙が流れていた。
「また10年、楽しくやって行こうね、明美。」
手渡されたバッグに涙の滴がこぼれた。
「はい・・・誠治さん・・・・疑ってごめんなさい」
「いいんだよ。僕の方こそ心配かけてすまなかった」
我々はとうとう場違いとなってしまった。
というか、最初から場違いだったのだろう。
浮気調査を始めたときから。
我々は静かにその場を後にした。



「結局浮気してないなんて、僕らなんのためにやってたんですかね?」
「まだ言ってんのか?あれから3日も経つだろ?」
「けど、なんか腑に落ちなくて」
「これも一応読者のためなんだろ、まあこういうこともあるだろ。」
そんな俺たちの元に一枚のハガキが届いた。
「俺町新聞さん 妻がお世話になりました。10年後、また調査しにきてください。誠治 」
10年後、彼らがどんな家庭を築いているのか、見てみたくなった。
と、同時に自分の10年後を悲観したりする40代の私だった。
付き合う前に知っておきたい!浮気しにくい男の見極める 3 つのポイント

古井

時は2014年。
新しきものは称され、古きものは淘汰される時代だ。
そんな時代に、立ち向かう一人の男がいた。
その名はーーーーーーーー



俺町物語 第三話 古井



我々取材班は、古きものを愛し、守り続きてきたという古井の家を訪ねていた。
「ごめんくださーい!古井さん!俺町新聞の黒井と申します。少しお話伺えませんか?」
その呼びかけに出てきた古井は何故か憤り、
「出て行け」
と怒鳴った。
どうしたのかと様子を伺っていると、
「"新"聞だとぉ!?俺は新しいものが嫌いなんだよ!そうやって新しいものがどんどん生まれていくから、世の中から古いものがなくなっていくんだ!」
なんという暴論だと思ったが、それ以上に新聞は果たして新しいものなのかどうかも気になる。
「いや、新聞は100年以上前から存在していますし、決して新しいとは言えないんじゃ・・・・」
「ほう・・・では、新聞は古いものだというのだな?」
「いや、古いとは言い切れないですけど」
「じゃあ新しいんだろうが!」
「いや、新しいとか古いとかじゃなくて・・・・」
黒井は悩んだ。
確かに新聞とは一見世の中で起きた新しいことばかり取り上げているようでもある。
しかし、伝統や古きを重んじる姿勢を決して忘れないのが新聞の良さでもある。
この解答次第で今後の新聞業界の行く末も決まるのではないか、とまで思えてくる。
過去、未来・・・・そこで、黒井は思い出す。
「今だ!」
「へ?」
「今ですよ!古井さん!新聞は言わば今の世の中を映し出す鏡です!新しくも古くもない等身大の今の俺町の様子を書くのが僕の仕事です!私は新しいものばかりに飛びついたり、古いものを蔑ろにしたりはしません!ですから、古井さんの今のお考えを率直にお聞かせください!」
古井さんはしばらく黙っていた。
しかし、やがて口を開き、
「私も過去ばかり見つめていてはいけないのだな」
と何かを悟ったようにつぶやいた。
そして、取材に応じてくれた。

ちなみに、このときの取材で得られた内容は全てボツになった。
古井さんの取材は振るいにかけられ、お蔵入りになったわけだ。
しかし、それ以上に大切な友情というーーーー


「やはり蔑ろにしたではないか!!!」
「だって古井さんが四十年履いてる靴下の話なんか乗せられませんもん!!」


かけがえのないものを手に入れたような気がする。

世界にはばたけ

 俺の夢はこの俺町新聞を日本中に、いや、世界中に広めることだ!そのためには、まず町の小さな出来事からコツコツと取材していくに限る。それが俺町新聞編集部部長の役目である。さあ、世界中の読者が俺の取材を待っている。そんな意気込みを胸に俺たち取材班は、編集室を飛び出した。


「部長、お言葉ですが、恰好つけすぎです。」


「モノローグぐらい恰好つけさせてよ。」




―――第二話 世界にはばたけ―――




 俺には、才能がないんだな。大学卒業とともに、小説を書き始めてもう十年になる。バイトをしながら、空いた時間で小説を書き、出版社に投稿しているものの、いまいちぱっとした結果はでないし、賞をとったのももう6年も前だし、それだって佳作止まり。こうして、地元である俺町に戻ってきて、そろそろ小説家になることも諦めようかと考えている。両親だっていつまでも長生きするってわけじゃないし、年金暮らしだって楽じゃないのはわかってるんだ。今からでも遅くない、安定した職業について、親を安心させてやらないと。






