昨日のブログに、『鬼郷(귀향)』と『雪道(눈길)』の比較を読みたいという反響をいただきまして、ありがとうございます。
リクエストにお応えして、「韓国映画史」の授業から、学生の発表及び教授の解説の一部、ご紹介します。
まず、この2本は慰安婦がテーマの映画。
『鬼郷』は、2016年2月の公開。2015年12月の慰安婦問題日韓合意の後ですね。
合意に対する反発が韓国内で広がっていた時期で、異例のヒットとなります。
一方の『雪道』は、その約1年後、2017年3月の公開。
この時期は、朴槿恵前大統領の弾劾で韓国中が盛り上がり、そもそも劇場に足の向かなかった時期。
もともとテレビドラマだったのが映画化された作品で、それもあってか興行的には厳しい成績となりました。
が、わたしを含め、作品についての評価は「雪道」の方が高め。
二つの作品は共通点も多くて、二人の少女が主人公。
そして、現代と行き来しますが、現代も10代の女の子が登場します。
違うのは、『鬼郷』は男性監督、『雪道』は女性監督。
やっぱりそれぞれ、男性の視線、女性の視線が感じられます。
『鬼郷』の方が圧倒的に男性の役割が多い。
故郷のシーンでも、『雪道』に比べて父親の存在感が大きい。
これは、教授の解説ですが、現代の韓国人男性の発想として、慰安婦の問題というのは、当時の男性たちが女性を守りきれなかったという捉え方がある。
守りきれなかったものの中心は、やはり「性」にある。
だから、性的な苦痛を表現するシーンが多い。
露骨な描写を批判する声もあります。
女性監督の発想は、ちょっと違う。
必ずしも「性」ではない。人格を尊重してもらえなかったということ。
日常を破壊されたことに対する苦痛。
だから、慰安所で主人公2人が隠し持ってきた本を読むシーンがあるんですね。
本が読めるかどうか、というのも、人間らしく生きるうえで大事なこと。
チョン・スワン教授(この授業の担当)は、
historyは his story 男の歴史 公式記録
her story 女の歴史 記録に残りにくい個人の歴史
と言います。
歴史を記録として残してきたのは、男性が多いから。
これは『鬼郷』と『雪道』のオープニングから、その違いが如実に出ます。
『鬼郷』は、テレビのニュースから。
元慰安婦のハルモニ(おばあさん)が名乗り出たというニュースです。
これは公式の記録。
『雪道』は、元慰安婦の夢から。
個人的なものです。
元慰安婦の方々は、長い間、黙ってきた。
黙ったまま亡くなった方もいるだろうし、今も黙っている方もいるかもしれない。
これは公式の記録には残らないher story です。
だからと言って、なかったわけではない。
例えば、写真というのは公式の記録ですが、
『雪道』では、慰安婦たちが、看護師たちの写真として記録されたことを表現しています。
公式の記録は、必ずしも正しいとは限らない。
記録する人の意図がある。
もっと色んな話が出たんですが、ポイントをしぼると、こんなところかな。
最後に、『雪道』というタイトル。
雪は春が来ればとける。
つらい、悲しい her story ではあるけど、希望もある。
日本でも上映会が開かれる可能性があると聞きました。
機会があれば、ぜひご覧になってください。