刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ランダムスタート法を行うには、医師に勇気が必要です。本論文は、きっとその勇気を与えてくれることでしょう。

Fertil Steril 2014; 102: 1307(スペイン)
要約:2012~2013年ドナー卵子の採卵を行った9名の方で、day 2とday 15のスタートの周期を比較しました。卵巣刺激は、アンタゴニスト法+FSH+アゴニストのトリガーで行いました。2群間の成熟卵数(14.0 vs. 16.9)に有意差を認めませんでした。20名のレシピエントで受精(day 2卵8名 vs. day 15卵12名)を行ったところ、2群間の受精率(77.3% vs. 76.5%)に有意差を認めませんでした。2群間の妊娠率(62.5% vs. 58.3%)にも有意差を認めませんでした(移植数は、1.50個 vs. 1.67個)。

解説:ランダムスタート法は非常に有効な方法で、私は実際に取り入れていますが、なかなか広まっていません。医師の勇気が必要不可欠なので躊躇される方が多いようですが、実際に行ってみると、全く普通に採卵、受精、凍結が可能です。これまで生理を待って刺激していたのが、一体何の意味があったのか不思議に思うほどです。しかし、ランダムスタート法の周期には移植はできませんので、全て凍結(卵子凍結、胚凍結)することが前提にあります。凍結技術の進歩によって新たに誕生した手法と言ってよいかと思います。

ランダムスタート法は、通常、癌の患者さんに行われてきました。癌の手術や抗癌剤の治療前に卵子を凍結しておきたいというニーズからです。そして、ドナー卵子の採卵に行われるようになりました。当院では、主にfresh-TESEの場合(採卵と精子回収手術を同時に行う)にランダムスタート法を行っています。癌の方では胚移植はしばらく先のことになりますが(癌の治療後)、fresh-TESEの場合には受精させ全胚凍結を行い、翌月の融解胚移植も可能です。したがって、妊娠判定の結果がすぐに判明しますので、ランダムスタート法が、生理中からスタートする従来の方法と変わりないことがわかります。