アンタゴニスト法 vs. PPOS法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、アンタゴニスト法とPPOS法の培養成績や妊娠成績を比較したものです。

 

F&S Sci 2024; 5: 43(ブラジル)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfss.2023.12.001

要約:2019〜2021年に実施した236周期2,768個の顕微授精による胚を対象に、PPOS群118周期1,360個とアンタゴニスト群118周期1,408個の培養成績と妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

          PPOS群   アンタゴニスト群  P値

前核出現までの時間 7.0時間  >   6.2時間    0.008

2細胞までの時間  27.2時間  >  26.2時間    0.045 

7細胞までの時間  56.4時間  >  54.7時間    0.046

胚盤胞までの時間 101.5時間  >  98.9時間    0.012

キャンセル率    15.2%  >   2.5%     0.005

着床率       64.6%  >  44.4%     0.002

妊娠率       54.2%     47.4%      NS

流産率       3.1%       8.3%     NS

治療費      11.05USD < 318.18USD     〜

NS=有意差なし

 

解説:近年、PPOS法(黄体フィードバック法)が広く行われるようになりました。アンタゴニスト法との比較で、培養成績と妊娠成績に違いはないとする報告が多いですが、優劣を示した報告も散見されます。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、アンタゴニストと比べPPOSで、前核出現までの時間、2細胞までの時間、7細胞までの時間、胚盤胞までの時間が有意に遅いこと、キャンセル率と着床率が有意に高いことを示していますが、妊娠率と流産率には有意差を認めていません。PPOS群は、何よりも費用が安上がりであることが最大のメリットです。ただし、新鮮胚移植はできず、全胚凍結する必要があります。

 

下記の記事を参照してください。

2024.2.9「☆卵胞期 vs. 黄体期スタート:ランダム化試験

2023.2.21「☆癌患者さんにおけるランダムスタート法と通常法の違い

2023.1.7「☆黄体期開始と卵胞期開始で正常胚率は同じ

2022.11.7「黄体フィードバック(PPOS)法 vs. アンタゴニスト法:妊娠成績

2021.10.3「黄体フィードバック法(PPOS):MPA編

2020.12.5「☆黄体期スタートと卵胞期スタートの結果は同じ

2020.9.23「☆早発P増加は正常胚率とは無関係

2020.7.28「黄体フィードバック法での正常胚率は変わらない

2019.10.5「黄体ホルモンによる排卵抑制は刺激途中からで良い

2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は

2018.2.20「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その5

2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4

2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3

2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2

2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?

2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)

2014.3.8「ランダムスタート法