しばしば質問がありますので、お子さんの自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder = ASD)と不妊治療ついて、最新の論文をご紹介します。
①Sci Rep 2023 Dec 7; 13(1): 20608(東北大学)doi: 10.1038/s41598-023-47878-z
要約:父親の加齢がお子さんのASDのリスク因子であると報告されています。SFARIデータベースに記載された自閉症関連遺伝子について、月齢3ヶ月、12ヶ月、20ヶ月のC57BL/6Jマウス精子のmiRNAプロファイルの変化を検討しました。月齢3ヶ月と20ヶ月では26個の遺伝子が、月齢12ヶ月と20ヶ月では34個の遺伝子が、月齢3ヶ月と12ヶ月では2個の遺伝子で有意な変化が認められました。これらはアポトーシスやフェロトーシス経路および神経系と関連のある遺伝子でした。
②JAMA Netw Open 2023 Nov 1; 6(11): e2343954(カナダ) doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.43954
要約:2006〜2018年にカナダのオンタリオ州で出産した妊娠24週以降のお子さん137万名を対象に、妊娠方法とASDの関連について、自然妊娠(86.5%、30.1歳)、不妊治療なしの不妊症(10.3%、33.3歳)、排卵誘発使用/人工授精(1.5%、33.1歳)、ART治療(体外受精、顕微授精、1.7%、35.8歳)の4群に分けて後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
ASD率/1000人年 修正オッズ比(95%信頼区間)
自然妊娠 1.93人 基準
不妊治療なしの不妊症 2.49人 1.20(1.15〜1.25)
排卵誘発使用/人工授精 2.72人 1.21(1.09〜1.34)
ART治療 1.29人 1.16(1.04〜1.04)
なお、不妊症群間(不妊治療なしの不妊症、排卵誘発使用/人工授精、ART治療)では有意差を認めませんでした。
解説:ASDの原因には、遺伝因子(エピジェネティックス因子)と環境因子が関与していると考えられています。また、不妊症の夫婦のお子さんでASDのリスクが高い可能性が報告されています。論文①は、加齢マウスのオスでは自閉症関連遺伝子のmiRNAプロファイルが変化していることを示しています。論文②は、不妊症夫婦では治療の如何にかかわらずお子さんのASDの頻度が高くなることを示しています。つまり、不妊治療が自閉症をもたらすのではなく、父親の加齢や妊娠しないこと(不妊症であること)がASDのリスクとなります。
下記の記事を参照してください。
2022.10.4「☆母体CRP増加とお子さんの自閉症の関連」
2022.9.13「☆不妊症であることがADHDのリスク!?」
2021.11.4「☆お子さんの自閉症のリスク因子:妊娠中から出産後」
2021.9.4「Q&A3042 ☆PCOSや高BMI妊婦は自閉症リスクが高い?」
2019.11.19「Q&A2387 ☆産婦人科医から質問:不妊治療の怖さについて」
2019.10.16「Q&A2352 夏の妊娠は自閉症リスク増加!?」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢」
2018.3.25「Q&A1775 PCOSで自閉症?」
2017.5.13「Q&A1455 第二子治療開始時期は?」
2017.2.12「Q&A1364 自閉症について」
2016.2.10「Q&A996 息子の自閉症が心配です」
2015.8.19「☆ADHDは先天的?後天的?」
2015.6.27「☆母体の加齢に伴いお子さんの自閉症は減少する」
2015.4.4「☆トキソプラズマ感染症と自閉症の関連」
2015.3.25「Q&A642 テストステロンと自閉症の関連」
2014.10.24「自閉症と体外受精の関連」
2014.5.12「☆陣痛促進剤と自閉症の関連」
2014.2.13「体外受精で自閉症は?」
2013.4.14「自閉症と体外受精の関連は?」