●理由なき転職 ◇30歳独身女性◇

 30歳女性独身、大学を卒業して中堅IT企業に入社し、そこそこキャリアを積み、これから働き盛りとなる年齢である。

今の会社に特に不満があるというわけではないが、このままでいいのかと悩んでいるとのこと。

 さらに詳しく聴くと・・・

 ある程度の仕事を任してもられるようになったものの、自分を追い越す後輩もでてきた。自分でないとできない仕事というわけでもなく、会社での自分の存在価値が希薄になってきた感じがする。心機一転、環境を変えて(転職して)みたいと思うようになってきて、他にどんな求人があるのか調べに来所したとのこと。

 

 実は、男女を問わず、30歳前後の方でこの手の相談を、回数は少ないが受けることがあった。

こうなると職業相談というより人生相談になってくる。「理由なき転職」と言ったところか。

 

 人はだれしも、就職して何年か経つと、こういう時期は経験するものである。

通常、転職に迷う場合は「した場合」と「しない場合」のメリット、デメリットを一覧表にまとめ、俯瞰(ふかん)的にそれを見ながら総合的に判断をするのであるが、明確な理由があるわけではないので、論理的には理解できても感情的には納得感が得られないことが多く、迷ってしまう。

 

●恋愛してますか?

 こういう時、私の場合は、よくサラリと「今、恋愛はしていますか?」と聞くようにしていた。

 ハロワの職員が個人の恋愛事情を聴くことは、通常ご法度なのだが、明確な回答を求めているのではなく、気づきを与えるためにするので、スルーされてもいいし、私のような歳の離れた人畜無害おじさん」には意外とあっさり答えてくれることもあったし、「自分の親と同じことを言うわ」と苦笑いされたこともあった。

 

<ここからは、既婚者やすでに恋愛中の方、独身主義者で恋愛に全く関心のない方は、参考にならないので無視して下さい>

 

 

 「恋愛と仕事は別だ」という考え方があるが、私は車の両輪のようなものであると感じている。

 恋愛をすると、精神的な拠り所も生まれ、多面的な考え方・視点が得られ、仕事に関する価値観が少し変わってくることが多い。結果的に、転職せずにそのまま頑張れる活力になる場合がある。

 もし転職する場合でも、恋愛相手がその決断の背中を押してくれたりする。それを機に関係が深まることもある。どんな結果になろうと納得感が得やすい。

 

(お叱り覚悟で申し上げると)

 30歳~40歳前後の独身で(男女とも)、恋愛をしていない方で、「理由なき転職」に悩んだら、まずその前に恋活・婚活をしてみる。それから、転職するかどうか決めることお勧めしたい。

 一度、生活の軸足を「仕事」から「恋愛」にシフトしてみるのである。

 

 今のご時世、マッチングアプリや有料の結婚相談所などで相手を見つけるのに苦労はいらない。

 これですべて解決するわけではないが、一案として参考にしてもらえれば幸いである。

 時々、相談窓口で、仕事がなかなか決まらない相談者から、

「あんたらはいいよな~、会社がつぶれることもないし、ボーナスもあるし、がっぽり退職金ももらえるんやろ?」と妬みを言われることがあった。

 

● 大いなる誤解

 大声で否定したいところではあるが、言っても仕方がないので、「はあ、はあ」と言ってスルーするのがせいぜいである。

 

 

 ご存じの方も多いが、ハローワークの相談窓口で働く職員のうち、国家公務員試験に合格した、いわゆる正職員は全体の3~4割程度で、残りは時給で働く非正規職員(会計年度任用職員)である。

 非正規職員は、採用になっても、1年ごとの再任用面接試験があり、その時、面接官の心象を悪くすると更新してもらえない。さらに3年ごとには公募として、新規の応募者と横並びで応募し、一から書類選考、面接選考を受けなければならない。

 

 また、国の予算が通らないと、再任用の求人自体もなくなる可能性もある。そういう意味では一般的な派遣社員や契約社員と立場上は変わらない、時給で働く不安定な非正規雇用である。