「この町に小説家がいるのか?」


「正確には、小説家崩れですけどね。夢をあきらめてこっちに戻ってきたみたいです。高校の同級生で、当時から小説は書いてたみたいなんですけど、まさか卒業後10年も書いた結果諦めて帰ってきてるとは思わなかったです。」


広報班の山口の同級生が昔、小説を書いていたそうだ。ちょうど来週の取材企画がまだ決まってなかったから、夢破れて地元に戻る青年の心境でも取材してみるのもいいかもしれない。


「あ、でも、夢破れて帰ってきたわけですから、かなりナイーブになってると思うんですよね。」


「ああ、そこは任せろ。俺、人の精神をえぐるような質問はしないから」


「・・・・どうだか。」




 というわけで、俺たち取材班はその小説家崩れとアポをとることになった。家までつくと、山口が家の呼び鈴を押した。しばらく応答がなかったため、山口はもう一度呼び鈴を押した後、声を張った。


「俺町新聞社の山口ですー。取材にまいりましたー。」


すると数秒後、がちゃりとドアが開いて、中からやつれた青年が顔を出した。


「山口か・・・。」


「おお、夏目。久しぶりだな。お前、まだ小説k・・・・」


山口がすべて言い切る前に、ドアは閉められた。俺たちは時間が止まったかのようにその場に立ち尽くした。明らかにタブーなワードを山口が言ってしまったことに我々は気付いていた。野中くんに至っては山口を睨みつけている。


「どうするんだ、山口。本人明らかに小説のことひきづってるじゃないか。これじゃあ、取材にならないじゃないか。」


「あそこまでナイーブになってるとは思わなかったんですよ。」


「仕方がない。ここは取材のプロの俺に任せろ。」


取材のプロといっても、まだ取材歴は3年だが、それなりに、コツはつかんでいる。小説のこととかは置いといて、まずは世間話から入って、彼の心の扉をすこしずつ開いていこう。俺はインターフォン越しに彼との対話をすることにした。


「いやー、もう寒いですねー。」


「・・・・・・・。」


「もう鍋の季節ですねー。あ、そうだ。今日、うちで鍋パーティーをしようと思ってるんですよね。」


「・・・・・・・。」


「ど、どんな鍋にしようかなー。おでんもいいなー。キムチ鍋もあったまるしなー。あー、すき焼きでもいいなー。できればみんなで食べたいから、夏目さんも一緒にどうですか?」


がちゃりと音がしたかと思うと、夏目家のドアが開いていた。ひょろりとした顔の夏目さんがこちらを見ている。顔の割に案外人間味のある人だ。


「先輩、すげー。」


隣で山口が感嘆しているのがわかる。しかし、これはまだまだ序の口。心の扉、もとい玄関の扉を開くことに成功はしたが、大切なのはここからどう畳み掛けるか。ゆっくり慎重に・・・。


「!!?」


俺が次の一手を練ろうとしているうちに野中くんが飛び出した。素早く家の中まで入ると、夏目さんを取り押さえてしまった。なんという強硬手段。まさに雨と鞭。太陽と北風。


「な、なにするんだ!けけけけ警察を呼ぶぞ!」


「野中くん、やりすぎだ。」


「部長、お言葉ですが、これ以上の問答は時間の無駄です。」


そう言うと野中くんは、夏目さんの腕を掴んで、その手をこちらにみせてきた。夏目さんの手はペンだこでごつごつしたインクまみれの手だった。


「夏目さんは、小説を諦めてません。この手がその証拠です。」


「・・・・・・・・・。」


「夏目さん・・・・。」


「・・・・諦められるわけないじゃないですか!!」


「!!」


「ずっと夢だったんです。小説家になることが!それなのに、急に現実を見ることなんて僕には無理です!!安定した仕事について、親を安心させたい。頭ではそう考えているのに、でも、どうしても、心が!諦めることを許してくれないんですよ!!」


夏目さんはいつの間にか涙をこぼしていた。そこで、山口が何かに気が付いたように、夏目さんの元に駆け寄った。


「夏目、今一番自信のある作品を俺に見せてくれないか?」


「・・・・・・・・・・・?」




 夏目さんの部屋は、ボツの原稿をくしゃくしゃに丸めたものや、参考にした本などで足の踏み場もない状態だった。その部屋の真ん中に、普段原稿を書くために使っていると思われる机がある。山口は、夏目さんに渡された“一番自信のある作品”を読んでいる。我々も同様にその作品を読むことにした。数分後、山口は口を開いた。


