今日から4回にわたり、黄体ホルモンによるLHサージ抑制についての論文をご紹介します。まずは、動物実験のデータをお示しします。
Biol Reprod 2002; 67: 119(英国)
要約:35頭のオトナの羊で、過去に確立された人工的卵胞期モデルを用いて2つの実験を行いました。まず、実験の1ヶ月前に両側卵巣を摘出し、E2含有のカプセル(1cm)を埋め込み、膣内にP4含有座薬を挿入しました。これらのE2&P4製剤投与により、ちょうど黄体期中期〜後期のホルモン濃度になります(E2 1 pg/mL、P4 2〜4 ng/mL)。10日後にP4含有座薬を摘出した後、E2含有インプラント(4x3 cm)を埋め込むと24時間後にLHサージ直前の濃度にE2が増加します(5〜8 ng/mL)。その12〜38時間後に自然にGnRHサージとLHサージが生じます。E2とP4を異なる時間だけ作用させ、LHサージが生じるかどうかを検討しました。
実験1 LHサージ
E2 2時間→なし 2時間 3/7
E2 4時間 7/7
E2 2時間→E2+P4 2時間 0/7
E2+P4 2時間→E2 2時間 2/7
E2+P4 4時間 0/7
実験2 LHサージ
E2 4時間→なし 4時間 0/7
E2 8時間 6/8
E2 4時間→E2+P4 2時間→E2 4時間 5/7
E2 4時間→P4 2時間→E2 4時間 3/7
解説:羊では、E2増加による脳へのポジティブフィードバック作用によりGnRHとLHサージが生じますが、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌される黄体期にはGnRH及びLHのパルス状の分泌は抑制されることが知られています。しかし、黄体ホルモンがどの部分に抑制をかけているのかは明らかにされていませんでした。GnRH神経にはエストロゲン(E2)受容体もプロゲステロン(P4)受容体も存在しませんので、他の細胞を介した作用が推察されます。E2増加によるGnRHサージ発生には3つのステップがあることが知られています。①活性化(E2受容体のある神経細胞にE2が結合、最初の2時間)②伝達(E2受容体のある神経細胞からGnRH神経細胞へ情報の伝達、次の2時間)③GnRHサージ(実際のサージが起こりLHサージを導く、次の4時間)これらすべてのステップは全てE2依存性であると考えられています。本論文は、これらのどのステップに黄体ホルモンが抑制をかけているのかを明らかにしたものです。実験1からは、①活性化のステージと②伝達のステージでのP4による抑制があると言えます(特に伝達のステージでの抑制が強い)。実験2からは、③GnRHサージのステージでE2がない方がP4による抑制効果が高いことを示しています。なお、P4はE2反応性遺伝子の転写を抑制することが知られていますので、両者は対照的な動きを示します。黄体ホルモンによるGnRH/LHサージ抑制は急速かつ一時的なものであり、同様のメカニズムはラット、サル、ヒトでも認められますので、普遍的な仕組みであるもの、すなわち動物の排卵調節を担っているのではないかと考えます。極めて洗練された重要な基礎研究だと思います。