本論文は、卵巣刺激で乳癌再発リスクは増加しないことを示しています。
Fertil Steril 2023; 119: 465(フランス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.020
Fertil Steril 2023; 119: 474(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.018
要約:2013〜2019年に妊孕性温存のために採卵を実施した740名(18〜43歳)の転移のない乳癌女性を対象に、刺激周期群(328名)と自然周期群(412名)の採卵による無病生存率と生存率を2021年に調査し、後方視的に検討しました(それぞれ269名と330名)。4年後の無病生存率は、それぞれ87.9%と83.1%であり、交絡因子補正後の有意差はありませんでした。また、4年後の生存率は、それぞれ97.6%と93.6%であり、交絡因子補正後の刺激周期群の生存率が有意に高くなっていました。
解説:かつて、乳癌の女性の妊孕性温存において、卵巣刺激を行うのは良くないのではないかとされていました(特に女性ホルモン感受性の乳癌)が、最近はこれを否定する論文ばかりです。本論文は、卵巣刺激で乳癌再発リスクは増加しないことを示しています(むしろ生存率は刺激周期群で有意に高い)。
コメントでは、後方視的検討であること、乳癌のステージの検討がされていないこと、卵巣刺激のプロトコールが一定でないこと、経過観察期間が短いことを指摘しています。
妊娠治療による癌のリスクについては、下記の記事を参照してください。
2022.11.9「妊娠治療薬による大腸癌のリスク」
2022.9.21「Q&A3426 タモキシフェン投与中の卵胞発育」
2022.8.30「☆乳癌の女性の卵巣刺激:ランダム化試験」
2022.6.13「☆乳癌女性の妊孕性温存における卵巣刺激の是非」
2022.4.23「Q&A3275 乳癌術後の胚移植は?」
2022.4.9「☆卵巣刺激で乳癌リスクは増加しない その2」
2021.12.21「ART治療と乳癌リスク」
2021.10.5「☆ピルによる癌のリスクは?」
2021.8.3「☆卵巣刺激で乳癌リスクは増加しない」
2021.4.18「☆妊娠治療と癌のリスク」
2020.1.21「☆乳癌既往のART妊娠による乳癌再発リスクはない」
2019.12.30「卵巣刺激によるART治療と卵巣癌のリスク」
2016.12.3「☆☆妊娠治療に用いる薬剤と癌について:ASRMガイドライン」
2015.8.7「体外受精による出産後の母体の癌のリスク」
2015.1.28「妊娠治療薬と境界悪性卵巣腫瘍の関係」
2014.2.25「☆卵巣刺激(排卵誘発)と卵巣癌のリスク」
2013.11.29「☆不妊治療薬で子宮体癌は増加しません」
2013.7.12「☆不妊治療薬と卵巣癌の関係」
2013.4.28「不妊症の方は癌になりやすいか その2」
2013.4.23「不妊症の方は癌になりやすいか その1」