「面白い。これは、若者ウケするぞ。」


「・・・・いいや、若者だけじゃない。我々おっさん世代にも読んでいて面白い。」


「お言葉ですが、私のような女性が読んでも面白いかと・・・。」


その作品は、お世辞じゃなく三人に大絶賛を受けた。そして、山口が夏目さんに向かって言った。


「夏目、これをうちの新聞で連載してみないか?」


「・・・・・!そんなことができるのか?」


「できるできる。まあ、上との相談になるが・・・。」


そう言って山口がこちらに目をやった。やれやれ、仕方のないやつだ。わかってるよ、それぐらい。俺は無言で頷いた。


「大ヒット作を狙ってるお前にとっては、うちみたいな地方新聞での連載ってのはちょっと気に食わないかもしれないが、これを機にまた小説家としてやり直してみないか?」


「・・・・うん。ありがとう。喜んで書かせてもらうよ。」


夏目さんは、またいつの間にか泣いていた。




 夏目さんがうちで連載を始めてもう三週目になる。気が付けば少しずつであるが、夏目さん宛のファンレターが届いている。やっぱり、夢はあきらめないことだ。俺も、いつか、この新聞を世界に向けて発信したい。


「お言葉ですが部長、世界に向けて発信するなら英語で表現するべきでは?」


「・・・・・・・・・・。」


まったく、空気の読めない秘書だ。

「ジャンプと中学生」

 愛すべき人ができた。このことは俺の人生、そして俺の仕事にとって大きな影響を与えることになる。今まで以上に仕事をがんばらなければならない。もちろん、仕事だけでなく、家に帰ってからも妻を愛することを忘れてはならな――――

「部長、お言葉ですがモノローグが長すぎます。」

「う、うるさいな、君は。だいたい人の頭の中を読むな!超能力者か、君は!」

この口うるさい美女は、俺の秘書である野中である。顔はいいんだが、口が悪いのがたまにきずで、何しろ性質の悪いことに、俺の頭の中を読んでくる。

「部長、それセクハラです。」

ほうらね。


―――第一話 俺町新聞へようこそ――――


 改めて、俺町新聞読者のみんな、ごきげんよう。俺町新聞編集部部長の黒井だ。この俺町という小さな町の取材を始めて早3年。この町の住民は変な人が多い。そういった変な人物たちを紹介していくことがこの新聞のメインテーマだ。

さて、うちの社員をもう一人紹介しておこう。広報班で俺の後輩の山口だ。彼は努力家ではあるものの、特に何かに秀でているわけでもない普通のサラリーマンだ。よく俺の取材に付き合ってくれるが、広報活動の方は進んでいないようだ。

「今週のナルトおもしれ―」

そして、彼のジャンプ卒業はいつなのだろうか。永遠の中二病、山口である。だいたい俺たち取材班は、俺と山口と野中くんで構成されている。今日も取材の予定が入っている。

「おい、山口。そろそろ取材にいかなくちゃあいけないんだから、ジャンプは後にしとけよ。」

「え?もうそんな時間でしたっけ?」

そんな気の抜けた返事をする山口の手から野中くんがジャンプを奪う。そしてそのまま振りかぶって投げた!ジャンプを窓から外に飛んでいった。

「ああーーーーーーーーー!!俺のジャンプが!!まだ銀魂読んでないのに!」

「さ、取材に行きましょう(早く卒業しやがれ、ガキが)」

野中くんの強硬手段により、山口は外に出るしかなくなった。やれやれ、やりすぎだろう、まったく。


 中学生にとって、ジャンプを読んでいるかどうかは、かなり重要な問題である。ジャンプを読んでいなければ、休み時間に友達との会話に入り込めず、教室の隅で寝たふりをするしかないのである。僕、金子は貧乏であるため、ジャンプを買ってもらえず、月曜日にはいつも置いてけぼりになっていた。もちろん、話に無理に入ろうとして、話を合わせたりしたが、「お前は持ってないんだからあっち行ってろよ」と言われる始末。お金のない僕には、友達を作ることもできないのだろうか。

