透明人間
※ネタバレです。
原題 The Invisible Man
製作年 2020年
製作国 アメリカ
上映時間 122分
監督・原案・脚本・製作総指揮 リー・ワネル
製作 ジェイソン・ブラム、カイリー・デュ・フレズネ
製作総指揮 クーパー・サミュエルソン、ベア・セケイラ、ジャネット・ボルトゥルノ、ローズマリー・ブライト、ベン・グラント
出演 エリザベス・モス、オリバー・ジャクソン=コーエン、オルディス・ホッジ、ストーム・リード、ハリエット・ダイア、マイケル・ドーマン 他

あらすじ
科学者のエイドリアンに束縛される生活を送るセシリアは、ある夜、意を決して脱出する。数週間後、妹や友人の助けを借りて新生活をスタートしたセシリアの元に、エイドリアンが自殺したという知らせが届く。しかし、次第にセシリアの周りで不可解な出来事がおこりはじめ...




本作を鑑賞した方ならかなりの確率で感じることだと思うんですが、序盤のシークエンスだけで100点な素晴らしいオープニングでした。


観てから思いましたけど、本作に関しては前情報をまったく入れない状態で鑑賞したほうがおもしろいと思います。その方がよりこのオープニングの怖さが際立つかと。


冒頭、ベッドで寝ていた女性が起き上がって、何やら隣で寝ている男性を気にしながらガサゴソと荷造りを始めるわけです。


彼女が何をしようとしているのか、特に説明は無いんですが、部屋には監視カメラがあったり、また別の部屋に行くと、これまた用途がわからない、ハイテクげな装置が置いてあったりして、なんかわからないけど、何か異様なことがこの家で行われているということを、セリフをほとんど使わずに見せるあたり、本当によくできていると思います。




カメラワークも素晴らしくて。例えばセシリアが着替えをしていて、そこからカメラが横にスーッとパンする。そこには廊下が映し出されるんだけど、誰もいないという。


普通このカメラワークって、1人の登場人物に対して、もう一方の何かあるいは誰かとの、位置関係を明確にするためのものだと思います。


たぶんこの場面って映画をたくさん観ている人ほど怖いというか。普通カメラがこの動きをしたら「あ、こっちに誰かいるのかな?」と意識的にしろ無意識的にしろ感じるし、だけど、そこには誰もいない。「ということは誰かいるのか?」この怖さ。


誰もいないはずの空間を、グーッとやたらと長く映すとか、いないんだけど、いる気がするという、見せない怖さを見事に表現していました。


他にも、画面の奥から手前に向かって誰かが迫ってくるという見せ方。セシリアが車にとび乗って、ウインドウ越しの空間を観客に見せておいてからドライバーにカットが切り替わって、またセシリアにカットが移ると、さっきまで何もなかった空間に「もうそこまで来てる!」っていう。


それからセシリアが庭のポストに新聞を取りにいくと、観客からはセシリアの影になって見えないんだけど、彼女の立ち位置が変わったとたんジョギングしてる人が急に現れたり。この辺の見せ方も凄かった。




本作の中では、透明人間側、つまりエイドリアン側の視点はほとんど無いんですね。基本はすべてセシリア目線。なので敵側の心情が全くわからないため、「目に見えない」という要素も相まって、すごく心霊映画的といってもいいかもしれません。


他にも音や音楽の使い方も怖かった。急に大きな音を出して観客が怖がるという、お約束と言えばお約束なショッカー演出も、「静寂」の使い方や、間の取り方含め、ものすごく計算されている感じがしました。


例えば、セシリアが犬のエサを入れる器を蹴ってビクッとするということ自体が、「犬を飼っている」ということの説明になっているし、それがその後の「犬を飼っているがゆえのサスペンス、ピンチ」に繋がっていくというね。上手いとしか言いようがないです。





劇中では主人公のセシリアがまあ散々な目にあうわけです。また精神的に追い詰められていくエリザベス・モス演技が素晴らしいし。


エイドリアンが透明になって自分を脅かしていることを誰に言っても信じてもらえない。しかも自分以外の人間に危害が及ぶと、次は全て頭がおかしくなった彼女のせいにされてしまうという鬼展開


でもここがまたすごいのが、観客もまた本当に彼女の頭がおかしいだけなのかもしれないという半信半疑な状態におかれるということ。透明人間は当たり前ですが見えないし、単にセシリアの妄想ともとれるバランスになっています。


いよいよ他の登場人物にも透明人間の存在が明らかになり、セシリアが反撃に転じる場面のカタルシスはかなりなものがありました。


エイドリアンが対極にあるイス、誰もいないはずのイスにフッと気配を感じる。次の瞬間グバッとね。まさに安全圏から一方的に他者に危害を加えてきた者に天誅が下る「見る者」と「見られる者」の立場が逆転する快感「サプライズ!」というね(笑)




また、「性暴力」など、特に女性が感じる恐怖というものをテーマに盛り込んでいるのは素晴らしいと思ったし、「見えない存在に脅かされる恐怖」というのは、例えばSNSでの誹謗中傷とか、ものすごく現代的な恐怖を描いた作品です。


あとこれは穿った見方かもしれませんが、僕は本作における透明人間というものは、実はもう1人いると考えていて。それは僕ら観客なんじゃないかと。


エイドリアン、透明人間は安全な場所から一方的にセシリアを見ているという存在ですが、それは僕ら観客も同じだと思います。


つまり、エイドリアンがやっていることはとてもおぞましく、許しがたい行為ですが、僕ら観客もまたそういう存在になる危うさを持っているというか、誰もが透明人間になりうるということなんじゃないかと。






とにかくもう褒めたいところばかりでした。


SFホラーというジャンル映画でありながら、現実の、現代社会における問題、恐怖というものに切り込んだ、大傑作と言っても言い過ぎではないと思います。


欲を言えば、とか、なんでもいいんですけど、透明状態の敵を可視化する上でのフレッシュな見せ方があればなぁ~なんてそんな贅沢言ったらバチが当たりそう。


僕自身は「透明人間」という題材にそんなに思い入れは無いんですけど、ポール・バーホーベン監督の「インビジブル」はすごく好きで、まず最初に連想したんですが、「見えない敵に立ち向かう女性」というところで、当ブログで言えばオードリー・ヘプバーン主演の「暗くなるまで待って」や、パク・シネ主演の「ザ・コール」を思い出したりしました。あと、とても印象的に、左右対称に見せるショットは、キューブリックのオマージュだったりするのかしら?とか。


とにかくいろいろ思うところがあった「透明人間」!超オススメ!でございます。


個人的評価
9/10

本作とは何の関係もない、東京事変の透明人間。



ポール・バーホーベンとケヴィン・ベーコンの最恐合体。子供の頃、エッチなシーンは親と見てて恥ずかしかったな(エヘヘ...)


リー・ワネル監督の前作。未見なんですがおもしろそ...


ではまた。