メトホルミンの妊娠中の使用は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

メトホルミン(グリコラン、メトグルコ)の妊娠中の使用について質問がしばしばありますので、最新情報をご紹介致します。

Metabolism 2013; 62: 1522(レビュー)
要約:メトホルミンの妊娠中の使用について記載した論文を系統的に調べました。妊娠糖尿病の治療に、メトホルミンは有効でかつ安全です。しかし、重症の妊娠糖尿病の場合には、メトホルミンだけでは不十分でインスリンが必要になります。インスリンよりメトホルミンが有用なのは、肥満女性に対してです。PCOSの場合では、妊娠全期間を通じてのメトホルミン使用により、流産率低下、早産率低下、低体重児減少が認められます。また、メトホルミン使用により、胎児奇形、胎児死亡、胎児発育遅延は認めらません

解説:最新データによれば、メトホルミンの妊娠中の使用に関する有効性と安全性には問題がありません。しかし、メトホルミンの妊娠中の使用に関するガイドラインが存在しないため、どんな場合に使用するか、いつまで続けるか、用量はどうするかなど全て医師の裁量に委ねられています。したがって、それぞれの医師の知識のアップデート状況や考え方(慎重派、データ重視型)によって、あるいは患者さんの状況によって異なる判断となります。

製薬会社も厚労省も副作用などのマイナスの最新情報はすぐに添付文書に追加記載しますが、プラスの最新情報は添付文書に反映されるまでにはかなり時間がかかります。このため、日本の薬剤の添付文書には、メトホルミンの妊娠中の使用は「禁忌」と書かれたままです。これは、一部の動物実験(ラット)で催奇形作用が報告されているためです。ヒトと動物は異なりますので、動物でのデータをそのままヒトにあてはめることはできません。動物で奇形だがヒトでOKの薬剤もあり、動物でOKだがヒトで奇形の薬剤もあります。

下記の記事も参考にしてください。
2014.1.17「Q&A217 移植後のメトホルミン服用は?」
2014.1.25「Q&A227 メトホルミンの内服時期は?」