☆メトホルミンの妊娠中の使用 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

メトホルミンの妊娠中の使用について、最新の情報をご紹介致します。「メトホルミンと妊娠」で世界中の論文を検索すると、2015年だけで50件ほどヒットします。その論調は全て「メトホルミンは妊娠中に安全かつ有効な薬物」であるとしています。その中から代表的な2つの論文をご紹介致します。

①Br J Clin Pharmacol Apr 29, 2015(メタアナリシス)
要約:メトホルミンの妊娠中の使用についてRCT研究を行なった8論文1592名を対象にメタアナリシスを行ないました。メトホルミン使用により、妊娠高血圧のリスクが0.54倍に有意に低下しました。また、妊娠糖尿病治療におけるメトホルミンとインスリンの有効性と安全性は同等でした。生まれた赤ちゃんの低血糖、巨大児、呼吸不全、光線療法、周産期死亡率は、メトホルミンの妊娠中の使用の有無により変わりませんでした。

②Drugs in Context 2015; 4: 212282(レビュー)
要約:妊娠糖尿病は母児共に予後不良の疾患です。世界各国でガイドラインが策定され、管理指針が出されています。基本は生活習慣の改善ですが、改善されない場合には薬物療法が行なわれます。従来から使用されているインスリン(注射製剤のみ)に加え、近年メトホルミンとグリブリドの使用(内服薬)について盛り込まれるようになりました。下記の5つの団体から発表されている最新のガイドラインを比較しました。診断、治療の基準、管理の基準などが細かく盛り込まれていますが、治療薬については下記の記載があります。

ACOG(米国産婦人科学会):インスリンと内服薬の効果は同等で、どちらも初回治療に適切
ADA(米国糖尿病協会):インスリンが望ましい、短期投与のデータではメトホルミンとグリブリドはOK(長期投与のデータなし)
CDA(カナダ糖尿病協会):インスリンが望ましい、インスリンを望まない場合はメトホルミンとグリブリド
IDF(国際糖尿病連合):インスリンが望ましい、メトホルミンとグリブリドは安全で有効な次の選択
NICE(ヘルスケア協会):初回治療はメトホルミン、次にインスリン、最後にグリブリド

解説:2008年頃からメトホルミンの妊娠中の使用に関するRCT研究が盛んに行なわれるようになりました。それらの論文をまとめた報告が近年発表され、「メトホルミンは妊娠中に安全かつ有効な薬物」との結論が出ています。

①の論文から、妊娠糖尿病治療におけるメトホルミンとインスリンの有効性と安全性は同等ですが、メトホルミン使用により妊娠高血圧のリスクが有意に低下することから、メトホルミンに軍配が上がります。
②の論文では、インスリン一辺倒だったかつてのガイドラインが、メトホルミンとグリブリドを取り入れるように変更されています。NICEでは初回はメトホルミンとしています。

このように、世界の動向は、メトホルミンを妊娠中に使用する方向に動いています。一方、いまだに日本の薬剤の添付文書には、妊娠中のメトホルミンは「禁忌」と書かれています。このため、知識のアップデートのできていない医療者は、妊娠中のメトホルミン使用を完全否定します。アップデートできている方でも「禁忌」の文言のため使用を躊躇してしまうという日本の現状があります。

下記の記事も参照してください。
2014.2.8「メトホルミンの妊娠中の使用は?」
2014.1.17「Q&A217 移植後のメトホルミン服用は?」
2014.2.13「Q&A251 妊娠中のメトホルミンは?」
2015.8.13「Q&A786 ☆妊娠初期のメトホルミンの服用」