☆不妊治療薬で子宮体癌は増加しません | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

不妊治療では様々なお薬を使います。そのような場合に必ず訊かれるのは、「副作用は?」「赤ちゃんに影響は?」「身体に悪いのでは?」「太るのでは?」という質問です。これまで、下記の記事でその答えを述べてきました。
2013.5.27「☆女性ホルモン剤を使うのは心配ですか?」
2013.9.6「☆女性ホルモン剤は太る?」
2013.4.23「不妊症の方は癌になりやすいか その1」
2013.4.28「不妊症の方は癌になりやすいか その2」
2013.7.12「☆不妊治療薬と卵巣癌の関係」
本論文は、不妊治療薬で子宮体癌が増加しないことを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2813(米国)
要約:1965~1988年に米国の5カ所の施設で不妊治療を受けた12193名の方について、2010年に後方視的に調査しました。118名の方が子宮体癌になり、どのような因子と関連しているか(人種、妊娠歴、出産歴、初潮年齢、ピル使用歴、BMI、治療開始年齢、不妊原因)を検討しました。その結果、クロミフェンやhMGの使用に子宮体癌リスクの有意な増加を認めませんでした。

解説:婦人科ではクロミフェンは非常に多用される選択的エストロゲン受容体調節性薬剤(SERM)です。乳癌治療に用いられるタモキシフェンもSERMの一種ですが、タモキシフェンでは子宮体癌のリスクが増加することが知られています。これまでの報告では、調査期間が短く調査人数も少なかったため、明らかな結論を導きだすことができませんでした。本論文により、現時点ではクロミフェンやhMGによる子宮体癌のリスクは否定的ですが、子宮体癌の罹患年齢は高齢者であるため、さらに長期の調査が必要と考えます。