☆ピルによる癌のリスクは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ピルによる乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクを国家規模のデータを元に60年間の観察期間で調査したものです。

 

Cancer Res 2021; 81: 1153(スエーデン)doi: 10.1158/0008-5472.CAN-20-2476

要約:英国Biobank(横断研究コホート)のデータで1939〜1970年に英国で生まれた女性256,661名を対象に、2019年までに癌に罹患したか否かを自己申告あるいは国家データベースから抽出しました。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

ピル使用歴 あり/なしオッズ比(信頼区間)

乳癌      1.02(0.98〜1.06)

卵巣癌     0.72(0.65〜0.81)* 

子宮体癌    0.68(0.62〜0.75)*

*服用終了後35年間まで抑制効果あり

 

乳癌サブグループ解析で有意差が認められた項目

55歳まで観察   1.10(1.03〜1.17)

服用終了後2年以下 1.55(1.06〜2.28)

 

解説:1960年代に初めてピル(経口避妊薬)が認可され、欧米では80%の女性がピルの使用経験があります。かつて、ピルには、乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクがあるとされていましたが、その後の研究により乳癌リスクは増加するが、卵巣癌と子宮体癌のリスクは低下するという論調になっています。しかし、10〜30年程度の観察期間での検討であり、それ以上の長期に及ぶ検討はされていませんでした。本論文は、ピルによる乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクを国家規模のデータベースを元に60年間の観察期間で調査したものです。ピル使用により卵巣癌と子宮体癌のリスクは有意に低下すること、しかもその抑制効果はピル服用終了後35年間まで持続することを示しています。一方、ピル使用により乳癌リスクは短期的に増加(55歳まで)するものの、長期的(80歳まで)には増加しないこと、ピル服用終了後2年以下までのみで乳癌リスクが増加することを示しています。極めて興味深い結果であり、患者さんがピルを選択する際の情報として有用であると思います。以上をまとめると下記になります。

1)ピル服用により、卵巣癌と子宮体癌のリスクは低下(服用中〜服用終了後35年間

2)ピル服用により、乳癌リスクは55歳まで増加、服用終了後2年以内のみ増加