 窓口で偉そうなことを言っている相談員も、契約が終了すれば一求職者として相談窓口に出向くことになるのである。

 

●いろいろ制約があります

 一方、立場上はみなし国家公務員なので、非正規雇用にもかかわらず、業務上での制約は当然として、私生活でもいろいろ制約をうける。

 

 例えば、プライベートで海外旅行に行く時は、防衛省や外務省の上級職でもないのに、事前に届け出しなければならない。また、コロナ禍の頃、PCR検査は勝手に受けてはいけなかった。帰省する時に、別に症状はなくて念のため受ける前にも事前に申告しなければならないのである。

 このほか、コロナ禍中の飲み会は厳しく抑制されたし、町で輩(やから)に言いがかりをつけられても喧嘩はするな、交通ルールは守れ など夏休み前の中学校のような通達が回ってくる。

 

● 忍耐も必要

 また、匿名の電話で(よほど暇な人だろうとは思うが)

・職員が(昼休み中)コンビニの前で、買い物せずに喫煙コーナーでタバコを吸っていた。

・道路を横断する際、交差点から少し離れた信号のないところを横断していた。

 など、いったい何が悪いのかよくわからない行動を通報されることもある。

 

 みなしとはいえ公務員だから当然という考え方もあるが、思い通りにならない社会に対する不満をこうして公務員にぶつけることで、自分のストレスを緩和しようとする人達からの理不尽な要求にも耐えないといけない、つらい立場であることは理解してほしい。

 

文中≪≫は面談中の私の「心」の声です。

 

●「就職」ではなく「就職活動」が目的?

◇30歳~50歳代 男性◇

 普通、ハローワークに通う人は、仕事が見つかるか、基本手当(第28参照の受給が終わるかで、3か月から半年くらいのスパンで、概ね入れ替わるのが特徴である。

 

 ところが、30歳~40歳代で、ハローワークに5年以上の長期にわたってルーチンワークのように通い続ける人が何人かいる。

 

●ルーチンパターン1

 毎週1回 朝の開所と同時に来所して、まず、自己検索機で求人を探し出し、その後、求人票を相談窓口に持参するのだが、窓口で第一声が いつも

 「どうせこの求人に応募しても、採用されないことはわかってる。」と言う人。

 ≪そしたら、なんでこの求人票を窓口に持ってくるの!≫ 

 その後も「この会社は・・・ この仕事は・・・ 」と評論ばかりして、応募もせずに、社会や企業への愚痴と不満をネチネチと話して帰るのである。

 窓口担当者も「いつものおじさん」ということで、「そうですか、そうですか」とうなづくだけで、いつも30分ほどで話して終わるので、それを待って帰っていただいていた。

 

●ルーチンパターン2

 毎週金曜日15:00頃に来所して、自選した求人を数件持参し、紹介状の発行を受け、応募するのだが、ズーーと不採用が続きここ数年一度も採用にならない人。

 不採用が続くと、なにか対策を講じるものだが、特に誰とも相談することもなく、淡々と応募し続けるのである。こちらも何も相談されないので、事務的に紹介状を発行するだけになっている。

 

 いずれも 規則正しく週1回来所し、自己検索機で検索し、窓口で相談するというルーチンワークで就職活動し、規則正しい生活を送っているみたいなので健康維持にはいいかもしれないが・・・。

 

 この人たちの共通点は、仕事が見つからなくても、不採用が続いても、別に困らないみたいな感じで、いずれもまったく悲壮感が感じられない。それどころか余裕すら感じるのである。

 

いったい、この人たちはどんな「業」で生計を立てているのか?

