☆妊娠治療と癌のリスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊娠治療と癌のリスクに関するメタアナリシス です。

 

Hum Reprod 2021: 36: 1093(英国)doi: 10.1093/humrep/deaa293

要約:2019年までに発表された29論文21,070,337名の後方視的検討においてメタアナリシス を行いました。乳癌19論文、卵巣癌19論文、子宮体癌15論文、子宮頸癌13論文が該当しました。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示、信頼区間が1を挟む場合には有意差なし)。

 

          オッズ比   95%信頼区間

乳癌19論文      0.86    0.73〜1.01

卵巣癌19論文     1.19    0.98〜1.46

(境界悪性卵巣腫瘍  1.69    1.27〜2.25)

子宮体癌15論文    1.28    0.92〜1.79

子宮頸癌13論文    0.68    0.46〜0.99

 

クロミフェン使用    オッズ比   95%信頼区間

乳癌7論文        1.08    0.89〜1.30

卵巣癌6論文       1.40    1.10〜1.77

子宮体癌8論文      1.47    0.95〜2.28

 

hMG使用     オッズ比   95%信頼区間

乳癌3論文      0.44    0.20〜0.98

子宮体癌3論文    1.51    0.60〜3.82

 

解説:不妊症はおよそ14%の夫婦に認められます。不妊症あるいは妊娠歴のない方は乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクが高くなることが知られていますが、妊娠治療による影響は賛否両論があります。本論文は、このような背景の元に行われた最大規模のメタアナリシス であり、妊娠治療により子宮頸癌のリスクが有意に低下し、乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクは変わらないことを示しています。ただし、サブグループ解析では、卵巣境界悪性腫瘍のリスクが有意に増加し、クロミフェン使用により卵巣癌のリスクが有意に増加し、hMG使用により乳癌のリスクが有意に低下します。勿論、今後のさらなる検討が必要ですが、現段階では上記の結論が導かれています。

 

妊娠治療による癌のリスクについては、下記の記事も参照してください。

2020.1.21「☆乳癌既往のART妊娠による乳癌再発リスクはない

2019.12.30「卵巣刺激によるART治療と卵巣癌のリスク

2016.12.3「☆☆妊娠治療に用いる薬剤と癌について:ASRMガイドライン

2015.8.7「体外受精による出産後の母体の癌のリスク
2015.1.28「妊娠治療薬と境界悪性卵巣腫瘍の関係」
2014.2.25「☆卵巣刺激(排卵誘発)と卵巣癌のリスク」
2013.11.29「☆不妊治療薬で子宮体癌は増加しません」
2013.7.12「☆不妊治療薬と卵巣癌の関係」
2013.4.28「不妊症の方は癌になりやすいか その2」
2013.4.23「不妊症の方は癌になりやすいか その1」