 今日も肩を落としながら学校への道を歩いていると、一冊の週刊誌が僕の足元に落ちてきた。

「これは・・・」

まさしく、週刊少年ジャンプであった。しかも今週号!これで、みんなの話にも置いていかれずに済む!!でもなんで落ちてきたんだろう。神様が僕にくれたのかな。

「あれー?この辺に落ちたと思ったんですけどねー」

ん?誰か来る。この本の持ち主かな?隠れなきゃ。


 俺たちは新聞社の前にある公園に来ていた。

「野中さんが急に投げちゃうからですよ。」

「仕事中に読んでる山口さんが悪いんです。」

「まあまあ二人とも、いいじゃないか、ジャンプぐらい。ほら、300円やるからあとで新しいの買えよ」

こうやってジャンプを探している方が無駄である。俺の提案を他所に必死に探している山口を横目に俺はベンチに腰を下ろした。そこで、木の陰からこちらの様子をうかがっている少年に気が付いた。手にはジャンプがあった。どういう事情があるにしても人のものを盗むのはよくないな。

「おい、そこの少年!」

俺が声をかけると少年はびっくりして逃げて行ってしまった。あーあ、別に悪いようにはするつもりはなかったんだがな。しかし、ここは大人として社会というものを教えてやらなければな。

「野中君。」

「はい。」

俺が声をかけると野中くんはすぐに走りさってしまった。さすが、陸上の短距離でインターハイに出場した経験があるだけの走りっぷりだ。みるみるうちに野中君は少年との距離を縮めあっという間に捕まえてしまった。うちの秘書はできがいい。


「どうしてこんなことをしたんだ。」

「・・・・・・・。」

「やっぱり、警察に行きましょうよ。僕のジャンプを盗むなんて許せません。」

「いや、ちょっと待て。お前はジャンプに熱過ぎだ。だいたい、道端にジャンプが転がっててそれを拾っただけじゃあ盗んだとはいえないだろ?」

とにかく、この少年から反省の色が見れればそれでいい。そのためには、少年がしゃべってくれないといけなかった。ここで取材班としてのキャリアを見せつけよう。

「君は、そういうことをするような子には見えない。とてもまじめそうだ。学校でなにか嫌なことでもあったのか?」

我ながらナイスなアプローチだ。この町で取材をして3年といううすっぺらいキャリアが役に立つときが来た。

といっても、なかなかしゃべりださない。こういうときは辛抱強く待つしかない。このあとの予定を考えながら待っていると、少年がようやく口を開いた。

「・・・僕、友達がいないんです。」

「それと、ジャンプにどういう関係があるんだ?」

「僕、お金がなくて、ジャンプが買えないんです。」

少年の答えにさらに疑問を持たざるを得ない。ジャンプを買えないからなんだというのだろうか。この少年はいったい何を言いたいのだろうか。そう思っていると今度は山口が口を開いた。

「なるほど・・・それでジャンプをとったのか。」

「どういうことだ?」

「ああ、先輩の時代はそうじゃなかったかもしれませんが、ジャンプというのは今やコミュニケーションの一つのツールなんです。ジャンプを購読しているかどうかが友人関係を大きく左右するといっても過言ではないんです。」

「そんなばかn・・」

「その通りです。僕はジャンプが買えなくて、友達の話に入れてもらえず、いつも一人ぼっちでした。だから今日空からジャンプが降ってきて、これは神様のおぼしめしだ!と思ったんです。」

なるほどな・・・。それなら、この子に罪はないかもしれないな。むしろどうにかしてあげたい。

「山口、そのジャンプ、この、金子くんにあげたらどうだ?」

「あげません」

「! どうしてだ!?」

「ジャンプ一冊で交友関係は変わりません。金子くん、今すぐうちに来てほしい。うちには20年前から今日までのジャンプ、すべてが格納されている。このすべてに目を通してほしい」

山口の目は燃えていた。そうか、たった一日だけのジャンプでは意味がない。確かに山口の言うとおりかもしれないな。最後に、山口と握手を交わした金子くんは、「遅刻する!」と言って急いで学校に行ってしまった。


