本論文は、黄体フィードバック(PPOS)法とアンタゴニスト法の妊娠成績をPSM法で検討したものです。
Fertil Steril 2022; 118: 701(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.06.012
Fertil Steril 2022; 118: 713(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.847
要約:2016〜2020年に初回採卵を実施した6520名(20〜50歳)を対象に、黄体フィードバック(PPOS)法(1516名)とアンタゴニスト法(5004名)の妊娠成績を後方視的に傾向スコアマッチング法(Propensity score matching=PSM)により検討しました。なお、PPOSではMPA 10mg/日を用いました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
アンタゴニスト法 PPOS法 P値
症例数 1424名 1424名 〜
新鮮胚移植 47.7% > 0% <0.001
初期胚移植 86.4% > 71.6% <0.001
臨床妊娠率 40.7% > 36.7% 0.028
出産率 36.0% > 32.2% 0.030
出産までの期間 9.3ヶ月 < 12.4ヶ月 <0.001
また、累積出産率は、PPOS法(66.1%)と比べアンタゴニスト法(85.1%)で有意に良好であり、オッズ比は2.32(信頼区間1.91〜2.83)でした。二つの方法の違いは、AFC5個以下、35歳以上で最も顕著に認められました。
解説:黄体フィードバック法(PPOS)は2015年に登場し、新しい排卵抑制法として近年急速に拡大しています。アンタゴニスト法とPPOS法の採卵成績や妊娠成績は同等であるとされていますが、ランダム化試験が実施されておらず、真の効果は不明です。PSM法は後方視的検討でありながらも2群間の条件ををマッチさせた統計学的手法であり、ランダム化試験に相当する解析が可能です。本論文は、PPOS法とアンタゴニスト法の妊娠成績をPSM法で検討したものであり、臨床妊娠率、出産率、出産までの期間がPPOS法よりもアンタゴニスト法で有意に良好であることを示しています。
コメントでは、新鮮胚移植と初期胚移植の頻度が2群間で大きく異なること、BMIが22であり欧米人の体型とは異なることを指摘しており、ランダム化試験の必要性と欧米人での検討の必要性を唱えています。
黄体フィードバック(PPOS)法については、下記の記事を参照してください。
2021.10.3「黄体フィードバック法(PPOS):MPA編」
2020.12.5「☆黄体期スタートと卵胞期スタートの結果は同じ」
2020.9.23「☆早発P増加は正常胚率とは無関係」
2020.7.28「黄体フィードバック法での正常胚率は変わらない」
2019.10.5「黄体ホルモンによる排卵抑制は刺激途中からで良い」
2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は」
2018.2.20「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その5」
2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4」
2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3」
2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2」
2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1」
2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?」
2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)」
2014.3.8「ランダムスタート法」
PSM法については、下記の記事を参照してください。
2022.9.12「不活化型新型コロナウイルスワクチンの妊孕性への影響は?」
2022.9.10「☆培養器はウエット型とドライ型のどちらが良い?」
2022.4.7「子宮形態異常の移植成績」
2022.3.29「PGTによる周産期リスクは?」