『関東の地質的景観』
第9回(最終回)
箱根山
箱根山は、神奈川県足柄下郡箱根町を中心に神奈川県と静岡県にまたがる火山の総称です。
箱根火山はカルデラと中央火口丘、二重の外輪山で構成され、その内側に芦ノ湖を形成しています。現在でも大涌谷などで噴煙や硫黄などの火山活動が見られます。
箱根火山の地形・歴史は、古期外輪山、新期外輪山、中央火口丘の3つに大別されます。
(箱根火山の地形)
箱根山は三重式火山で、新旧二重の外輪山と七つの中央火口丘からなっています。古期外輪山は、塔ノ峰(とうのみね),明星ヶ岳(みょうじょうがたけ),金時山(きんときざん),丸岳,三国(みくに)山,山伏峠、鞍掛(くらかけ)山,大観山(だいかんざん),白銀(はくぎん)山などを連ねる環状の嶺で、内側は急斜面でカルデラ底に臨んでいます。カルデラは南北約12km,東西約8kmです。その内部の、碓氷(うすい)峠,浅間(せんげん)山,鷹巣(たかのす)山,屏風(びょうぶ)山を連ねる半円形の嶺が新期外輪山です。中央火口丘の小塚(こつか)山,台ヶ岳,神(かみ)山,駒ヶ岳,上二子(かみふたご)山,下二子山,丸山の七つが、西側を古期外輪山、東側を新期外輪山で囲まれた新しいカルデラ内にそびえています。
箱根火山は火山地形の博物館とも言われ、なだらかな山体斜面と急なカルデラ壁をつくる外輪山、カルデラの中央部に形成された前期中央火口丘、後期中央火口丘など、多数の成層火山や単成火山、溶岩ドームからなる複合火山であり、それぞれの火山から噴出した溶岩流や火山灰などは、独特の火山地形をつくりだしています。箱根火山の熱源であるマグマだまりは地下5kmにあると考えられています。
(箱根火山の歴史)
箱根火山は、伊豆半島をつくる伊豆地塊の上に約40万年前に誕生した比較的古い陸上火山です。伊豆地塊は、南のフィリピン海プレートの移動にともなって北上し、約100万年前に本州と衝突しました。足柄層群は伊豆地塊北端と本州の間にあった海に堆積した地層です。
成層火山群の形成→多くの爆発的噴火による箱根カルデラの形成(古期外輪山)→前期中央火口丘の火山群形成→爆発的噴火による小型カルデラの形成(新期外輪山)→後期中央火口丘の火山群形成という複雑な歴史をたどりました。
<古期外輪山>
箱根火山の活動は40万年前に始まり、金時山や明星ヶ岳,白銀山,海ノ平,丸岳などのいくつかの成層火山をつくりました。その後も噴火を繰り返し、約18万年前に空洞化した地下に山の中心部が陥没して第一期のカルデラが誕生しました。このとき周りに取り残されたのが、塔ノ峰,明星ヶ岳,明神ヶ岳,丸岳,三国山,大観山,白銀山など1,000m前後の古期外輪山です。
<新期外輪山>
16万年前頃からは、浅間山や屏風山などの新期外輪山と呼ばれる山々を作った活動がはじまりました。5万2000年前、カルデラ内の小型の火山が破壊的な噴火を起こし、大規模な火砕流が発生しました。そして、再び陥没して第二期のカルデラでき、東部から南部に半月形に取り残されたのが浅間山,鷹巣山,屏風山などの新期外輪山ができました。6万年前の最大級の噴火では、西は富士川から東は60kmも離れた横浜市南西部にまで50億㎥の火砕流で覆いました。噴出した箱根新期軽石流は、東京軽石や箱根東京軽石と呼ばれています。
<中央火口丘>
5万年前頃からは、現在の神山を中心とする前期中央火口丘で活動が始まり、約3万年前頃からは小塚山、台ヶ岳、二子山などの溶岩ドームの形成とドームの崩壊による火砕流の発生、駒ヶ岳や神山の溶岩の流下、山体の崩壊が繰り返され、現在の中央火口丘が形作られました。
中央火口丘のうち、箱根火山最高峰の神山(箱根山)は1,438mの成層火山ですが、著しく侵食されて険しい地形をしていて、北東斜面の中腹に大涌谷(おおわくだに)や早雲地獄の硫気孔があります。これに対し、他の山々は溶岩円頂丘(トロイデ)で、原形に近いドーム形をなしています。
