本論文は、早発P増加は正常胚率とは無関係であることを示しています。
Hum Reprod 2020; 35: 1889(米国)doi: 10.1093/humrep/deaa123
要約:2016〜2020年に卵巣刺激による採卵を行なった5,141名を対象に、PGT-Aによる胚盤胞の染色体分析を実施した23,991個の正常胚率と早発P増加(トリガー日のP4 > 2.0 ng/mL)の関連を後方視的に検討しました。また、これらの正常胚を単一胚移植した5,806周期の妊娠率と早発P増加の関連も検討しました。結果は下記の通り(有意差のある項目を赤字表示)。
採卵周期 P4=<2.0 P4>2.0 P値
周期数 4,925周期 216周期 〜
平均年齢 36.8歳 35.6歳 0.0001
AMH 3.34 4.15 0.0001
成熟率 76.4% 76.5% NS
受精率 80.1% 80.8% NS
胚盤胞到達率 73.8% 71.1% NS
正常胚率 52.8% 53.4% NS
*NS=有意差なし
移植周期 P4=<2.0 P4>2.0 P値
周期数 5,617周期 189周期 〜
平均年齢 36.3歳 35.7歳 <0.0001
臨床妊娠率 82.3% 76.2% NS
流産率 10.2% 8.4% NS
化学流産率 17.5% 23.1% NS
多胎妊娠率 2.0% 1.4% NS
出産時妊娠週数 39.0週 39.2週 NS
出生児体重 3317g 3266g NS
*NS=有意差なし
解説:刺激周期による新鮮胚移植で採卵直前に黄体ホルモンが上昇するのは、E2が増加するためです。これを早発P増加(early P)と呼んでおり、妊娠率低下に繋がることが知られています(P4>1.5 あるいは P4>2.0 ng/mLの場合)。かつては、黄体ホルモンの上昇は卵子や胚の発育に悪影響を与えると考えられていましたが、ランダムスタート法と全胚凍結の登場により、現在では黄体ホルモンの上昇は卵子や胚の発育や質に影響しないことが明らかになってきました。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、早発P増加は卵子、胚発生、正常胚率、凍結胚の妊娠率、出生児体重とは無関係であることを示しています。
早発P増加群では若年でAMHが高くなっていますが、これらの方ではE2がより高くなります。女性ホルモンの生成経路は、「P4(プロゲステロン=黄体ホルモン)→T(テストステロン)→E2(エストラジオール)」となりますが、単位が1000倍違うため、E2 1000 pg/mL = P4 1.0 ng/mLに相当します。つまり、E2が3000あればP4は3.0あっても不思議ではありません。早発P増加の線をどこに引くかについては定まっていませんが、現在ではP4>1.5 あるいは P4>2.0 ng/mLとなっています。
下記の記事を参照してください。
2020.7.28「黄体フィードバック法での正常胚率は変わらない」
2019.10.5「黄体ホルモンによる排卵抑制は刺激途中からで良い」
2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は」
2018.2.20「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その5」
2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4」
2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3」
2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2」
2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1」
2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?」
2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)」
2014.3.8「ランダムスタート法」