「ごめん!ブランド閉めることになったんだ・・・」
チーフは深々と頭を下げる。
「あなたとは、1年くらい時間をかけて一緒にブランド作っていきたかった。でも状況が状況だから、うちも既存のブランド一つに絞ることになっちゃって・・・」
節電で明かりを落とした渋谷の街のように、東京と言う街に暗い影が落ちていた。
そして・・・
入社して2カ月、あたしは失業してしまった。
そう、あたしが担当しているブランドの工場は仙台にあり、震災で生産ラインが止まってしまったそうだ。
会社では、チーフと、3人くらいのスタッフを残し、全員解雇されることになった。
なかでも新しいブランド担当として雇用されたあたしは、生産ラインが止まって復旧のめどが立たない状況では、首になるしかなかった。
それでもチーフは何件かメーカーに電話をしてくれた。あたしが「御社以外で好きなブランドは・・・」と話したことを覚えていて、横のつながりでそのメーカーに売り込んでくれたという。
「今回とった新卒でも内定取り消しになってたりするそうだから、期待できるかわからないけど、ダメもとでいって見て」
「チーフは・・・だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶ。あたしは阪神大震災の年に社長と一緒に起業して、そのときを乗り越えてるから。東京に進出してこっちでまた震災のあおりを食うなんて笑うしかないけど、何とかするわ。あなたは未来があるのだからがんばって!わたしが見込んだのだからどこのブランドにいってもやっていけるから」
チーフ、あたしをそんなに買いかぶらないでください。
今欲しいのはそんな気休めじゃない!
追いすがりたかった。
自分の首を切った相手のことを心配できるほどあたしは人間出来てない。
何かここでいえば残れたはしないのだろうかと思ったのだ。
一瞬、給料はいりませんから勤めさせてくださいと言ったらどうなるだろうかと思った。
もちろんずっと給料がなかったら困るけど、例えば後3ヶ月くらいたてば持ち直すなら貯金を食いつぶしながらでも何とかなる。そうするうちに生産ラインが回復するという可能性はないのだろうか?
プライベートだけじゃない・・・仕事でもひとりぼっちになってしまった・・・。
その日はさすがに何をする気にもなれなかった。久しぶりに外食した。店はガラガラで、店員さんがケータイで誰かと話していた。
「そうっすよー、ほんっと人こないです・・・これいつまで続くんですかねー」
それでも、食べていかなきゃならない。
明日はチーフが教えてくれた会社に電話しようと思った。
そう。
あたしには夢があるのだもの。
夢・・・
久しく封印していたその言葉をあたしはふと思い出した。
あれから、冷たいおにぎりばかり食べていた。
久しぶりに温かいものを食べてすこし元気がわいてきたのかもしれない。
そうよ、もしかしたら、今度の会社に彼氏候補がいるかもしれないじゃない!
この間読んだ本に、運命のパートナーに出会う前には身を引き裂かれるほど悲しいことがあると書いてあった。
あたしは思わずケータイで、チーフに教えてもらった会社に電話をしていた。
今日中に行動を起こさないと動けない気がしたのだ。
「お電話ありがとうございます」
電話が思いがけずつながり、心の準備が出来ていないあたしはしどろもどろになった。
(つづく)
あゆみです
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ありがとう!
夢をかなえる。
明日も22時に会いましょう。
読んでくれてありがとう、またね
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