甲状腺ホルモンと妊娠の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、甲状腺ホルモンと妊娠に関するオピニオンです。なぜ、潜在性甲状腺機能低下症を治療すべきなのかについて考えさせてくれます。

 

Hum Reprod 2017; 32: 1779(英国)doi: 10.1093/humrep/dex240.

要約:2007年に世界保健機関(WHO)は、ヨウ素欠乏症が胎児の脳のダメージをもたらすことを発表しました。ヨウ素は甲状腺ホルモンの主要な構成成分であり、甲状腺ホルモンは神経の増殖と成長に必要です。妊娠中のヨウ素欠乏症は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の要因になり、知能低下や運動機能障害をもたらします。2013年に英国のALSPACスタディーは、妊娠初期のヨウ素欠乏とIQ低下の関連を報告しました。妊娠中は、ヨウ素の排出が増加するためと、甲状腺ホルモン結合タンパクが増加するために、ヨウ素の必要量は増加します。妊娠ホルモンであるHCGは、甲状腺ホルモンを増加させることでこのバランスをうまく保っています。しかし、潜在性甲状腺機能低下症の場合や甲状腺機能が正常でも抗甲状腺抗体を持っている方では、このバランスがうまく取れず、妊娠中に甲状腺機能低下症をきたします。正真正銘の甲状腺機能低下症に関してはもちろんですが、潜在性甲状腺機能低下症においても神経系の発達に悪影響を及ぼし認知障害を引き起こす可能性が指摘されています。このため、米国臨床内分泌協会(AACE)、米国甲状腺協会(ATA)、内分泌協会ガイドライン(ESG)は、抗甲状腺抗体の有無にかかわらず、妊娠初期のTSHを2.5未満にするように甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の服用を推奨しています。また、最新のATAガイドラインでは、体外受精や顕微授精のみならず、妊娠を目指す全ての女性に対して、TSHを2.5未満にするように甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の服用を推奨しています。一方で、米国医学部産婦人科学会(ACOG)は、全ての女性にTSH検査を実施するのは推奨しないとの立場をとっています。したがって、全ての女性にTSH<2.5を適応すべきかについての結論を導くためには大規模な前方視的検討が必要です。

 

解説:甲状腺機能低下症は、胎児の脳の発達のみならず、不育症との関連もあることが知られています。甲状腺機能亢進症も不育症との関連があります。甲状腺ホルモンは妊娠と密接なつながりのあるホルモンです。妊娠を目指す全ての女性に、甲状腺ホルモン採血をして欲しいと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2017.3.23「甲状腺機能と胎盤機能

2015.9.24「甲状腺抗体と妊娠糖尿病の関係

2015.9.21「☆潜在性甲状腺機能低下症の取り扱い」
2015.9.18「Q&A823 ☆TSHの変動について」
2015.2.7「TSHの基準値に関する新たな見解」
2013.12.17「☆甲状腺ホルモンとプロラクチン」
2013.5.6「☆甲状腺ホルモンと妊娠」