バード・ボックス
※ネタバレです。
原題 Bird Box
製作年 2018年
製作国 アメリカ
上映時間 124分
監督 スサンネ・ビア
製作 ディラン・クラーク、クリス・モーガン 他
製作総指揮 サンドラ・ブロック、スサンネ・ビア 他
脚本 エリック・ハイセラー
出演 サンドラ・ブロック、トレバンテ・ローズ、ジャッキー・ウィーバー、ローサ・サラザール、ダニエル・マクドナルド、リル・レル・ハウリー、トム・ホランダー、B・D・ウォン、サラ・ポールソン、ジョン・マルコビッチ 他

あらすじ
出産を間近に控えるマロリーはある日突然、人類を滅亡の危機に陥れるほどの脅威に直面する。異変の原因はわからず、出来ることはただ、屋外にいる「それ」を見ないこと。視界を奪われた世界で、マロリーら生存者たちはなんとか生き抜こうとするが...



予告を観たらなかなか楽しそうだったので、NETFLIXで鑑賞してみましたよ。


「○○をすると死ぬ世界という1アイデア設定で思い出すのは、やっぱり最近では「クワイエットプレイス」 で。


なので当然、「クワイエットプレイス」のフォロワー作品みたいな感じかな~。という何となくなイメージで見始めましたし、たぶん多くの方も、「クワイエット~」的な、いわゆる、ジャンル映画的サバイバルスリラーものを想像するんじゃないでしょうか。


でも個人的には、かなり期待を裏切られたというか。これは良い意味でなんですけど。




たぶん観るひとによって賛否はかなり分かれる作品ではあると思うんですが、それでもサンドラ・ブロックの素晴らしさに関しては誰もが同意するところではないかと。


冒頭で、サンドラ・ブロック扮する主人公・マロリーが、幼い子供2人に対して、ちょっと怖いぐらいの勢いで、とあるルール説明を始めます。


これはすなわち観客へのルール説明にもなっているわけですけど、その鬼気迫る表情含め、物語的にはまだ何も始まってはいないんだけど、それでも彼女の圧倒的な演技でもって、観客に対して「確かにこれは、何かただ事ではない事態が起こっている。」という実感を与えることができています。


それから本作が、「サバイバルスリラーとしてどうか?」ということは後で書くとして、本作は「マロリーという1人の女性の成長物語」として観ると、かなりグッとくるものがありました。


「見ると死ぬ」という「それ」の正体は、結局最後までわからないわけで。そこをもって、「つまり何だったの?つまんねー。」という感想を持たれる方もいるかもしれません。


個人的に思うのは、本作はもう少し寓話的というか、「ひとの心」に関する作品なんじゃないかと思います。




マロリーは妊婦ですが、やがて産まれてくる我が子に対しては微妙な心持ちではあるようです。


それは多分、シングルマザーになることへの不安はもちろんあったでしょうし、今は亡き父親との関係も決して良くはなかったようで、対人関係も希薄です。


マロリーは父親のことを「クソ野郎だった。」と語っていますが、彼女自身、「自分も父親に似ている。」という意識があったのかもしれません。


つまり、親との関係にしろ、他者との関係にしろ、対人関係に自信の無い彼女が、「親になる」「自分以外の命に責任を持つ」という状況は、喜ぶべきことだと分かりつつも、実際彼女には圧倒的な恐怖だったに違いありません。しかも唯一良い関係を築けていた妹も、あっけなく死んでしまいます。


「それ」とはつまり、マロリーの「恐怖心そのもの」だったのだと思います。彼女は、親としての責任を放棄するかのように、息子を「ボーイ」、亡くなった女性から託された女の子を「ガール」と呼んでいました。しかしクライマックスで、子供たちへの愛に気がついた彼女は、「彼らは自分の子供であり、彼らを守るのが自分の責任である」という堅い決心をすることで、彼女にとっての「恐怖」、つまり、「それ」を駆逐していきます。




さらに、「見えない恐怖」ということで、先日鑑賞した「透明人間」 はやっぱり思い出したし、共通するテーマもあるのかなと。


SNS時代、さらにコロナウイルスによってさらに「互いの姿が見えないコミュニケーション」が当たり前となり、対面の、「深い人間関係」というものが希薄になりつつある今、「見えない相手」というものが、時には大きな恐怖になり得るという、ある種の問題提起にもなっているのかなと。


さらに、「目隠しをしないと外出できない」という状況は、「マスクをしないと外出できない」という今の状況を予見していたかのようです。


あと本作の、現在と過去を交互に見せていくという編集はよかったと思います。冒頭で、ある時点までを見せておいて、過去に話が戻るというのは、よくあるものですが、話が過去の出来事であるがゆえに、「何が起こっても、とりあえず冒頭のあの場面に時制が追い付くまでは、主人公が死ぬことはない」という、ある意味ネタバレというか、若干緊張感を欠いた状態で話が進むことにもなります。

しかし本作では、現在のマロリーの物語も平行して語られるため、緊張感も途切れないですし、彼女が連れている2人の子供との関係性という部分における観客の興味も持続します。




最初に書いたように、思っていた内容とはかなり異なっていて、ジャンル映画でありながらも、ちょっとソフトストーリー寄りな作風でもあったのかなと。そういう意味では僕は本当に良い意味で裏切られました。


じゃあ、逆に、サバイバルスリラーという部分で楽しめたかと言われると、正直ちょっと微妙に感じる部分もあって...


