あたしのデザインした商品が、マルキューのなかにあるセレクトショップに置かれたのだ。
社長は改めて打ち上げを開いてくれた。帰り道、あたしはパターンナー君に呼びとめられる。
「ちょっと時間ある?」
ふたりで飲むのは初めて。
行きつけだという雰囲気のいいショットバーで彼はいう。
「会社に入ってきたときから同じ匂いの人じゃないかと思ってた」
「えっ・・・」
「企画がなかなか通らないのはね、ここだけの話だけど、社長が君の才能に嫉妬してるからだと思う」
思いもしない言葉だった。
「いきなりこんなこと聞くのも失礼かもしれないけど、これまでの会社ではどういう仕事してたの?」
「ひとつ前の会社は、大好きでその会社のためのファイルまで作って入ったんだけど震災でクビになっちゃって・・・今思うと、それだけが原因じゃなくて、しっくりきてなかったと思う」
初めてさしで話すのに、なぜか本音を話していた。
「そうなんだ・・・本当はね、君のデザイン、大好きなんだよね」
「えっ・・・」
「君は企業デザイナーにはもったいない人だと思う。うちに入社するとき、コレクションに出れる人になりたいと言ってたって社長から聞いたけど・・・
僕と一緒にコレクションを目指してみない?」
いきなりだった。
そう言われてみれば、みんなで夜ミーティングしたとき彼は言った。
「コレクションの作品としてはいいけど、普段着る服としてはね・・・」
あの言葉に、そんな意味があったなんて。
ただ感じ悪くけなされたと思ってた。
あたしには夢があるんだもの。
いつもの言葉を思い出していた。
何度もあきらめたけど
気休めでしかないと思った日もあるけど
先なんて見えないけど
あたしには夢があるんだもの。
思い続けてよかった。
そしてあたしは
うん、僕にも夢があるよ。
そう言ってくれる誰かをずっと待ち続けていたような気がする。
会社ではいつもと変わらないけど、毎日終電という環境のなかで、活動を開始した。
休みの日には貸会議室を借りて、あたしがデザインをして、彼がパターンを引く。
「ねえねえ、もしコレクションに出れたら、その時、今までのこと残しとけばよかったとか思わないかなぁ?」
「そうだなーでもブログとか書く時間ないよね」
「ツイッターアカウントとっちゃわない?つぶやくだけでいいし、iphoneから画像アップしたりして」
社長や事務の女の子には内緒でツイッターアカウントをとった。
まだブランド名は決まってないけど、いつも会社が終わる午後11時が活動時間だからafter11pmと適当にアカウント名を付けた。
不思議なもので彼と密かに作品作りを始めてから会社でも企画が通るようになった。
この道は確実にコレクションに続いている、そう思えた。
だけど、ひとつだけ問題があった。
安月給のアパレル業界、ふたりでお金を出し合っても毎週会議室を借りるのはきつかった。
「嫌じゃなかったら俺のうちに来る?」
あたしがデザインを持ちより、彼がその場でパターンを引く。
「あ、これ・・・」
指差した手が彼の手にぶつかる。
恥ずかしくて引っ込めようとしたその手を、力強く引っ張られた。
(つづく)
あゆみです
「夢をかなえる」
明日は22時にお届けしたいと思います。
最初から読みたい人はこちらを見てね。
夢をかなえる『プロローグ』
夢をかなえる『失業』
夢をかなえる『全滅』
夢をかなえる『希望』
夢をかなえる『満開』
夢をかなえる『決意』
夢をかなえる『暴力』
夢をかなえる『終電』
夢をかなえる『復興』
夢をかなえる『過去』
夢をかなえる『動揺』
夢をかなえる『沈黙』
夢をかなえる『変化』
夢をかなえる『熱意』
読んでくれてありがとう、またね