【お断り】
現在連載しているブログ記事は、コロナ禍のときに業界関係者と一緒に作り上げたベトナム送出し機関の状況についての小冊子から取り上げたものです。かなり良い出来なのですが、あまりにも内情を赤裸々に書いてしまったものですから、業界関係者の立場から公開せずにしておりました。このままお蔵入りしてしまうのももったいないので、私の責任にてブログに公開することにしました。文面は私の方で多少直しながら、連載していきますので、よろしくお願い致します。
第 2 章 送り出し機関の選び方と見るべきポイント
(1)経営陣
まず、監理団体、或いは実習実施者が送り出し機関と出会うにあたり、一担当者(営業マン)と繋がることが多いです。そして、その営業マンがどれだけ良心的でいい人間であっても、送り出し機関も含め、ベトナムの企業はワンマンであることが多く、契約前に一営業マンを介す必要性はあまりありません。トップの判断で黒が白にもなる為、振り回されることを避ける為にも、可能な限り、トップとやり取りするほうがいいと思われます。
(ただし、良い悪いを抜きに、社長が新規のお取引先との面会はしない送り出しも当然あります。)
最も見るべきポイントは「できない」「大丈夫じゃない」と言えるかどうか、実習生をどのように考えているのか。実習生の費用については、トップに聞いたところで、「3,600USD しか取ってない」としか答えない為、無意味です。(法定手数料 3,600USD、学費 590 万 VND(約 3 万円)の徴収が認められている。寮費・食費・光熱費等の実費については、特に定め無しがありません。ココも、もちろん送り出し先によって違う場合もあります。正直に答えるところもあります。但し、2023年現在、手数料の徴収方法は変更になりました。)
例えば、建設の鳶職ができるかと聞かれ、何の前提条件もなく「できる」と即答するようなトップであれば、付き合いを見直した方がいいです。その他の不人気職種でも、給与等の条件を送り出し機関側から要求できないようであれば、付き合いは見直した方がいいです。
縫製であれば、3 倍は厳しいので、2 倍でもいいですか?10 万円では厳しいので、12 万円にしてもらえませんか?など、極論、求人を断れるどうかです?←「No」と言えるかどうかは非常に大きなポイントになります。
多くの送り出し機関は求人を取ることに必死になっている為、自ら求人を断れるかどうかが見極めやすいポイントであります。
(技能実習制度・経営のビジョンも持っているかどうかも見極めのポイント)
規模は年間何人を目指すのか、何故その人数なのか、教育をどのように考えているか、その答えに対して具体的に何をしているのか、とにかく拡大路線なのか、目の届く人数だけでいいのか、それだけでも実習生に対する考え方がわかります。
会社の事業規模によっても、可能・不可能の範囲が広い為、自身がどういった関係を作りたい、どういった対応を求めるのか、基準・モノサシをきちんと持っておくことをお勧めします。
完全に仕組みが出来上がっている大手の送り出し機関の場合、融通・小回りはあまり効かず、「型」ができあがっている為、個々の監理団体向けにカスタマイズできず、ある程度は、送り出し機関のやり方に合わせる必要があります。
逆に、長年のノウハウを良い意味で蓄積、組み上げている先では、事業開始間もない送り出しより、人材のスクリーニングや教育方法が確立している先もあります。
但し、もちろん、ただ送り出す人数が多いだけで、ロクな教育もせず回しているだけの送り出し機関もあります。
反対に小さい企業であれば、仕組みが出来上がっていない分、小規模な送り出し機関であれば、痒い所に手が届く小回りの効く対応ができる可能性は高いですが、お互いに世話を焼いたり焼かれたりと二人三脚で進んでいく必要があります。
送り出し機関において、名ばかりの代表者も多いので、実質的経営者が誰なのかは把握しておくことが必要です。それから名義借りで実際は直接送り出すことができないところも多いです。そういう事情をきちんと最初から確認しておいてください。外国人技能実習機構のホームページに認定送り出し機関の情報は載っています。
