29歳女性、会社を辞めて、基本手当(第28話参照)を受給する場合、ハローワークに求職の申込をしてから1週間の待期期間を経て、会社都合退職の場合は翌日から受給できるが、自己都合退職の場合は通常2か月(状況によっては3か月)の給付制限期間が設定される。

 少しでも早くもらいたい場合は、退職理由が会社都合か自己都合かは大きな問題である。

 

 

●自己都合にこだわる理由

 販売員をしていたが、業績不振で店舗を閉鎖することになり、別の店舗に移るか、辞めるかどっちか決めてくれと言われた。

 別の店といっても、通勤が2時間かかる距離で負担が大きいので辞めますというと、「じゃ、辞表を書いてくれ」と言われたので、言われるままに『一身上の都合で退職します』という定型文の辞表を渡され、そのまま転記して日付と名前を記入して渡してしまった。

あとで離職票を確認すると、自己都合退職になっていた。

 

 納得がいかなかったので、受給手続きの窓口に相談にいったら、一身上の都合で退職と辞表を書いてしまうと覆すのは難しいといわれたとのこと。

 

 会社がなぜ自己都合退職にこだわるのかというと、簡単にいうと国からの助成金が受給できなくなる可能性があるからである。

 あまり知られていないが、コロナ禍で有名になった雇用調整助成金以外にも、特定求職者雇用開発助成金(シングルマザー・生活困窮者・60歳以上の高年齢者等を雇用すればもらえる)、キャリアアップ助成金など、雇用や人材育成に向けて努力した会社は、申請すれば国からいろいろな助成金がおりるのだが、その条件の一つに「3年以内に事業主の都合で離職者を出していないこと」というのがある。それに抵触する危険性があるので、できるだけ会社都合による離職者は出したくないのである。

 

 一般に退職した場合は、理由に応じて、一般の受給資格者(自己都合)、特定受給資格者(会社都合)、特定理由離職者(会社都合と自己都合の中間)に分かれる。給付制限期間が設定されるのは一般の受給資格者のみである。 

 具体的な違いは別途ネットで確認してほしいが、今回の場合は、特定受給資格者になる可能性が高く、本来は給付制限期間は設定されないはずである。

 

●辞表は書くな!

 今回の場合、辞表を書くときは「店舗閉鎖に伴い他店舗の異動を命じられましたが、通勤不能のため退職します」と退職理由を具体的に書いて提出し、コピーをとってハロワの窓口に提示すれば、もめることはなかったと思われる。

 また、この決定権はハローワークにあるので、うっかり一身上の都合と書かれた辞表を提出してしまったとしても、窓口で退職した理由を丁寧に説明すれば、退職理由は変更になったかもしれない。

 

 退職の際、本当に自己都合の場合を除き、やむをえない理由の場合は、会社とよく話し合い、安易に「一身上の都合で退職します」という辞表は書かないことだけは会社側に伝えることが大事である。

 

  例えば、「家族の介護のため」「体力が衰えたため」「うつ病になったため」「時間外勤務が3か月続けて45時間を超えたため」「パワハラを受けたため」とか具体的に退職理由を辞表に書いてコピーをとっておくことをお勧めする。

 もちろん、時間外の場合は勤務票(勤怠記録)のコピー、パワハラなどを理由にするときは、必ずそのエビデンス(録音やパワハラ受けた日付や状況のメモ等)を確保しておく必要があるが・・・。

 

 会社がどういう対応をするか不透明だが、会社が退職理由を認めない場合は、辞表をかかないことが一番いいのだが、どうしても辞表を書かないと退職を認めてもらえそうにないと思ったら、遠慮せずハローワークにエビデンスを提示して相談すればよい。もし、どうしても離職票を発行してくれなかったら、ハローワークから会社に電話してもらえればよい。法律で決まっていることなので、さすがに会社も拒否できないはずである。

 ただ、いろいろ会社やハローワークと交渉しなければならず、粘り強く交渉する覚悟はしておく必要がある。