 

 資産家の親がいるのか? 遺産相続でもしたのか? 霞だけを食べて暮らしてるのか?・・・

本人にも聞けないので、相談員の中でも「永遠の謎」とされていた。

 

 いずれにせよ、働かなくても生活ができるのだから、ある意味うらやましい限りである。

 29歳女性、会社を辞めて、基本手当(第28話参照)を受給する場合、ハローワークに求職の申込をしてから1週間の待期期間を経て、会社都合退職の場合は翌日から受給できるが、自己都合退職の場合は通常2か月(状況によっては3か月)の給付制限期間が設定される。

(令和7年4月より1か月に短縮されています)

 少しでも早くもらいたい場合は、退職理由が会社都合か自己都合かは大きな問題である。

 

 

●自己都合にこだわる理由

 販売員をしていたが、業績不振で店舗を閉鎖することになり、別の店舗に移るか、辞めるかどっちか決めてくれと言われた。

 別の店といっても、通勤が2時間かかる距離で負担が大きいので辞めますというと、「じゃ、辞表を書いてくれ」と言われたので、言われるままに『一身上の都合で退職します』という定型文の辞表を渡され、そのまま転記して日付と名前を記入して渡してしまった。

あとで離職票を確認すると、自己都合退職になっていた。

 

 納得がいかなかったので、受給手続きの窓口に相談にいったら、一身上の都合で退職と辞表を書いてしまうと覆すのは難しいといわれたとのこと。

 

 会社がなぜ自己都合退職にこだわるのかというと、簡単にいうと国からの助成金が受給できなくなる可能性があるからである。

 あまり知られていないが、コロナ禍で有名になった雇用調整助成金以外にも、特定求職者雇用開発助成金(シングルマザー・生活困窮者・60歳以上の高年齢者等を雇用すればもらえる)、キャリアアップ助成金など、雇用や人材育成に向けて努力した会社は、申請すれば国からいろいろな助成金がおりるのだが、その条件の一つに「3年以内に事業主の都合で離職者を出していないこと」というのがある。それに抵触する危険性があるので、できるだけ会社都合による離職者は出したくないのである。

 

 一般に退職した場合は、理由に応じて、一般の受給資格者(自己都合)、特定受給資格者(会社都合)、特定理由離職者(会社都合と自己都合の中間)に分かれる。給付制限期間が設定されるのは一般の受給資格者のみである。 

 具体的な違いは別途ネットで確認してほしいが、今回の場合は、特定受給資格者になる可能性が高く、本来は給付制限期間は設定されないはずである。

 

●辞表は書くな!

 今回の場合、辞表を書くときは「店舗閉鎖に伴い他店舗の異動を命じられましたが、通勤不能のため退職します」と退職理由を具体的に書いて提出し、コピーをとってハロワの給付窓口に提示すれば、もめることはなかったと思われる。

 

 退職の際、本当に自己都合の場合を除き、やむをえない理由の場合は、会社とよく話し合い、安易に「一身上の都合で退職します」という辞表は書かないことだけは会社側に伝えることが大事である。

 

  例えば、「家族の介護のため」「体力が衰えたため」「うつ病になったため」「時間外勤務が3か月続けて45時間を超えたため」「パワハラを受けたため」とか具体的に退職理由を辞表に書いてコピーをとっておくことをお勧めする。

 もちろん、時間外の場合は勤務票(勤怠記録)のコピー、パワハラなどを理由にするときは、必ずそのエビデンス(録音やパワハラ受けた日付や状況のメモ等)を確保しておく必要があるが・・・。

 

 会社がどういう対応をするか不透明だが、会社が退職理由を認めない場合は、辞表を書かないことが一番いいのだが、どうしても辞表を書かないと退職を認めてもらえそうにないと思ったら、遠慮せずハローワークに相談すればよい。

 もし、どうしても離職票を発行してくれなかったら、ハローワークから会社に電話してもらえれば、法律で決まっていることなので、さすがに会社も拒否できないはずである。

 ただ、いろいろ会社やハローワークと交渉しなければならず、粘り強く交渉する覚悟はしておく必要がある。

 第22話、第26話で 法律を知らない・守らない経営者たち をテーマに事業所側の問題点をとりあげたが、求職する側にも、マナーを守らない応募者がいる。

 

