黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、黄体ホルモン含有IUD(子宮内避妊器具)の採卵への影響について調査したものです。

 

Fertil Steril 2018; 110: 83(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.03.022

Fertil Steril 2018; 110: 57(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.04.020

要約:2012〜2017年に卵子凍結を実施した方1073名を対象に、レボノルゲストレル含有IUD(子宮内避妊器具)を挿入した群(45名)とそうでない群(1028名)に分け、採卵から妊娠までの成績を後方視的に比較検討しました。結果は下記の通り。なお、対象者はドナー卵子と社会的卵子凍結の方であるため、受精率から出産率のデータはドナー卵子の方のみのものです。

 

          レボノルゲストレル含有IUD

             無    有      P

年齢         32.8歳   33.1歳   有意差なし

BMI          23.0   22.8    有意差なし

AFC         18.4個   19.2個   有意差なし

刺激日数        9.8日   10.3日   有意差なし 

総FSH量       1863IU  2092IU    <0.05  

最大E2値     3289pg/mL  2601pg/mL  <0.01

採卵数        17.0個  15.7個    有意差なし

成熟卵数        9.8個  10.9個   有意差なし

受精率        74.6%   74.5%   有意差なし

臨床妊娠率      84.5%   90.5%   有意差なし

出産率        75.2%   78.1%   有意差なし

 

解説:米国では60%の女性が避妊をしており、IUD(子宮内避妊器具)は可逆的な避妊方法であるため、最近使用頻度が増加しています。特に黄体ホルモンとしてレボノルゲストレル含有のIUDがよく使われています。このIUDには52mgのレボノルゲストレルが含まれており、1日20μgが放出される仕組みです。子宮内挿入後1年後に血中レボノルゲストレル濃度は191pg/mL、3年後に134pg/mLが検出され、以降は減少すると報告されています。ドナー卵子の提供者はしばしばレボノルゲストレル含有IUDを使用していますが、使用したまま採卵した場合の影響については明らかにされていませんでした。このため、多くのクリニックではIUDを抜去してから卵巣刺激を行っています。しかし、IUDは挿入にも抜去にもお金がかかりますし、挿入時には若干の痛みを伴うこともあります。従って、レボノルゲストレル含有IUDを挿入したままの採卵に問題がなければ、IUDを抜去する必要が無くなります。このような背景の元に本論文の検討が行われ、本論文はレボノルゲストレル含有IUDの有無による採卵から妊娠までの成績に違いはないことを示しています。なお、注射の量が1本増え、E2が600程度低下するというわずかな違いはみられました。

 

黄体ホルモン製剤を使用したままの採卵に何ら問題がないことは、ランダムスタート法でも明らかにされていますし、排卵抑制に黄体ホルモンを使用する黄体フィードバック法もありますので、納得できる結果です。

 

下記の記事を参照してください。

2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1

2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2

2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3

2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?

2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)

2014.3.8「ランダムスタート法