 それから二週間後、最近俺町で起こる事件をまとめていたとき、金子くんが尋ねてきた。

「山口さん!」

「おお、みんなの反応はどうだ?」

「それがもう、僕はクラスの人気者です!本当にありがとうございました!」

「ふ、金子くん、君はまだまだだ。もっと深く、ディープな読者にならなければ、本当のジャンプオタクとは言えない。さ、二周目を読みたまえ」

「はい、山口さん!」

どうやら、山口の教育はいい方向に向かっているようだが、ちょっとやりすぎじゃないか?ま、なんにしても金子君の人生を変えてしまったんだから山口のジャンプ魂とやらもたいしたものだよ。あ、そうそう。今回の件で、山口専用のジャンプ本棚が編集室にできた。野中くんは猛反対したんだが、そう言いつつ彼女もジャンプに興味を抱いているようだった。実は昼休みに一人でこっそり読んでいるのを目撃してしまったのだ。まあ、いいことかもしれないな。俺も同心に返ってつい読み込んでしまった。そのせいで、今書いてる原稿が締切ギリギリなのだった。

「ジャンプ最高!」

山口は相変わらずうるさかった。

うそつきネズミと親切ネズミ

ある部屋の隅、人間たちが知らないところに、うそつきネズミがいた。
うそつきネズミは嘘をついて生計をたてていた。
他のネズミの家に泊めてもらい、親切なネズミを装って振る舞うが、夜になり彼らが寝静まると、ハムやチーズなどの一切の食糧を持ち出して逃げるというのが彼の手口だった。
今日も彼は仕事を始めた。
今日のターゲットは親切ネズミだ。
「こんにちは。親切ネズミさんですか?すみませんが、一晩泊めていただけないでしょうか?私の家の周りには夜になると猫が彷徨いて、怖くて寝られないのです。」
「それは大変ですね。わかりました。すぐ準備を整えましょう。」
うそつきネズミはいかにも騙しやすそうなやつだと思った。
その夜うそつきネズミは、今まで受けたことのないほどのもてなしを受けた。
豪華な夕食、暖かいお風呂、ふかふかのベッド、そして何より親切ネズミとの会話が楽しかった。
そのときうそつきネズミは気づいたのだった。
自分は嘘ばかり着いていたから友達もいなくてずっと一人で寂しかったのだということに。
自分が本当に欲しかったものは食糧なんかじゃなくて、友達だったということに。
それに気づいたとき、うそつきネズミは涙を流した。
そしてその晩彼は盗みをしなかった。
翌朝、親切ネズミよりうそつきネズミは早く起きて親切ネズミのために朝食をこしらえた。
そして起きてきた親切ネズミにずっと友達でいようと笑った。

プランクトン

このブログの更新を超絶不定期ながらしっかりしている自分が気持ち悪い。

夜はもうすっかり秋みたいな風が吹いているこの頃、ただただなにもせずだらだらと過ごしている大学生が一人。
季節は秋になる準備をしているというのに、俺といったらちっとも大人になる気配を見せない。
こうして人間は腐っていくんだろう。
何もすることがないのは夏休みだからである。
小中高までは夏休みは8月までだったが大学になると9月までなのだ。
これがまた俺を退屈にさせ、ダメ人間にさせるのだ。
部屋でゴロゴロしながら色々と妄想するのだ。
金があればバイトやめて海外旅行にいくだとかそんな妄想を。
妄想は楽しい。
しかし妄想は心を腐らせるプランクトンだ。
危険。

この世は腐っている

 俺は一流とまではいかないが大手企業に勤めていた。そこで、営業の仕事をこなしていたのだが、ある上司の失態をなすりつけられ、リストラされてしまった。リストラ直後は世界が灰色に見えた。昼間からすることもなくなったので、部屋でごろごろしているとき、何かもやっとした感情になった。こういうときにぴったりの言葉が確かあったはず。そう思って国語辞典をペラペラめくった。

「濡れ衣・・・」<
/p>

 俺はいつのまにかその項目をつぶやいていた。切なさゆえ、涙もでない。そして、国語辞典に載ってない言葉が心の底から湧いて出た。

――――この世は腐っている。

 会社をクビになって、そういう立場になってこの言葉が身に沁みるようになった。俺は、この言葉を既に別の機会に聞いていた。それもある期間、毎日というほどに。


『この世は腐っている』


 高校時代のことをふと思い出した。それは秋も深まり、日ごと寒さが増すとある朝のこと。学校の門をくぐると、人だかりが目に飛び込んできた。一人の生徒の周りに教師が群がり、暴れている生徒を取り押さえているようだった。よく見ると、人だかりの中心で拡声器を持っている生徒に見覚えがあった。