●甘受してほしい採用リスク

 紹介状を発行した手前、事業所から「何という人を紹介してくれるの!」と厳しい口調でクレームを受けることがあった。

 ハローワークとしては、応募希望者には、事業所の了解が得られれば紹介状を発行しなければならない。応募する人物を保証するものではないのでどうしようもないのだが、事業所の気持ちはよく理解できる。事業所もハローワークに言っても無駄だとはわかっているのだが、一言、言いたいのだと思う。そういう場合には、採用活動における「許容リスク」として甘受してほしいと丁重にお願いしていた。

 多い苦情としては・・・

・指定した時刻に面接にこない。電話しても通じない。時間を空けて待っていたのに無駄になった。

・13:00の面接に、12:15に来た。(相手の都合考えない)

・正社員の面接に、ジーパンとTシャツで来た。(自分の会社を軽く見られている)

・履歴書の写真がどうみても5年以上前の写真にしか見えなかった。(すぐ手抜きしそう)

・内定を出し、明日から勤務というときに辞退するとの連絡がはいった。

・採用して3日で突然出社しなくなった。理由不明、本人に電話をしても通じない。

・採用する際に、現場も見せ、体力的にきついけど本当に大丈夫かと何度も確認して「大丈夫、できる」といったのに、1日で根をあげて辞めた。(特に高年齢者が多い)

                          などなど

●いい迷惑

 採用前にわかればまだましだが、一旦内定を出し、受け入れ準備を整えて、制服等も用意したのに突然辞退されたり、社会保険の加入手続きもしたのに、入社してすぐに無断欠勤し、そのまま短期間で辞められたらいい迷惑である。

 採用する側の「人をみる目」がなかったと言ってしまえばそれまでであるが・・・。

 

 事業所からの連絡があれば記録に残し、その後、もし本人がハローワークに来所したときに、理由を聞いたり、それとなく注意したりはしているが、ほとんどの人はそのままスルーするか、言い訳がましい理由を言って、あまり罪悪感を感じる風の人は少ない。

 

 こういうビジネスマナーやルール守れない人はごく少数だが一定の割合で存在する。社会活動に対する適応能力が著しく低い人か、かくれ精神障がい者の可能性がある。おそらくこのままでは就職は難しい人たちということになるのだろうが、どうしようもないのが実情である。

 求職者にも 良識ある行動が求められている。

● 声優になりたい! ◇23歳男性◇

(今回の話は、ハローワークの相談窓口での話ではなく、これ以前にIT企業の人事部で勤務していた頃の話です。ちょうど、キャリアコンサルタント技能士の資格取得にむけ学校に通っていました。

 

 当時の職業柄、人材派遣会社の営業からよくセールスの訪問をうけた。

 そんな中、20歳代前半の若い営業マンが売り込みにきた。一通りの人材サービスのセールストークを聞き、商談は終わったのだが、ちょうどキャリアコンサルタント技能士の資格を目指していたので、本人には申し訳ないが、キャリアコンサルティングの練習台になってもらおうと、いろいろ話かけてみた。

 

 どうしてこの仕事を選んだのか? 今の仕事に満足しているか? これからのキャリアアップや目標はなにかあるのか?など、いろいろ聞いていくうちに「実は・・・」と話し始めてくれたのである。

 本当は声優になりたかったのだが、親に猛反対され、大学を卒業して今の仕事に就いた。自分自身も、声優で食べていけるのはごくひと握りで、ほとんどの人が「夢」破れてほかの道に転職していることもよく知っているので、親の言うことも もっともだと思いあきらめたとのこと。

 

 そこで、私から

「なるほど、今の仕事にやりがいを感じてきたのならこのまま続けてもいいし・・・。でも、よく言うじゃない、なにもやらないまま後悔するよりも、やって失敗して後悔するほうがいいって。若いからやり直しはきくし、自分の選んだ道なので、後悔のないようにだけはしておいた方がいいよ。