最近1万年間の活動は、カルデラ内の後期中央火口丘群に限られています。
大きな噴火は3回ありました。
8000年前に、カルデラ内で再び火山活動が始まり、先・神山が形成されました。
5700年前に、台ヶ岳,箱根駒ヶ岳,上二子山,下二子山などの溶岩ドームができました。このときの火砕流により旧早川がせき止められ、現在の仙石原一帯に仙石原湖と呼ばれるカルデラ湖が誕生しました。
3000年前に、神山の北西斜面で水蒸気爆発によって大きな崩壊が起こりました。その後、新たな溶岩が上昇し、後期中央火口丘の冠ヶ岳となりました。
冠ヶ岳を形成する噴火が起こったのちは、溶岩を噴き出す噴火は起こっていませんが、その後の活動は水蒸気噴火に限られ、2015年には大涌谷で小規模な水蒸気噴火がありました。
3000年前(弥生時代)の大噴火で芦ノ湖・仙石原・大涌谷が誕生した
中央火口丘と古期外輪山の西部との間に火口原湖の芦ノ湖や火口原湖に土砂が堆積した火口原の仙石原(せんごくはら)があります。湖の水は早川となって流れ出し、古期外輪山の脚部を侵食して相模湾に注いでいます。また新期外輪山の南東斜面の水を集める須雲(すくも)川は湯本で早川に合流しています。
3000年前、神山の北西斜面で山体の多くを崩壊させる水蒸気爆発が起こり、これが引き金となって崩壊が発生しました。水蒸気噴火によって引き起こされた大量の土石流が北に流れて、俵石(ひょうせき)付近で早川をせき止めて仙石原湖の半分以上が埋没して仙石原となりました。また早川の上流部(現在の湖尻付近)がせき止められて芦ノ湖が誕生しました。
このときの噴火活動の名残が現在の大涌谷です。大涌谷の噴気や山麓の温泉は、火山の地下からもたらされる熱を源としたもので、箱根火山の恵みといえます。
その後、神山北西斜面の崩壊跡に地下からマグマが上昇し、溶岩ドームができました。これが冠ヶ岳(かんむりがたけ)(1,409m)です。溶岩ドームの形成に伴って、冠ヶ岳火砕流が繰り返し北西斜面を流れ下り、規模の大きいものは長尾峠を越えて静岡県に達しました。
<箱根火山の形成史>(箱根町立箱根ジオミュージアム展示より)
箱根火山ができる前、伊豆は半島ではなく海底火山からできた噴出物の島や浅瀬で、本州との間には海があり、海底に堆積物がたまりました。これらの堆積物が箱根火山の土台になっています。その後、伊豆の島が本州にくっつきました。
40万年前ごろから、箱根火山の活動が始まり、金時山や明神ヶ岳など新しい山がいくつもできました。
23万年~13万年前には、大規模な噴火が繰り返し起こることでカルデラができ、熱い火山ガスと一緒に火山灰や軽石などが一気に流れ出ました(火砕流)。そして周りの残った山々が(古期)外輪山となりました。
13万年~8万年前、カルデラの中で溶岩が流れて屏風山や浅間山などができました。
8万年~4万年前には、爆発的な噴火が繰り返し起こり、6万年前の最大級の噴火では、火砕流(火山ガスとともに火山灰や軽石噴出)が横浜まで達しました。
4万年前以降、カルデラの中に溶岩が流れて駒ケ岳や神山などができました。
3000年前に、神山が崩れて大涌谷と芦ノ湖ができました。芦ノ湖は早川が堰止められた堰止湖(せきとめこ)です。その後、粘り気の強い最後のマグマ噴火があって冠ヶ岳が誕生しました。
箱根火山は40万年におよぶ長い時間をかけてつくられてきたものです。
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『関東の地質的景観』全9回 完
(担当P)
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