☆甲状腺ホルモンと妊娠 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.3.13「天気予報と妊娠率」で、妊娠率に影響する可能性のある要因として、解明されていないが考慮すべき「その他」の要因を7つ挙げました。そのひとつが「甲状腺ホルモン」です。

Fertil Steril 2012; 97: 1033(米国)
要約:甲状腺ホルモンは、身体の臓器にとって必須のホルモンであるのは明白です。甲状腺機能の基準値(正常値)がいったいいくつなのかについては、様々な意見があります。従来、TSHの基準値は0.4~4.5 mIU/Lとされていました(日本の基準では、0.5~5.0 mIU/L)。米国臨床生化学会は2002年に、将来TSHの基準値の上限は2.5 mIU/Lになるだろうと述べています。その理由は、甲状腺機能が正常な方の95%以上でTSHは0.4~2.5 の範囲にあるためです。TSHを2.5の上下で区切った時、2.5以上では、早産、低体重児のリスクが増加するという報告があります。また、甲状腺機能が正常だが甲状腺自己抗体を持つ方で流産率が高いという報告、あるいは体外受精の妊娠率が低いという報告があります。このような方に甲状腺ホルモン剤+アスピリン+ステロイド治療を行うと妊娠率が良くなるという報告もあります。いずれも症例数が少ないデータですので、今後の研究が必要です。

解説:甲状腺ホルモンはT3(fT3)とT4(fT4)であり、それを刺激するホルモンがTSHです。女性ホルモンがE2とPで、それを刺激するホルモンがFSHとLHであるのと同じ関係です。甲状腺機能低下(甲状腺ホルモン低下)ではTSHが増加し、甲状腺機能亢進(甲状腺ホルモン増加)ではTSHが低下します。つまり、TSHがやや増加した状態は甲状腺機能がやや低下しているとも言えます。卵巣刺激(排卵誘発)をすると甲状腺機能がやや低下する場合が多いことが知られています。また、妊娠初期には妊娠ホルモンであるhCGにより甲状腺機能がやや亢進します。以前より、甲状腺機能は低くても高くても流産の確率が増加することが知られており、甲状腺機能を正常に保つことが肝要であると考えられています。このように、甲状腺機能と妊娠の関連は実際に存在するのですが、どこに基準値を設けるのかについては議論が尽きません。