本論文は、不妊治療ではなく、不妊症であること(妊娠しないこと)自体がADHD(注意欠如・多動症)のリスク因子であることを示しています。
Hum Reprod 2022; 37: 2126(カナダ)doi: 10.1093/humrep/deac129
要約:2006〜2014年にカナダオンタリオ州で妊娠24週以降で出産した925,488名を対象に、4歳以降最長8歳までのADHDの有無を2020年まで人口疾病統計で調査しました(ICES、OHIP、BORNデータベース)。内訳は、自然妊娠805,748名(対照群)、不妊症で不妊治療未実施94,206名、卵巣刺激か人工授精11,777名、ART治療(体外受精、顕微授精)13,757名です。なおADHDは、外来通院患者ではICD9-312、313、314コードで、入院患者ではICD10-F90、F91コードにより抽出しました(小児科医あるいは精神科医による診断)。各種交絡因子で補正した結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。
ADHD率/1000人年 ハザード比(95%信頼区間)
自然妊娠(対照群) 12.0 1.00(基準)
不妊症で不妊治療未実施 12.8 1.19(1.16〜1.22)
卵巣刺激か人工授精 12.9 1.09(1.01〜1.17)
ART治療(体外受精、顕微授精) 12.2 1.12(1.04〜1.20)
解説:不妊症あるいは不妊治療によるお子さんへの長期的な影響については、賛否両論があり結論が得られていません。これは、症例数が少ない、あるいは単一施設、横断研究であるなど、研究の方法論に問題があるためです。より強力な根拠を得るためには国家規模の人口疾病統計を活用するのが有効であり、本論文の研究が実施されました。本論文は、不妊治療ではなく、不妊症であること(妊娠しないこと)自体がADHD(注意欠如・多動症)のリスク因子であることを示しています。結論を得るためには、もちろん前方視的検討が必要です。
下記の記事を参照してください。
2021.11.4「☆お子さんの自閉症のリスク因子:妊娠中から出産後」
2021.9.4「Q&A3042 ☆PCOSや高BMI妊婦は自閉症リスクが高い?」
2019.11.19「Q&A2387 ☆産婦人科医から質問:不妊治療の怖さについて」
2019.10.16「Q&A2352 夏の妊娠は自閉症リスク増加!?」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢」
2018.3.25「Q&A1775 PCOSで自閉症?」
2017.5.13「Q&A1455 第二子治療開始時期は?」
2017.2.12「Q&A1364 自閉症について」
2016.2.10「Q&A996 息子の自閉症が心配です」
2015.8.19「☆ADHDは先天的?後天的?」
2015.6.27「☆母体の加齢に伴いお子さんの自閉症は減少する」
2015.4.4「☆トキソプラズマ感染症と自閉症の関連」
2015.3.25「Q&A642 テストステロンと自閉症の関連」
2014.10.24「自閉症と体外受精の関連」
2014.5.12「☆陣痛促進剤と自閉症の関連」
2014.2.13「体外受精で自閉症は?」
2013.4.14「自閉症と体外受精の関連は?」