不妊治療では、「女性ホルモン剤」を使います。日本では「女性ホルモン剤」というと引いてしまわれる方が少なくありません。「副作用は?」「身体に影響は?」「赤ちゃんに影響は?」など、皆さん心配されます。しかし、実際には妊娠すると女性ホルモンであるエストロゲン(E2)も黄体ホルモン(P)も飛躍的に増加します。妊娠中と非妊娠時の血中濃度は、E2(30000~40000 pg/mL vs 200 pg/mL)、P(200~300 ng/mL vs. 10 ng/mL)であり、それぞれ非妊娠時の150~200倍、20~30倍になっています。もし、この量を薬剤で補うとしたら、500μgのエストロゲン製剤(ジュリナ)を使って300~800錠、10000μgの黄体ホルモン注射剤(ルテウム注10)を使って5~30アンプルに達します。つまり、不妊治療で「女性ホルモン剤」を使用するとはいえ、妊娠中と比べると極めて少量の「女性ホルモン剤」の使用にすぎません。また、体外受精では卵子を育てるためにhMG(FSH)製剤を使用し、E2は2000~10000 pg/mL程度になります。それでも妊娠中のレベルより低い数値になります。
妊娠中には、このように大量の女性ホルモンにより、眠い、だるい、気持ち悪い、微熱、動作が緩慢、めまい、便秘、腹部不快感、おりもの増加、湿疹、動悸、むくみ、乳房痛、乳房不快感、感覚減退、心身不安定など様々な症状が出現します。薬剤使用時にこれらの症状が出現すると、とかく「副作用」と捉えられてしまいますが、むしろ「女性ホルモン」そのものの作用であると言う考え方が正しいと思います。
本稿では、現在日本で発売されているピル(経口避妊薬)およびエストロゲン製剤、黄体ホルモン製剤を比較できるように並べてみました(単位を合わせるために、全てμgとしてあります)。ピルの世代分類は、黄体ホルモン製剤の種類によります。エストロゲン製剤が50μg未満は低用量ピル、50μgは中用量ピル、50μgを超えるものが高用量ピルです。
大雑把なイメージとしては、生理周期のリセットにはエストロゲン製剤も黄体ホルモン製剤も中用量か高用量を用い、長期服用には低用量を用いるといった使い方です。効き方には大きな個人差がありますので、用途別にその方に合った製剤を用いることが大切です。
この一覧表で、、、
患者さんとしては現在処方されている薬のホルモン量はどの程度なのかを知ることができます。
医療者としては、処方内容を変える場合にホルモン含有量の違いを参考にすることができます。
エストロゲン製剤 黄体ホルモン製剤
第1世代 (EE, MN, E2) (ノルエチステロン)
シンフェーズ 35 (EE) 500→1000
オーソ777 35 (EE) 500→750→1000
オーソM 35 (EE) 1000
ルナベル 35 (EE) 1000(内膜症適応)
ソフィアA 50 (MN) 1000
ソフィアC 100 (MN) 2000
メノエイドコンビパッチ 620 (E2) 2700(貼付剤)
ノアルテン ~~~ 5000
第2世代 (EE) (LN, N)
アンジュ 30→40→30 50→75→125 (LN)
トリキュラー 30→40→30 50→75→125 (LN)
ラベルフィーユ 30→40→30 50→75→125 (LN)
プラノバール 50 500 (N)(MAP)
ウェールナラ 1000 (E2) 40 (LN)
ノルレボ(MAP) ~~~ 75 (LN)
ミレーナ(IUD) ~~~ 52000 (LN)
第3世代 (EE) (デソゲストレル)
マーベロン 30 150
ファボワール 30 150
第4世代 (EE) (ドロスピレノン)
ヤーズ 20 3000
エストロゲン製剤 (EE, E2, cE) (~)
ジュリナ 500 (E2) ~~~
ルエストロジェル 540 (E2)(ジェル) ~~~
ディビゲル 1000 (E2)(ジェル) ~~~
エストラーナテープ 720 (E2)(貼付剤) ~~~
プロセキソール 500 (EE) ~~~
プレマリン 625 (cE) ~~~
黄体ホルモン製剤 (~) (MPA, CMA)
プロゲストン200 ~~~ 200 (MPA)
ヒスロンH200 ~~~ 200 (MPA)
プロベラ2.5 ~~~ 2500 (MPA)
メドロキシ2.5 ~~~ 2500 (MPA)
プロゲストン2.5 ~~~ 2500 (MPA)
ネルフィン2.5 ~~~ 2500 (MPA)
プロゲストン5 ~~~ 5000 (MPA)
ヒスロン5 ~~~ 5000 (MPA)
ルトラール2 ~~~ 2000 (CMA)
デュファストン ~~~ 5000 (DG)
注射剤
ペラニンデポ筋注5 5000 (E2V) ~~~
ペラニンデポ筋注10 10000 (E2V) ~~~
プロゲホルモン筋注10 ~~~ 10000 (P)
ルテウム注10 ~~~ 10000 (P)
プロゲステロン筋注25 ~~~ 25000 (P)
プロゲストン注25 ~~~ 25000 (P)
プロゲホルモン筋注25 ~~~ 25000 (P)
ルテウム注25 ~~~ 25000 (P)
プロゲステロン筋注50 ~~~ 50000 (P)
プロゲストン注50 ~~~ 50000 (P)
オオホルミンルテウムデポ筋注125 ~~~ 125000 (HPC)
プロゲストンデポ筋注125 ~~~ 125000 (HPC)
プロゲデポ筋注125 ~~~ 125000 (HPC)
ルテスデポ注 ~~~ 125000 (HPC)
EPホルモンデポ筋注 1000 (E2P) 50000 (HPC)
略語
EE = エチニルエストラジオール
MN = メストラノール
E2 = エストラジオール(生体内の成分と同じもの)
E2P = エストラジオールプロピオン酸エステル
cE = 結合型エストロゲン
E2V = エストラジオール吉草酸エステル
P = プロゲステロン
LN = レボノルゲストレル
N = ノルゲストレル
MPA = メドロキシプロゲステロン酢酸エステル
CMA = クロルマジノン酢酸エステル
HPC = ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル
DG = ジドロゲステロン
MAP = morning after pillに使用
IUD = 子宮内避妊具
*同じ薬剤を使用しても、個人個人の吸収力や代謝力に大きな違いがあるため、同じ濃度にはなりません。同じ方でもその時々によって濃度が変わるといった不思議もあります。何回も採血するのは、そのためです。
ピルについては、2013.4.22「ホルモン剤(ピル)の使い方でAMHが半減?」、2013.5.14「体外受精前周期のピル(OC)のメリット•デメリット その1」、2013.5.21「ピルのメリット」でご紹介しました。