名義借りの場合、その分、借りている大元に費用を支払っています。出国時に 500USD/人という契約を見たことがあります。当然ですが、この費用は実習生の出国費用に上乗せされる為、実習生の余計な費用が増えることになります。又、複数のライセンスを借りて運営しているところもあります。これはリスクヘッジの為で、一方に何かあった場合、トカゲの尻尾切りのように切り捨て、もう一方で運営を続ける為であります。下記の写真のように来客に合わせて看板を張り替えたり、技能実習生の制服を着替えさせたりとしょうもないことをやっているところもあります。実習生を見ても、無駄に大声で騒いだり、上半身裸で歩き回り、タバコをポイ捨てする等、教育の欠片も感じられません。こうしたライセンス借りのところは、事業に対して責任感が稀薄で、技能実習生を金づるにしか見ていない場合が多いので、要注意です。
(上)B 社看板 (下)H 社の看板
来客に合わせて看板の張替を行っています。2021 年 6 月現在、上の送り出し機関は DOLAB より罰金の行政処分で、下の送り出し機関は 6 か月間の停止処分です。借りる側も貸す側もモラルが非常に薄く、2 つ借りて2 つともしょうもないという嘘のような本当の話です。業界関係者ならご存じのTMSグループの関連企業です。
(2)施設
視察時・面接時にレッドカーペット&実習生の大歓迎に気分よくなってる日本人の皆々様。
内情を知らずに手厚く出迎えられれば、誰だって悪い気はしません。そして、このパフォーマンスに気をよくする経営者は多いですが、よくよく考えてみていただきたいと思います。
当然ですが、実習生は、顔も名前も知らないお世話になるかどうかわからない日本人の為に、毎回、彼らが本来すべき日本語の勉強の手を 30 分から1 時間止められています。自社に受け入れた後のことを本当に考えているならば、「お出迎え要らないから、漢字の 1 つでも 2 つでも覚えさせて」と言える人であって欲しいと思います。 又、視察時・面接時は送り出し機関も気合を入れて清掃し、見せられないところには案内しません。見栄えのいいところだけ見て、のせられないように注意が必要です。
・事務所と教職員室
送出し機関は「5S を徹底しています」と言いますが、スタッフができていなかったら、口だけの営業トークと受け取って良いと思います。(当社も口酸っぱく注意していますが、なかなか整理整頓ができないベトナム人スタッフは多いです 汗)
・トイレ等の水回り
トイレ内のごみ箱、水アカがそのままである場合が少なくありません。来客に合わせて水を撒いただけの為、水浸しであることも多いです。普段からやっていない為、ボロが出ます。(当社は来客用と生徒用のトイレは分けてあります。送出し機関に来て初めて水洗のトイレを見る実習生も多いので、掃除の仕方を知らず、汚す子も多いです。)
・ゴミ箱
そもそもベトナムでゴミの分別は行っておりません。ですから、送出し機関で分別を教えていると言っても、それは日本から来訪する方々へのパフォーマンスであります。ゴミ箱にも「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」等と書いてありますが、蓋を開けたら、ぐちゃぐちゃということもよくあります。都道府県どころか市町村単位で異なる分別方法を実習生ごとに教えるのは不可能であります。入国してきた実習生が「分ける」意識があれば御の字と思ってください。過度な期待はしないように、来日してから改めてしっかり分別を教えてください。
・掲示物
日本についての様々な注意・情報が張り出してありますが、教室で実習生に内容について聞いてみましょう。(実習生に質問をする場合、自前の通訳を介すことが望ましいと思います。これは如何なる場面でも同じことが言えます。送出し機関の通訳・教師を介すと都合の悪い答えを隠す場合が非常に多いです。面接でも実習生の答えを脚色・隠蔽が日常茶飯事であります。)
見たことも読んだこともない、単なる客向けアピールであることが多いです。
・教室
最も大切なことはクラスの人数です。20 名未満が望ましいです。