 ただ、どこかの社長が言っていたけど、夢にも期限を設けることも大切だけれどね。」 というようなことを話してその場は別れた。

 

 その後2週間くらいして、同じ会社の別の担当者から連絡があり、担当替えのあいさつに来たいとのこと。

私 「前任の○○さんはどうされたんですか?」

後任担当者「実は、先日退職しました。」

私 「えっ、なにかあったんですか?」

後任担当者「それがよくわからないです。いきなり辞めたいと言い出しまして・・・。理由も言わないものですから。まだ入社して3ケ月しか経っていなかったので、こちらも戸惑っているんです。」

私 「あっ・・・ そうですか・・・」 そ知らぬ顔で 「どうしたんでしょうね・・・」

 

 もちろん本当の理由はわからないのだが、本人とそんな話があったということは口が裂けても言えない。ただ、別れ際の本人のスッキリした顔を思い出すと、かなり影響を与えたような気がする。

 キャリコンの練習台にして余計な事を言ってしまい、本当にこれでよかったのかなと半分申し訳ない気持ちになってしまった。(その後、おかげさまで資格は無事取得できました。)

 

 今となっては なつかしい思い出である。彼は今頃どうしているのだろうか・・・・

 

 

 

 

 

●スタンプラリー状態

 ハローワークの職業相談窓口には、生活保護受給者が頻繁に来られる。生活保護費を受給する際、就労可能と判断された場合(概ね健康で70歳未満)は、求職活動をして就労意欲があることを示さないといけないという条件がある。

 通常は自己検索機(パソコンコーナー)で求人を検索し、応募したい求人があればそのまま応募し、なければ窓口で就職活動をした証として、職業相談票に「日付印」と「職業相談印」と、応募した場合は応募先の企業名、応募しない場合は「希望求人なし」印を押してもらうのである。(一種のスタンプラリー状態となる)

 

●就労意欲はあります?

 ただ正直なところ、就労意欲の高い人はごく少数であり、ほとんどの人は求職活動のしたふり」をして「希望求人なし」の捺印をもらって帰るのが現実である。

 

 

 そんな中、私は就労意欲がありますとアピールしてくるおじさんがいる。毎回自分で検索した求人票を数枚持参し、「この求人は・・・という理由で応募できません」と一つ一つ応募しない理由、あるいは、応募できない理由を丁寧に説明してくれるのである。

 

 ただ、確認すると、この数年間一度も応募をしたことがない。初めから応募する意思はないと推察されるが、一応、話は黙って聞くようにしていた。そして最後に「捺印をお願いします」と言って帰っていくのである。ほかの受給者に比べたら丁寧に活動するのだが、やはり、働けるのなら積極的に応募をしてほしいところである。

 

●染みつくともう手遅れ

 こうした経験から、職業相談員をやってきて、身に染みついた言葉がある。(生活保護受給者を「馬」に例えるのは失礼だが)

「人は、馬を水飲み場に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない。」

 

 生活保護の生活は、染みつく前に支援の手を差し伸べなければならない。地元の地方自治体の生活支援窓口とハローワークなどが連携して支援しており、それで脱却した人もおられるが、既に生活保護の生活が染みついてしまった場合、就労可能であっても、このまま社会との関係を避け、倹約生活で人生を終えたい人がほとんどとなる。そうなると、いくら仕事を紹介しても本人に働く気がないのでどうしようもない。

 

 120兆円を超えた社会保障費や200万人を超えた生活保護受給者が、これからの高齢化社会を迎え、どう推移するのか不安になってくる。

 

 

 

 

 

 

 30歳代と思(おぼ)しき男女が来窓。てっきり夫婦かと思ったら兄・妹であった。

兄の方が相談者で妹は付き添いで同席。(兄思いの妹さんらしく本人より心配そうな表情)

