この世は腐っている | 俺町物語

この世は腐っている

 俺は一流とまではいかないが大手企業に勤めていた。そこで、営業の仕事をこなしていたのだが、ある上司の失態をなすりつけられ、リストラされてしまった。リストラ直後は世界が灰色に見えた。昼間からすることもなくなったので、部屋でごろごろしているとき、何かもやっとした感情になった。こういうときにぴったりの言葉が確かあったはず。そう思って国語辞典をペラペラめくった。

「濡れ衣・・・」<
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 俺はいつのまにかその項目をつぶやいていた。切なさゆえ、涙もでない。そして、国語辞典に載ってない言葉が心の底から湧いて出た。

――――この世は腐っている。

 会社をクビになって、そういう立場になってこの言葉が身に沁みるようになった。俺は、この言葉を既に別の機会に聞いていた。それもある期間、毎日というほどに。


『この世は腐っている』


 高校時代のことをふと思い出した。それは秋も深まり、日ごと寒さが増すとある朝のこと。学校の門をくぐると、人だかりが目に飛び込んできた。一人の生徒の周りに教師が群がり、暴れている生徒を取り押さえているようだった。よく見ると、人だかりの中心で拡声器を持っている生徒に見覚えがあった。

「髪型が!髪の色が!人の印象を決めるとお前ら教師は言う!しかし・・・!それは学校側が差別を押し付けていることに他ならない!つまり・・・・!」

 結論を言おうとしたその男子生徒と目があった。男はニヤッと笑って俺に目くばせした。俺はその男のやっていることに半ば呆れながらも、半ば興奮していた。自分はあそこまで行動することはないが、普段抱えている不満を彼が代替して主張してくれているような気分にあった。そういう複雑な感情を胸に、男子生徒が続ける主張に耳を傾ける。

「つまり・・・!この世は腐っている!」

 一瞬、しんとその場が静まり返る。しかし、すぐに生徒の間で歓声があがる。それに対し、教師たちは焦り狼狽え、とりあえず歓声を上げている生徒たちに叱責する。それでも歓声は止まらない。事件の当事者たる男子生徒は再び俺に笑いかけ、次の発言のため、深呼吸する。

「さあ一限目が始まるぞ!先生!手を離してください!僕には学ぶ義務と権利があります!」

 教師が手を離す前に教師の手中から自らするりと抜けだすと教室まで走っていった。それに伴い、周りに群がっていた生徒も一斉に教室へと急ぎ始める。俺もまた、同じくその人だかりの一員となった。俺たち生徒は戦争に勝って母国に帰ってきた軍人のような気持ちで廊下を行進した。