☆卵胞期 vs. 黄体期スタート:ランダム化試験 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、卵胞期スタートと黄体期スタートによる採卵成績のランダム化試験です。

 

F&S Rep 2023; 4: 344(スペイン)doi: 10.1016/j.xfre.2023.07.003. eCollection 2023 Dec

F&S Rep 2023; 4: 343(米国)コメント doi: 10.1016/j.xfre.2023.08.005.eCollection 2023 Dec

要約:2020〜2022年POSEIDON分類1bおよび2bを満たす不妊女性41名(18〜41歳)を対象に、「卵胞期スタート→黄体期スタート」群と「黄体期スタート→卵胞期スタート」群にランダムに割り当てて卵巣刺激をおこなったクロスオーバー試験を実施しました。なお、2回の採卵は連続させず、45日から半年あけて開始しました。刺激方法は、2回ともアンタゴニスト法+FSH製剤+GnRHアゴニストトリガーで行いました。結果は下記の通り、すべての項目で有意差を認めませんでした。

 

      卵胞期スタート  黄体期スタート   P値

採卵数     7.5個       7.0個     NS

成熟卵数    5.5個       5.2個     NS

受精数     4.3個       4.0個     NS

刺激日数    10.1日       10.3日    NS

トリガー日E2  1529       1471     NS

NS=有意差なし

 

解説:卵巣反応不良(POR)女性は、ART治療(体外受精、顕微授精)を受けている女性の9~24%に認められます。現在は、POSEIDON(Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)分類とボローニャ分類を用いてPOR女性を評価するようになっています。なお、POSEIDONは前方視的検討(ランダム化試験)を行う目的で作られたもので、後方視的検討用ではありません。また、当初は卵胞期スタートだった卵巣刺激ですが、黄体期スタートによる採卵周期も遜色ないことが明らかとなり、ランダムスタート法Duo刺激などが行われるようになり、PPOS法(黄体フィードバック法)も登場しました。本論文は、このような背景の元に行われたランダム化試験であり、卵胞期スタートと黄体期スタートによる採卵成績に違いがないことを示しています。

 

コメントでは、Duo刺激での卵胞期スタートと黄体期スタートの比較では、卵胞期に用いたトリガーによる影響のため全く同じ条件での比較ができませんが、本論文では、2つの刺激の間隔を45日から半年空けたクロスオーバー試験を採用しており、それぞれが独立した刺激周期になるため、様々な交絡因子を排除することができるとしています。

 

POSEIDON分類 2016(Fertil Steril 2016; 105: 1452)は下記の通り。

POSEIDON 1群:35歳未満、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      1a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      1b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 2群:35歳以上、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      2a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      2b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 3群:35歳未満、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

POSEIDON 4群:35歳以上、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

 

ボローニャ分類 2011(以下の3項目のうち2項目をみたすもの)(Hum Reprod 2011; 26: 1616)

1)40歳以上、あるいは他のPORリスク因子(ターナー症候群、FMRI遺伝子変異、卵巣手術既往、抗がん剤治療後など)
2)刺激周期の採卵にて3個以下の卵子回収
3)AMH < 0.5~1.1 ng/mL、あるいはAFC(胞状卵胞数)< 5~7個

 

下記の記事を参照してください。

2023.2.21「☆癌患者さんにおけるランダムスタート法と通常法の違い

2023.1.7「☆黄体期開始と卵胞期開始で正常胚率は同じ

2022.11.7「黄体フィードバック(PPOS)法 vs. アンタゴニスト法:妊娠成績

2021.10.3「黄体フィードバック法(PPOS):MPA編

2020.12.5「☆黄体期スタートと卵胞期スタートの結果は同じ

2020.9.23「☆早発P増加は正常胚率とは無関係

2020.7.28「黄体フィードバック法での正常胚率は変わらない

2019.10.5「黄体ホルモンによる排卵抑制は刺激途中からで良い

2018.7.30「黄体ホルモン含有IUDの採卵への影響は

2018.2.20「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その5

2017.12.7「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その4

2017.12.6「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その3

2017.12.5「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その2

2017.12.4「☆黄体ホルモンによるLHサージ抑制 その1

2016.8.18「ランダムスタート法の有用性は?

2014.12.4「刺激周期の開始時期による比較(day 2 vs. day 15)

2014.3.8「ランダムスタート法