 2年ほど前まで、販売系で店長まで勤めたが、仕事上のストレスでメンタルになり退職。その後、治療中も半分引きこもり状態で、ここへきてようやく医者からも少しずつ働いてみたらといわれ、本人も少しずつだが働いてみようという前向きな気持ちがわいてきたので来所したとのこと。

 ただ、2年も休んでいた者を雇ってくれる会社があるのか不安な様子で相談を受けた。

 

●メンタル離職者は生真面目が多い

 メンタルで退職したが、症状の改善がみられたので、ぼちぼち仕事を探していきたいという人が、頻繁ではないが、たまに相談に来られる。

 話をしていると、几帳面、誠実、やや気が弱く、責任感が強い(強すぎる?)、他人から言われたことを全身全霊で受け止めてしまう などの特徴が読み取れるが、こういう人は、働けるようになったら真面目に勤務してくれる期待感は強い。

 

 

●リハビリ勤務から始めよ

 こうした相談をうけた場合は、ありきたりだが下記のようなアドバイスをしていた。

・いきなり「フルスロットル勤務」は避ける。「リハビリ勤務」として、できればパートからスタートする。あせらず体調を診ながら時間や勤務日数を決める。

・できるだけ通勤に負担のかからない就業場所の求人を選ぶ(できれば30分程度、最大でも45分くらいまで。自転車か自家用車、電車・バスなら乗り換えなしで行けるところ)

 

 雇う側も、パートなら選考のハードルが下がり、様子見で採用しやすい。交通費がでる事業所なら近隣の方が安くつくので有利になる。職種に過度にこだわらず、社会復帰を第一に考え、上記条件を優先しながら探すことを勧めていた。

 

 また、どうしても人間関係に不安なら、黙々と作業する製造系か配送仕分け、一人でする清掃の仕事、パソコンが得意ならデータ入力系等の仕事など探せばいろいろある。窓口で相談員とよく相談しながら探してほしい。

 

●面接は堂々と!

 ただ、応募先がきまっても、次に大変なのは面接対策である。

 メンタルで離職していた場合、短期間の場合は、じっくり仕事をさがしていましたくらいのことを言ってお茶を濁すことができるが、長期間の場合は、ブランクが長すぎるので、面接の時に必ずその理由を聞かれる。この場合は、隠してもばれるので、正直に言った方がよい。

 ただし、その場合、必ず、

・医者から、もう働いてもよいとの診断を受けている。

・「自分もこのままではいけないと感じている。少しずつだが社会復帰して、ルールを守って真面目に働き、御社に貢献したい。」などと控えめだが落ち着いて、明確に復帰したいという決意を述べることが大事である。

 ここで、長い間休んでいたことに後ろめたさを感じて、オドオドするとかえって印象が悪くなる。堂々と話すようにしてほしい。

 

 面談の最後に 妹さんから「『リハビリ勤務』というアドバイスをいただき、そんな考え方で働けばいいのか、目からうろこでした。なにかホッとしました。」という言葉をいただいた。

 

 応募しても、すんなりと採用してもらえないかもしれないが、粘り強く継続して応募していくと、必ずどこかから声がかかる。(メンタルな人にあえて言うが)

「頑張ってほしい」

 

 

 

 

 

●なんでもするで・・・ ◇60代後半 男性◇

 ハローワークで仕事を探す場合、本来は自分のスマホや自宅のパソコン、ハローワーク内の自己検索機(パソコン)で、求人を自分で検索するか、パソコンが苦手な人は業種別や年齢別の求人票が冊子として置いてあるので、それを見て自分で何件か探し出し、求人票を窓口にもってきて、いろいろ相談するのであるが、いきなり手ぶらで窓口にきて「なんかないか?」といって、まったく自分で探す意思のない高年齢の相談者がいる。

 ちなみにこういう人を個人的に「なんかないかおじさん」と呼んでいた。(月に1,2人出没します)

 やりたい職種をきくと、一応なんでもするというが、具体的に、警備や交通誘導、清掃の仕事を情報提供すると「これは、ようやらん」といって選り好みをするのが大きな特徴である。

