☆乳癌女性の妊孕性温存における卵巣刺激の是非 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、乳癌女性の妊孕性温存における卵巣刺激に関するメタアナリシスです。

 

Hum Reprod 2022; 37: 954(イタリア)doi: 10.1093/humrep/deac035

要約:2021年6月までに発表された、乳癌女性の妊孕性温存における卵巣刺激に関する15論文4643名を対象に、メタアナリシスを実施しました(症例対照研究、コホート研究)。なお、10名未満の症例報告や対照群のないものは除外しました。妊孕性温存を実施しなかった方2386名と比べ、卵巣刺激による妊孕性温存を実施した方1594名では、乳癌再発率が0.58倍、死亡率が0.54倍、無イベント生存率(event-free survival、EFS)が0.76倍に有意に低下していました。女性ホルモン感受性の乳癌でも同様に、卵巣刺激による妊孕性温存を実施した方で無イベント生存率(EFS)は0.36倍と有意な低下を示しました。術前化学療法実施前に卵巣刺激による妊孕性温存を実施した方でも乳癌再発率は0.22倍と有意な低下を認め、乳癌治療終了後に卵巣刺激による妊孕性温存を実施した方の乳癌再発率も0.34倍と有意な低下を認めました。

 

解説:乳癌の女性の妊孕性温存において、卵巣刺激を行うのは良くないのではないかとの考えが根強くあります(特に女性ホルモン感受性の乳癌)が、本当にそうなのでしょうか。本論文は、乳癌女性の妊孕性温存における卵巣刺激に関するメタアナリシスを実施したところ、卵巣刺激による妊孕性温存を実施した方では、妊孕性温存を実施しなかった方と比べ(不思議なことに)どの時期に治療した場合でも全て乳癌の再発リスクが低下することを示しています。しかし、多くの研究は後方視的検討であり、対照群も必ずしもマッチしていませんので、結論を導くには大規模な前方視的検討が必要です。