例えば、妹を亡くしたマロリーは、ジョン・マルコビッチの家で、他の生存者らと共同生活を始めるわけです。これは、ゾンビ映画でもなんでも、ある種お約束な展開ではあります。


こういうシチュエーションでは、密室空間に、他人どうしが、それぞれの事情を抱えて居合わせているわけですから、自分勝手なひともいれば、何とか協力しようとするひともいて、必然的に登場人物どうしの葛藤が強くなります。


本作の登場人物たちも、確かに分かりやすく作劇上の機能は果たしていると思います。会話の中でそれとなく、「ああ、この人はこういう人ね。」っていう。


でも、例えば自己犠牲的に死ぬオタクの彼とか。分かりますよ。最初はなんか情けない感じのやつが、自らの命を犠牲にっていうのは。ただ、それまでの過程の中で、彼がそういう行動にでる動機付けの部分が、若干弱いというか、ちょっと唐突な感じがするし、ぶっちゃけあの場面って、「別に死ななくても何とかなったんじゃね?」という疑問もあります。


他にもね、あの、2人で車盗んで逃げちゃうカップルとか、お産を手伝ってくれたおばちゃんとか、皆キャラクターとしての役割は果たしているんだけど、それ以上でも以下でもない感じではあって。ちょっと書き割り的な印象はありました。


その中でもジョン・マルコビッチはさすがの存在感ではあって。でも彼でさえ、観客の予想を超えるような行動は別にしてくれない。ていうか、ジョン・マルコビッチが出てきたら、「あー、なんかこいつは嫌なヤツなんだろうな」という予想はついちゃうじゃないですか(笑) 個人的にはその予想を裏切るような展開が見たかったです。




それから、「視覚を奪われる恐怖」というのは、確かに想像するだけで怖いんですけど、実際には、観客が視覚を奪われているわけではないわけで。正直、登場人物たちが感じている恐怖に、感情移入しにくかったというのはあります。例えば、「羊たちの沈黙」 や、「暗くなるまで待って」 のような、観客も真っ暗闇に放り込まれるような恐怖感は感じられませんでした。


あと肝心の「それ」に関して、変にクリーチャー的なものを出さなかったのは、僕は良かったと思います。下手に出して、「なんだこりゃ?」という気分になってしまう作品はままあります。


ただ、見せないという部分に関して、それこそ先に「透明人間」を観てしまっているだけに、「木の葉が動く」とか、「影だけが蠢いてる」という、言っちゃえばベタな演出以上の何かフレッシュな見せ場を期待してしまいました。そもそも、実体がないのに影は見えないだろとも思いますしね(苦笑)



あとはまあ、なんですかね。さすがに目隠しした状態で川下りはできないだろとは思いましたよ。
ちょっとメリル・ストリープ主演の「激流」 を思い出していたので、「川をナメるな。」という気分にもなりました(汗)


目が見えてたって大変ですよ...(「激流」より)


まあ、細かい突っ込みはありながらも、「マロリーの物語」として僕はかなり楽しめたのは間違いないです。「期待を裏切られる」というのは映画を観る上で必ずしもマイナスに働くとは限りませんよね。


ただやっぱり、いわゆるジャンル映画的おもしろさだけを期待していると、「がっかりした」という方の気持ちも、もちろん分かります。


多分、製作陣もかなり方向性で議論にはなったんじゃないかなとは思います。それこそ、もっとエンタメ寄りにすることだってできたはずですから。


だから、もう少しジャンル映画としての魅力というか、そこのおもしろさがさらに水準の高いものであれば、かなりの名作になった気もします。


「ジャンル映画としてもメッチャ面白い!でもメッセージ性もちゃんと盛り込まれてる!」というバランスにするのってたぶんスゲー難しいと思うんですよ。それをやってのけたのが、近年で言えば「パラサイト 半地下の家族」 だし、「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」 だし、それこそ先に挙げた「透明人間」もそうですが。


でも、だからといって本作のレベルが低いというわけではなくて、ちょっと「惜しい」といった感じでしょうかね(苦笑)


とにかく本当に「感想は人それぞれな1本」だとは思いますが、個人的にはけっこう好き!あとしつこいようですが、サンドラ・ブロック!アンタはすごい!オススメです~。

個人的評価
6.5/10

書き忘れましたけど、よく理解できなかったところもあるんですよね。「それ」を観ても死なない人がいるのはどういう理屈?とか。


マロリーが釣り糸を道しるべにしている感じや、トムとオリンピアの兄妹感は、若干「ヘンゼルとグレーテル」のオマージュなのかなとか。


最終的に盲学校にたどり着いて、「視力に頼らなくても幸せに暮らせるよ!」っていう、ハッピーエンドなのか、それこそタイトルの「バード・ボックス」の通り、「自由を奪われて、その場所でしか生きられない。」というバッドエンドなのか...
う~ん、でもマロリーが最後に鳥を逃がしてたから、それはつまり「自由を得た」ということだから、少なくともバッドエンドではないのかな?


なんか頭痛がしてきたので、他の方の感想を読んでみます...


こちらは人類全員が失明するという内容の映画、「ブラインドネス」 。全く覚えてないんですがおもしろかった気がしますよ(てきとう)


本作とは遠からず関連性を感じた「透明人間」 。最高でございます。



たぶん僕の初恋は「スピード」 のサンドラ・ブロックだと思います。



ではまた。