 

●なんかないかおじさん 3タイプ

「なんかないかおじさん」には、探し方がわからないだけで就労意欲の高い人もいたが、本気で働きたいのかよくわからない、いろいろなタイプがいた。

 

<居眠り型>

 なんとか、できそうな軽作業の求人を見つけ出し、「これどうですか?」といって求人票を見せると、しばらく何も言わずじっと1枚の求人票をじっとながめている。
 そのうちいつのまにか相談席で居眠りを始めるのである。疲れているみたいなので5分くらいそのまま寝かしてあげてから、大き目の声で「どうですか」と尋ねると、うっすら目を明けて、「家に帰って検討するわ」といってそのまま帰るおじさん。

 

<飲酒型>

 昼間から酒の匂いをプンプンさせながら、「仕事を探してくれ」と言われ、「いいご機嫌ですね」と暗に『酒を飲んで来ていますね』と注意したかったのだが、真意が伝わらず、「いつも元気やで」と笑顔で返事してくるおじさん。

 

<認知症型>

 紹介しようとする仕事内容の説明をしても、何度も同じことを聞いてきたり、就業場所の地図を印刷しても東西南北もわからず、仕事の内容と就業場所の説明だけで1時間以上要するおじさん。

 

●お手上げです

 本気で就職する気があるのか? というより、そもそも就労に耐えられるのか? 相談員としてもお手上げといった感じである。

 

 キャリアコンサルタントの資格をとり、就職に困っている人たちを応援したいという熱意と使命感でこの仕事を選んだのだが、時々こうした現実に遭遇し、心が折れそうになることがあった。

 

 なお、こういう方は、幸い一定期間来所するが、そのうち来なくなる。自分は、就職は難しいとなんとなく自覚するのかもしれない。ただ、絶滅(?)することはない。

 

 

 

 

 

 

●相談員にもあたりはずれがある ◇28歳 男性◇

 損保会社の営業職に応募したいので、履歴書と職務経歴書を見てほしいと来窓。

 ひととおりのチェックをし、表現方法の訂正を数ケ所指摘、他に面接時の想定質問に対する受け答えについてもいろいろアドバイスをした。

 

 

 帰り際に、本人からは丁重に感謝してもらい、一言

「ハローワークの相談員の方にも、あたりはずれがありますよね。」

 

 こう言ってもらえるということは、幸い、私は「あたり」の分類に入るのだろうと思われる。

 

 私の場合、たまたま民間企業の人事部で採用業務を経験していたことから、面接官がどういうところをみるか、どう言えば面接官に響くか、特に営業職の場合のアピールポイントを丁寧に説明・助言できたから、好印象をもってもらえたのだと思う。

 

 確かに相談員の中には、どんな人が相談に来るかわからないので、根はやさしくて親切な人も、自分の感情を抑えて事務的に対応する習慣がついて、話し方に冷淡な印象を感じさせる人がいる。

 

 また、まだ経験が浅く、「引き出し」も少ない場合は、有効なアドバイスができず定型的な手続きで終わってしまう相談員もいるが、ある程度経験を積めばもう少し踏み込んだ支援ができるようになってくる。

 さらに、相談員によっては得意分野・不得意分野があり、すべての職種、業界、年齢層に的確にアドバイスできる相談員はいない。

 私も、介護や保育系の応募の相談だと、実務経験がないので的確なアドバイスができず「はずれ」に分類されたかもしれない。

 

 相談員も人間である。温かい目でお付き合いいただけるとありがたい。

 

 なお、ハローワークでは、すべてではないが担当者制を導入している所があるので、純粋に仕事をさがしたく、この相談員ならウマが合うと思ったら、試しに申し出てみてほしい。

 

  ただ、この担当者制は、第2話)で書かせてもらったような不届きな相談者もいるので、あまり積極的に案内していない所もある。個々のハローワークの窓口で確認してほしい。