ベトナムの一般的な送出し機関に勤めるベトナム人教師の能力で 20 名以上の実習生を見切ることは不可能であります。20 名を超える場合、惰性で教科書を教えるだけとなり、日本語能力には全く期待できません。
できる実習生のみが上手になり、落ちこぼれを引き上げることができません。採用する実習実施者にとってはできる実習生にあたるかどうかは運次第となります。又、何名であってもなぜその人数に区切っているのかの根拠を確認するといいと思います。
先の掲示物と同じく、教室内にも様々なものがありす。漢字、交通標識、「注意」「禁止」等の工場内掲示等がありますが、読めるかどうか、意味がわかるかどうか実習生に聞いてみると良いです。貼ってあるだけかどうかがわかります。
・寮
正直、どこも作りは同じです。二段ベッドが並んでいる部屋が一般的で、来客時には気合入れて清掃させる為、大抵綺麗に仕上がっています。ここが綺麗でもあまり意味はありませんので、良い管理をしていると勘違いしないようにしてください。
また、寮にエアコンを設置してあるかどうか確認してください。実習生を大切にしている送り出し機関なら、エアコンを設置してあります。
・その他
可能なら、案内されないところに案内するよう希望を出すことも良いと思います。例えば、屋上です。イベント会場や物干し場になっている送り出し機関が多いので。本来案内コースに入っていないところこそ、通常の状態が見られます。
(3)教育内容
教育内容の確認にあたっては、「日本語教育に明るい者」(有資格の日本語教師が望ましいです。或いは、自前で講習施設を持っている監理団体であれば、施設長も可です。) を同行することが望ましいと思います。日本語能力に重きを置く監理団体であれば、同行は必須です。「厳しくやってますね~」という薄っぺらいコメントで終わらないようにしてください。文法を教えるのはベトナム人教師です。会話を教えるのは日本人教師です。実のところ、ベトナム人教師の質がその送り出し機関の日本語教育能力を示すものだと認識しておいた方がいいと思います。
(チェックポイント)
・進度
残念ながら、工夫もなく、教科書をダラダラ教えるだけの送り出し機関が多いです。「3 か月で N5、6 か月でN4」と答える送り出し機関が多いと思われますが、これは「終了」であり、「修了」ではないことを理解してください。教科書を教えるだけなら、3 か月で可能ですが、学んだことを実際に使えるかどうかは別です。教師の能力に関わらず、頭のいい学生のみが 3 か月で「修了」できます。
学生に一日何時間勉強しているか、聞いてみてください。もし 6 ヶ月で N4 を標榜しているのなら、一日最低10 時間以上の勉強をしているはずです。
・教師の能力(JLPT/実際の会話)
JLPT の「N」は実際の能力に比例しないものの、指標の一つではあります。又、単純に N3 より N2 の方が、人件費が高いので、教師に占める N2 保有者の率を見ることで、本気度を測ることも可能です。特に介護の実習生を受け入れる場合、N4・N3 合格を目指す為、N3 の教師では当然力不足であります。
但し、送り出し機関によっては、教師の能力を把握した上で、モニター授業等を実施することで、教師の能力に左右されないようにしていることもある為、「教師の能力不足に対する対策」は要確認です。送り出し機関は基本的に「当社の教育は素晴らしい!」と自信満々に答えますが、結果が伴っている送り出し機関は恐らく両手で数えて余る程度です。「素晴らしい」のであれば、何がどう素晴らしいのか、具体的に聞いてみるのがいいでしょう。間違っても「経験豊富」「情熱・やる気に溢れた教師陣」とかいうテンプレを鵜呑みにしないようにしてください。
モニター授業用の Power Point 資料
又、実際に教師と話をしてみてください。ほぼ、全ての送り出し機関で実習生上がりの者を教師として雇用しています。単に「元実習生だから」「N3 があるから」というだけの場合が多いです。教師と会話することで、ボロが出ることも少なくありません。教室で学生に質問しながら、教師の態度をチェックするといいと思います。
⇒ 送り出し機関の選び方と見るべきポイント ② へ続く