「ジャンプと中学生」 | 俺町物語

「ジャンプと中学生」

 愛すべき人ができた。このことは俺の人生、そして俺の仕事にとって大きな影響を与えることになる。今まで以上に仕事をがんばらなければならない。もちろん、仕事だけでなく、家に帰ってからも妻を愛することを忘れてはならな――――

「部長、お言葉ですがモノローグが長すぎます。」

「う、うるさいな、君は。だいたい人の頭の中を読むな!超能力者か、君は!」

この口うるさい美女は、俺の秘書である野中である。顔はいいんだが、口が悪いのがたまにきずで、何しろ性質の悪いことに、俺の頭の中を読んでくる。

「部長、それセクハラです。」

ほうらね。


―――第一話 俺町新聞へようこそ――――


 改めて、俺町新聞読者のみんな、ごきげんよう。俺町新聞編集部部長の黒井だ。この俺町という小さな町の取材を始めて早3年。この町の住民は変な人が多い。そういった変な人物たちを紹介していくことがこの新聞のメインテーマだ。

さて、うちの社員をもう一人紹介しておこう。広報班で俺の後輩の山口だ。彼は努力家ではあるものの、特に何かに秀でているわけでもない普通のサラリーマンだ。よく俺の取材に付き合ってくれるが、広報活動の方は進んでいないようだ。

「今週のナルトおもしれ―」

そして、彼のジャンプ卒業はいつなのだろうか。永遠の中二病、山口である。だいたい俺たち取材班は、俺と山口と野中くんで構成されている。今日も取材の予定が入っている。

「おい、山口。そろそろ取材にいかなくちゃあいけないんだから、ジャンプは後にしとけよ。」

「え?もうそんな時間でしたっけ?」

そんな気の抜けた返事をする山口の手から野中くんがジャンプを奪う。そしてそのまま振りかぶって投げた!ジャンプを窓から外に飛んでいった。

「ああーーーーーーーーー!!俺のジャンプが!!まだ銀魂読んでないのに!」

「さ、取材に行きましょう(早く卒業しやがれ、ガキが)」

野中くんの強硬手段により、山口は外に出るしかなくなった。やれやれ、やりすぎだろう、まったく。


 中学生にとって、ジャンプを読んでいるかどうかは、かなり重要な問題である。ジャンプを読んでいなければ、休み時間に友達との会話に入り込めず、教室の隅で寝たふりをするしかないのである。僕、金子は貧乏であるため、ジャンプを買ってもらえず、月曜日にはいつも置いてけぼりになっていた。もちろん、話に無理に入ろうとして、話を合わせたりしたが、「お前は持ってないんだからあっち行ってろよ」と言われる始末。お金のない僕には、友達を作ることもできないのだろうか。

 今日も肩を落としながら学校への道を歩いていると、一冊の週刊誌が僕の足元に落ちてきた。

「これは・・・」

まさしく、週刊少年ジャンプであった。しかも今週号!これで、みんなの話にも置いていかれずに済む!!でもなんで落ちてきたんだろう。神様が僕にくれたのかな。

「あれー?この辺に落ちたと思ったんですけどねー」

ん?誰か来る。この本の持ち主かな?隠れなきゃ。


 俺たちは新聞社の前にある公園に来ていた。

「野中さんが急に投げちゃうからですよ。」

「仕事中に読んでる山口さんが悪いんです。」

「まあまあ二人とも、いいじゃないか、ジャンプぐらい。ほら、300円やるからあとで新しいの買えよ」

こうやってジャンプを探している方が無駄である。俺の提案を他所に必死に探している山口を横目に俺はベンチに腰を下ろした。そこで、木の陰からこちらの様子をうかがっている少年に気が付いた。手にはジャンプがあった。どういう事情があるにしても人のものを盗むのはよくないな。

「おい、そこの少年!」

俺が声をかけると少年はびっくりして逃げて行ってしまった。あーあ、別に悪いようにはするつもりはなかったんだがな。しかし、ここは大人として社会というものを教えてやらなければな。

