不妊症の方は癌になりやすいか その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

不妊治療ではホルモン剤やその他の薬剤を頻繁に使用します。これらの薬剤の影響について患者さんからの質問も多く、また誤解も多いと思います。かつては、不妊症の方は癌になりやすいのではないかと言われていましたが、最近の研究ではそれを否定するものが多くなっています。本論文は、フィンランドのデータベスで癌の種類別に検討したところ、不妊症と癌の関連はほとんどないことを示しています。

Hum Reprod 2012; 27: 1149(フィンランド)
要約:1996~1998年にフィンランドで体外受精(体外受精、顕微授精、凍結融解胚移植)を行った9175名の方を、年齢、住居、生活基盤(経済的、社会的)を一致させたコントロールの方と比べ、癌の発生頻度について国の癌登録データベース(2004年まで)を用いて調査しました。体外受精群とコントロール群で、全体の癌の罹患率もホルモン依存性の癌の罹患率においても有意差を認めませんでした。ただし、子宮頚癌と肺癌は体外受精群で有意に少なく、逆にメラノーマ(ほくろの癌)を除く皮膚癌は体外受精群で有意に多くなっていました。

解説:これまでに不妊症と癌の関連について多くのの報告がありました。癌全体を検討していた論文では、体外受精の方では1.04倍~1.23倍癌になるリスクがあるとされていましたが、一方でそれを否定する論文もありました。特にホルモン依存性の癌(乳癌、卵巣癌、子宮癌など)での検討は数多くなされています。これらの論文を見ると、総じて初期の研究では症例数が少ないものが多く、その結果は体外受精の方は癌になりやすいというものでした。逆に、最近の研究では、症例数が多いものが多く、その結果は体外受精と癌の関連は否定的というものが多くなっています。
しっかりとしたリスクの数値を示すには北欧のシステムが有効で、今回も北欧からの報告です。癌の場合も長期にわたる経過をみる必要があります。本論文は、9000名程度の研究ですので、今後数万人規模のデータが報告されれば、さらに信頼性の高いデータが得られると考えます。