「不妊原因と子供の健康について」の第3弾は「夫婦の内分泌疾患と子供の健康」についてです。
Fertil Steril 2019; 111: 1076(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.04.039
要約:夫婦の内分泌疾患とお子さんの健康との関係について、現在までに発表された論文から最新情報を紹介します。
2007年に世界保健機関(WHO)は、ヨウ素欠乏症が胎児の脳のダメージをもたらすことを発表しました。ヨウ素は甲状腺ホルモンの主要な構成成分であり、甲状腺ホルモンは神経の増殖と成長に必要です。妊娠中のヨウ素欠乏症は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の要因になり、知能低下や運動機能障害をもたらします。2013年に英国のALSPACスタディーは、妊娠初期のヨウ素欠乏とIQ低下の関連を報告しました。妊娠中は、ヨウ素の排出が増加するためと、甲状腺ホルモン結合タンパクが増加するために、ヨウ素の必要量は増加します。妊娠ホルモンであるHCGは、甲状腺ホルモンを増加させることでこのバランスをうまく保っています。しかし、潜在性甲状腺機能低下症の場合や甲状腺機能が正常でも抗甲状腺抗体を持っている方では、このバランスがうまく取れず、妊娠中に甲状腺機能低下症をきたします。正真正銘の甲状腺機能低下症に関してはもちろんですが、潜在性甲状腺機能低下症においても神経系の発達に悪影響を及ぼし認知障害を引き起こす可能性が指摘されています。母体の甲状腺機能低下については、甲状腺機能低下症と潜在性甲状腺機能低下症、妊活中と妊娠中、一般妊娠治療とART治療(体外受精、顕微授精)、TPO抗体陽性と陰性、それぞれ分けて考える必要があり、2019.4.9「☆甲状腺最新情報:妊活中と妊娠中」の記事と全く同様の記載がなされています。
母体の耐糖能異常については、お子さんの神経発達障害、耐糖能異常、心血管疾患、肥満、糖尿病のリスク増加が指摘されています。これらの疾患は、母体の糖質制限や薬剤により改善することが報告されています。また、高血糖によるエピジェネティックな変化は世代を超えて遺伝し得るため注意が必要です。
解説:母体の甲状腺機能低下と耐糖能異常は妊娠前から妊娠中に重要な役割を担っていることが明らかにされています。妊娠を目指す女性は検査されることをお勧めいたします。甲状腺はTSHとfT4、耐糖能異常はHOMA-R(=空腹時血糖xインスリン÷405)の採血になります。
甲状腺機能低下については、下記の記事を参照してください。
2018.3.21「☆ヨウ素低下と妊孕性の関係」
2017.9.19「甲状腺ホルモンと妊娠の関係」
2017.3.23「甲状腺機能と胎盤機能」
2015.9.24「甲状腺抗体と妊娠糖尿病の関係」
2015.9.21「☆潜在性甲状腺機能低下症の取り扱い」
2015.9.18「Q&A823 ☆TSHの変動について」
2015.2.7「TSHの基準値に関する新たな見解」
2013.12.17「☆甲状腺ホルモンとプロラクチン」
2013.5.6「☆甲状腺ホルモンと妊娠」
耐糖能異常については、下記の記事を参照してください。
2019.3.28「☆インスリン過剰は胎盤に毒?」
2016.1.1「Q&A956 インスリン抵抗性」
2015.12.24「メトホルミンの効能」
2015.9.22「☆PCOSでのメトホルミン治療:Cochrane review」
2015.8.20「☆メトホルミンの妊娠中の使用」
2014.2.8「メトホルミンの妊娠中の使用は?」