「野中君。」

「はい。」

俺が声をかけると野中くんはすぐに走りさってしまった。さすが、陸上の短距離でインターハイに出場した経験があるだけの走りっぷりだ。みるみるうちに野中君は少年との距離を縮めあっという間に捕まえてしまった。うちの秘書はできがいい。


「どうしてこんなことをしたんだ。」

「・・・・・・・。」

「やっぱり、警察に行きましょうよ。僕のジャンプを盗むなんて許せません。」

「いや、ちょっと待て。お前はジャンプに熱過ぎだ。だいたい、道端にジャンプが転がっててそれを拾っただけじゃあ盗んだとはいえないだろ?」

とにかく、この少年から反省の色が見れればそれでいい。そのためには、少年がしゃべってくれないといけなかった。ここで取材班としてのキャリアを見せつけよう。

「君は、そういうことをするような子には見えない。とてもまじめそうだ。学校でなにか嫌なことでもあったのか?」

我ながらナイスなアプローチだ。この町で取材をして3年といううすっぺらいキャリアが役に立つときが来た。

といっても、なかなかしゃべりださない。こういうときは辛抱強く待つしかない。このあとの予定を考えながら待っていると、少年がようやく口を開いた。

「・・・僕、友達がいないんです。」

「それと、ジャンプにどういう関係があるんだ?」

「僕、お金がなくて、ジャンプが買えないんです。」

少年の答えにさらに疑問を持たざるを得ない。ジャンプを買えないからなんだというのだろうか。この少年はいったい何を言いたいのだろうか。そう思っていると今度は山口が口を開いた。

「なるほど・・・それでジャンプをとったのか。」

「どういうことだ?」

「ああ、先輩の時代はそうじゃなかったかもしれませんが、ジャンプというのは今やコミュニケーションの一つのツールなんです。ジャンプを購読しているかどうかが友人関係を大きく左右するといっても過言ではないんです。」

「そんなばかn・・」

「その通りです。僕はジャンプが買えなくて、友達の話に入れてもらえず、いつも一人ぼっちでした。だから今日空からジャンプが降ってきて、これは神様のおぼしめしだ!と思ったんです。」

なるほどな・・・。それなら、この子に罪はないかもしれないな。むしろどうにかしてあげたい。

「山口、そのジャンプ、この、金子くんにあげたらどうだ?」

「あげません」

「! どうしてだ!?」

「ジャンプ一冊で交友関係は変わりません。金子くん、今すぐうちに来てほしい。うちには20年前から今日までのジャンプ、すべてが格納されている。このすべてに目を通してほしい」

山口の目は燃えていた。そうか、たった一日だけのジャンプでは意味がない。確かに山口の言うとおりかもしれないな。最後に、山口と握手を交わした金子くんは、「遅刻する!」と言って急いで学校に行ってしまった。


 それから二週間後、最近俺町で起こる事件をまとめていたとき、金子くんが尋ねてきた。

「山口さん!」

「おお、みんなの反応はどうだ?」

「それがもう、僕はクラスの人気者です!本当にありがとうございました!」

「ふ、金子くん、君はまだまだだ。もっと深く、ディープな読者にならなければ、本当のジャンプオタクとは言えない。さ、二周目を読みたまえ」

「はい、山口さん!」

どうやら、山口の教育はいい方向に向かっているようだが、ちょっとやりすぎじゃないか?ま、なんにしても金子君の人生を変えてしまったんだから山口のジャンプ魂とやらもたいしたものだよ。あ、そうそう。今回の件で、山口専用のジャンプ本棚が編集室にできた。野中くんは猛反対したんだが、そう言いつつ彼女もジャンプに興味を抱いているようだった。実は昼休みに一人でこっそり読んでいるのを目撃してしまったのだ。まあ、いいことかもしれないな。俺も同心に返ってつい読み込んでしまった。そのせいで、今書いてる原稿が締切ギリギリなのだった。

「ジャンプ最高!」

山口は相変わらずうるさかった。