「髪型が!髪の色が!人の印象を決めるとお前ら教師は言う!しかし・・・!それは学校側が差別を押し付けていることに他ならない!つまり・・・・!」

 結論を言おうとしたその男子生徒と目があった。男はニヤッと笑って俺に目くばせした。俺はその男のやっていることに半ば呆れながらも、半ば興奮していた。自分はあそこまで行動することはないが、普段抱えている不満を彼が代替して主張してくれているような気分にあった。そういう複雑な感情を胸に、男子生徒が続ける主張に耳を傾ける。

「つまり・・・!この世は腐っている!」

 一瞬、しんとその場が静まり返る。しかし、すぐに生徒の間で歓声があがる。それに対し、教師たちは焦り狼狽え、とりあえず歓声を上げている生徒たちに叱責する。それでも歓声は止まらない。事件の当事者たる男子生徒は再び俺に笑いかけ、次の発言のため、深呼吸する。

「さあ一限目が始まるぞ!先生!手を離してください!僕には学ぶ義務と権利があります!」

 教師が手を離す前に教師の手中から自らするりと抜けだすと教室まで走っていった。それに伴い、周りに群がっていた生徒も一斉に教室へと急ぎ始める。俺もまた、同じくその人だかりの一員となった。俺たち生徒は戦争に勝って母国に帰ってきた軍人のような気持ちで廊下を行進した。


雨傘

雨が降ってきた。突然の雨だ。私は傘を持っていなかった。どうしよう、と考えているうちに雨が私をずぶ濡れにしていく。自分はこの世で最も不幸な人間なのではないのか、などという妄想をしているまさにその時だった。ふいに私の真上に傘が現れ、雨から私を守ってくれた。見上げるとはにかんでそっぽを向いた少年が立っていた。
人はこういうちょっとした出来事の中で恋に落ちていくのかもしれない。そう思った雨の昼下がり。

鳥人間

「隣のおじさんいるじゃん」

 妹がアイスを食べながら喋りかけてきた。一方テレビを見ている俺は「ああ」と気のない返事をした。隣のおじさんと言えば、我が家とはなんの関わりもないが顔だけは知っているというぐらいの人間である。ご近所づきあいといものが減少している現代、うちのような隣の家の人との付き合い方は特別珍しくもない。

「隣のおじさん、鳥になったんだって。」

 妹は傍から聞くと意味不明なことを言った。しかし、俺にとってそれは意味のあることだった。

 先ほど、隣のおじさんとうちの家庭にはなんの関わりもないという表現をしたが、俺自身はそういうわけにもいかなかった。ほんの数日前のことだった。俺がちょうど窓を開けると、隣の家の窓からおじさんが顔を出していた。おじさんと目があうと、おじさんは何か言いたげな表情をした。そして、手招きをした。なんだろうと思い、家から出、おじさんの家の前に行った。同じくおじさんも家から出てきた。おじさんは自慢げに言った。

 「知ってるか。人は高いところから飛び降りると鳥になれるんだ。」

 それが比喩的な意味なのか、どういうニュアンスを含んでいるのか、俺には理解できなかったが、おじさんの表情から狂気的なものを感じた。俺は怖くなってすぐに家に帰った。その日の夜に、このことを妹にだけ話したのだった。

「つまりおじさんは――――」

「ビルから飛び降りて死んだ。自殺したってこと。」

 隣の家のおじさんが自殺した。もともとは顔ぐらいしか知らないはずだった人間。しかし、つい先日初めて喋って、そのときの言葉が自殺を予告するものだったのだ。

「それにしてもどうしておじさんは、俺にあんなことを言いたかったんだろう。」

 この問いかけをする頃には妹はすっかりアイスを食べてしまっていた。しかし、冷たいものをいっきに食べ過ぎて頭が痛くなったのだろう。頭を押さえながら妹は答える。

「誰かに聞いて欲しかったんじゃない?それでも家族に言っちゃえば変な心配されちゃったりするから、なるべく関わりのない人間がよかったんじゃない?」

 それでたまたま窓を開けたときに目があった俺に白羽の矢が刺さったわけか。それにしてももっと他に相談できる人がいただろうに。俺がまだ不思議そうな顔をしていることに気付いたのか、妹は違う答えを導きだした。

「それとも―――――」

 妹が切り出そうとしたとき、家の近くで鳥が一羽、鳴いた。そのあと、妹は変な笑みを浮かべて言った。

「本当に鳥になっちゃったのかもよ?」